警察署史編纂資料
〜双子と他人の空似〜
交番、駐在所の勤務者の任務の一つに、巡回連絡がある。一人暮らしや老人だけの所帯はもちろん、銀行や商店など防犯上注意すべきところを中心にまわり、受持区内の住人の困りごとの相談や、話し相手になったりする。
もちろんそのとき知った事柄のうち、警察が処理できないものは民生委員や自治体の担当者などに連絡し、警察が処理するものはこちらで処理する。
巡回連絡は、一週間に一回、決まった日、決まった時間に行う。日勤者の仕事になので、当直勤務の熱川・清水の二人が警ら、園田が立番に出たのと同時に、守村義衛巡査は、巡回連絡簿の入った鞄を片手に、受持区内を歩いていく。
一軒目、老夫婦だけの家にやってきた。子供は独立して、仕事の関係で別のところに住んでいる。猫が何匹もいるので、猫屋敷とも言われている。
「こんにちは、坂下交番の巡回連絡です。」
玄関の前で声をかけると、縁側のほうから、猫を抱っこした老婦人が返す。
「あれ、あなたは一週間前に来た巡査さんと同じ人ですよね。双子ですか、弟さんかお兄さんがいるんですか…?」
守村は庭に回り、縁側に腰をおろして返す。
「いやあ、兄弟はいますがね、警察官にはなっていません。それに、前回来たのは宗村といいまして、全くの別人ですよ。」
「いえいえ、ご冗談でしょう。これだけ似ているのに、血のつながりはないんですか?」
これは、折から出かけていた老翁。
「参ったなあ、ほら、こっちに写っているのが宗村で、隣りがわたしですって。」
たまたま持っていた写真を見せたが、二人は、
「ほら、そっくり。」
「双子か兄弟でしょう。」
と、なかなか信用しない。しかしこの一軒だけにかかずらっているわけには行かないので、話題を変え、しばし世間話をし、別の家へ向かった。二軒目は酒屋だ。
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昼過ぎになって、守村は交番に戻る。
「いやあ、一軒目のじいちゃんばあちゃんは、いくら俺とムネさんが血のつながりがないって言っても、信じてくれないんだよ。」
報告書を作成している宗村高光巡査は、返す。
「同じことを、僕も言われたね。次は本人が来るから確めてくれって言って、次の家に行ったんだけどね。守村も同じ事を言われたか。」
すると、守谷ジュン、守谷衛子の双子の姉妹が話に入ってきた。
「確かに守村さんと宗村さんは、似ているわよね。初めて見たとき、双子かと思ったもの。」
衛子が言うと、ジュンが次ぐ。
「眼鏡のフレームの色とか、しぐさとか、微妙な点でしか区別できないからね。後姿なんかそっくりだし。」
宗村はペンを置き、次ぐ。
「逆に、君ら双子は初め見たとき、僕は年子だと思ったよ。」
守谷ジュン、衛子の姉妹は本物の双子だが、行動、性格、外見は正反対。ジュンはせっかちで言動、行動ともに男勝り、衛子はのんびりおっとり。制服の着こなしも、ジュンはズボンスタイルが多いが、衛子はスカート。黒髪ロングの衛子、ショートカットのジュン。似ているのは、顔立ちと体格だけだ。
一方の宗村、守村の二人は血のつながりは全くないが、年令、体格、髪形もほとんど変化がない。顔立ちも似てなくもないうえ、ほくろなど微妙な差しかないし、遠くから勤務中の姿を見たら、同一人物と勘違いしても無理がない。
だからというわけではないが、坂下警察署や坂下交番には、双子が二組いると言われている。
「年子ねえ…。確かに、あたしたち二人は正反対の性格だから、勘違いされても仕方ないわね。」
衛子が言うと、ジュンが次ぐ。
「双子って言ったって、コピーじゃあないからさ。性格や行動までは似ないよ。」
守村が、次ぐ。
「今回のできごとは、一般の人たちが顔を見たとき、どれぐらい特長を押さえられるかを知るには、ちょうどいい実験になったね。次回の巡回連絡は、双子のジュンと衛子が行ってみたらどうだい。二人がどう返してくるか、聞きたいね。」
「そうしてみるわ。」
「やってみたいものだね。」
ジュンと衛子で、返って来る言葉はぜんぜん違う。顔は同じだが、正反対の性格の双子。
それを見る、守村義衛と宗村高光。顔は似ているが血縁関係は全くない、他人の空似。
いつもは事件、事故の話ばかりだが、今回は違う。
何も起こらないのが、本来の姿。
ある日の、坂下交番の光景。