タブレット交換〜鉄道を動かす男達〜

タブレット交換
〜鉄道を動かす男達〜





重垣:イベントの日も365日のうちの一日。鉄道の使命、定時発着と安全輸送に総てを賭ける男達の姿を、VIPERさんに描いていただきました。
宗村関東地方では珍しく積もるほど降ってきた雪のクリスマスイブの夜。世間ではホワイトクリスマスだといってカップルが街に繰り出すときも、ほとんど乗客がいない、下りの気動車を定刻どおり発車させるべく、前の駅のタブレットを受け取り、「通票三角」と気動車運転士に新しいタブレットを渡す瞬間です。
重垣:『鉄道員ぽっぽや』のスチルショットのような瞬間ですね。
宗村今でも関東地方では、久留里線でタブレット交換が行われています。19世紀に鉄道が実用化されたと同時に開発された、一番単純にして安全、確実な方法ですから。
高村タブレット交換はJR初期まで、ローカル線ならどこでも普通に見られた光景です。関東地方では電化される前の八王子-高麗川間の八高線、埼京線と直通させる前の川越線、川越-大宮間でも行われていました。それに、雪。確かにホワイトクリスマスで絵にはなりますが、関東地方は雪がほとんど降らないので、鉄道は雪に慣れていません。電化線区では着雪による架線切断や凍結がないよう、終電後も臨時ダイヤを組み、一時間に一本程度の除雪列車を走らせ、ポイントには凍結予防の灯油ランプ、通称カンテラを入れます。さらに、運行指令、駅、車掌区、運転区、保線区、給電区が一丸となって、臨時ダイヤの編成準備、予備乗員・勤務者の確保、振替輸送の準備、着雪、架線切断、ポイント凍結の監視と応急処置の準備という、雪と戦う準備もしなければなりません。
重垣:ところで、関東地方だといっていますが、駅名表示板は『鉄道員ぽっぽや』の舞台になった幌舞になっていますし、高村さんは気動車を動かせる甲種内燃車操縦免許は持っていないでしょう。タブレットを受け取っても、気動車を発車させられませんよ。
高村今回俺は、運転士見習とでもいうべき存在の、運転助士として乗務しているんだ。隣には本職で、免許を持った気動車運転士が乗務しているから、列車の運行に支障はないわけ。
宗村それに、いつだったか乙松助役が言いませんでしたか、「十日市場駅は『鉄道員ぽっぽや』のロケハン候補地になった」と。車両とタブレットは、本物です。国鉄色の単行気動車が走る単線区間なので、ロケを張らせてもらったんですよ。そこへきての雪ですから、絶好のロケハン日和ですよ。
高村この作品は、タイアップの「クリスマス・恋人達のピンナップ」といった企画に対抗する目的もあるんだ。何回か重垣さんにも紹介してもらったとおり、制服姿に私情を隠し、365日中の一日としてその日を過ごす人達がいるからこそ、タイアップ企画で描かれている連中が、クリスマスイブだ何だと騒げるわけなのさ。
宗村よく言えば反骨精神の持ち主、悪く言えば偏屈者ですからね、僕らは。
重垣:いやあ、そういう設定だったんですね。レイヤーズのロケにしても、本物を思わせる風格が出ています。制服姿に私情を隠し、男は今日も、駅に立つ…そんな雰囲気です。それに、偏屈者だといいますが、何回かこのシリーズで取りあげたように、宗村さんのように、イベントの日もただの1日として働く人がいるからこそ、クリスマスだ、正月だ、バレンタインだ…と騒げる連中がいられるんですよね。
宗村:それに、僕らにこういうイベントは、似合わないし。
高村それどころじゃあないんだよな、お互い。ムネさんは現役の鉄道員だし、俺はクリスマスとお年玉商戦でおもちゃ屋、模型屋に品物を卸してまわらなきゃあならないうえ、レイヤーズと消防団の防犯パトロールもあるからね。
宗村この職業につこうと決めた日から、覚悟はしていましたがね。一抹の寂しさを覚えるときも、なくもないですね。(迷いを振り払うように、腕時計を見て)高村、そろそろ時間だぞ。
高村承知(腕時計を見る)。列車番号143-A、通票三角、定刻で発車。(といって気動車の運転台に戻る)
宗村(時計を見たあとで緑の手旗を振り、笛を吹いて)…出発、進行!
高村出発、進行!(気動車が発車する。宗村、タブレットを手にして駅舎に戻り、次の駅の駅長に連絡する。「列車番号143-A、定刻で発車」)
重垣:え、えっ、ロケハンじゃあなかったんですか。参ったな、駅に取り残されてしまいました。ともかく話を終わらせなければなりません。このイラストは、作者がOMCを通じ、クリエーターのVIPERさんに描いていただいた作品です。無断転載、無断引用は、お断りします。