トラフィック戦隊 アンゼンジャー
ある日のM.U.D対策室
午前8時30分まで針はあと1分しかない。室長の湯朝明宏警部が腕時計を見る。
「夏実、夏実、早く早く!」
鉄道警察隊にいたことある湯朝の腕時計は、狂うことのない電波時計だ。
すでに、他のM.U.D対策室の面々は、そろっている。
「…あと30秒。…29、28、27……」
「だわ〜、滑り込みセーフ!」
「あと30秒もないがね。」
出向前と同じ光景。ニトロ噴射トゥディを操る、メカに詳しい小早川美幸と、怪力のバイク乗り辻本夏実のコンビは、ストライク男や「走り屋」の対応になれているから、警視庁墨東警察署から出向してきた。
M.U.D対策室は、極秘ではない。だが、なぜか専門のスタッフは湯朝明宏警部、安野全次郎刑事、園田方哉巡査、永井美幸巡査だけで、あとは総て兼任である。犬養高美巡査部長、小早川美幸巡査、辻本夏実巡査は交通課兼務。甲田雅一郎巡査、佐々木久雄巡査、曽根史郎巡査、高木聖大巡査は地域課兼務。成見悠子巡査長は生活安全課、守屋ジュン巡査、守屋衛子巡査長は警務課兼務だ。
さて。警察署や交番で勤務する者は就勤前に、一日一回装備品の点検を受ける。これを通常点検と呼ぶ。
「整列!」
白バイ隊の乗車服姿の犬養の号令で、私服の安野刑事を含めた全員が、身長順に整列する。ほとんどは現行の平成6年式制服だが、M.U.D対策室は一筋縄ではいかない。というのも、犬養は白バイ隊だし、昭和10年式制服の甲田、昭和21年式制服の佐々木、昭和27年式制服の曽根の三人は時代も所属も超越して出向している。安野刑事は大安全マン、犬養、成見、守屋姉妹はブルー・ユニッツに変身する。
さらに、制服と活動服の差もある。地域課の高木は活動服だが、あとの面々は制服姿。守屋ジュン以外は最近は貴重になったスカート姿で、いつもはアニメ・漫画でおなじみの、二人で行動するのにまちまちの格好でいる、無帽、腕まくり、夏ならブラウスのボタンをあける…など着装規定に反する姿の夏実・美幸コンビも、このときばかりは制帽を被り、制服の上着を着用する。
「M.U.D対策室室員、現在員12名そろいました。」
「通常点検、開始。」
犬養の号令で、通常点検が始まる。
「手帳!」
各人、左腰ポケットから警察手帳を出す。甲田、佐々木、曽根の三人は黒い革表紙に「千葉県警察」だ。
湯朝が全員持っているのを確認すると、犬養が続ける。
「収め、手錠!」
手錠を装備するのは、外勤の面々だけだ。甲田と佐々木は手錠ではなく捕縄で、麻の縄になる。縄の場合はいったん解いてまた巻きなおすが、これは省略する。
「収め。警笛!」
夏実、美幸は警笛モール、犬養、曽根、佐々木、高木は銀色の鎖、甲田は腰ポケットから警笛を取り出すが、時代を反映して犬養、夏実、美幸と高木はプラスチックだが、甲田、佐々木、曽根は銀色金属だ。
「拳銃!」
拳銃装備の佐々木、曽根、高木だけがやる。佐々木は旧軍移管の十四年式、曽根はアメリカから貸与されたコルト・オフィシャルポリス、高木はニューナンブの3インチモデルをそれぞれ、拳銃嚢から取り出す。
「弾倉をはずせ」
自動式はいったん弾倉を、回転式は輪胴を銃本体からそれぞれはずし、弾を出す。
「弾倉をはめ」
自動式は弾倉を戻し、回転式は輪胴をつける。
「収め」。
拳銃嚢に戻す。ついで、佩刀装備の甲田のための号令。佐々木、曽根も木製警棒だが、ついでに行う。
「抜けー、刀」
軍隊の「抜けー、剣」と同じ動作で、甲田はサーベル風こしらえの鞘から刀を抜き、佐々木、曽根は警棒吊りから警棒を抜き、肩で止める。甲田の刀は無銘の日本刀とはいえ、切れ味は冴えている。
「収め。警棒!」
今度は特殊警棒を装備する、夏実、美幸、犬養、高木のための号令。
腰の警棒吊りから取り出し、左手に、警棒を乗せる。
「伸ばせ」
特殊警棒を伸ばす。
「収め」
警棒吊りに戻す。
これで、日常点検の総てが終わる。
「湯朝点検官殿に対し、敬礼!」
湯朝は私服の背広なので、普通のお辞儀で答礼して、一言。
「今日は2月の3日、節分で成田山へ向かう人が多いだろう。M.U.Dが出るかもしれないから、そのつもりで任務に当たってほしい。」
「はいっ!」
地域課兼務は、幕張メッセ交番の徹夜勤務の第4当番と交代し、交通課兼務は交通課、生活安全課兼務は生活安全課で当直と任務を引き継ぎ、警務課兼務は事務処理にかかる。
M.U.D対策室は四人になってしまうが、ハシリーヤ関係の情報処理などで忙しくなる。
永井が言う。
「いつもの日々が、始まったわね。」
園田が返す。
「そうだね。」
千葉西警察署M.U.D対策室の、いつもの光景。