トラフィック戦隊 アンゼンジャー外伝〜M.U.D対策室の人事

トラフィック戦隊 アンゼンジャー外伝
M.U.D対策室の人事〜


 「交通秩序を乱すことで世界征服をもくろむ」史上最凶の走り屋、マッド・ハシリーヤ将軍率いるM.U.Dに対抗するべく、47都道府県と皇宮警察から選抜された警察官で結成されたM.U.D対策室…と切り出せば威勢がいいが、専任は4名で、残りは全て、他の部署との兼任である。
 数少ない専任
4名の内訳は、室長の湯朝警部と大安全マンこと安野全次郎巡査。通信・情報分析担当の永井美幸巡査と園田方哉巡査。 書類上は専任だが、他と同じく、手が足りない部署への応援にも行く。
 兼任がほとんどなのは、
M.U.Dが神出鬼没なので、こちらもいつでも動けるようにしておかなければならないのと、警察署の定員の関係がある。
 よって、兼任組のほとんどの所属は、制服勤務で外勤活動の多い交通課と地域課だ。

 今日も今日とて、
M.U.D対策室も関わる交通課の中の部署の一つ、ひき逃げ、当て逃げなどの捜査にあたる交通捜査係の手伝いを終え、M.U.D対策室に戻ろうとしていた湯朝警部のところへ、警務課の守屋衛子巡査長がやってきた。
 「室長殿、前々から要望していた増員が認められました。
41日付で配属とのことです。」
 「増員が認められたのか。で、何人だい?」
 「内勤専務要員
2名と外勤要員1名の計3名。外勤要員は地域課兼務。いずれも出向です。」
 「うーむ。外勤要員は兼務か…。」
 似ているのは顔立ちと体格だけ。髪型、行動パターン、発想すべて正反対の「似ていない双子」の守屋衛子巡査長・守屋ジュン巡査の姉妹は、
M.U.D出現時には変身ヒロイン・ブルー・ユニッツとなる。一世代前の警察官制服をベースにデザインされたコスチュームはドクター・ヨイデガンスが開発したもので、二人の怪力を増幅し、人間とは思えないレベルにまで拡大する機能がついている。このシリーズで触れたように、加速度のついた天然ガスローリーや、高速で走っていたピラレディXYZを止められたのは、そのためだ。
 筋肉質のボディで、日本人女性にしては優れた
180センチの長身、柔道の有段者のジュン、剣道の有段者の衛子の守屋姉妹のM.U.D対策室兼務前の所属は、機動隊だった。M.U.D対策室兼任の辞令が発令された日から、民間企業や他の官公庁でいう総務課、経理課といった部門に相当する、警務課勤務になっている。
 警務課は、勤惰管理や給与計算、備品の維持管理から広報、困りごと相談まで引き受ける。なんでもありの内勤事務部門である。さらに、警務課には重要な任務がある。警察署勤務者の拳銃と警察手帳の管理である。本来は警察手帳と拳銃は貸与で、勤務している時は常に持ち歩かなければならないが、昭和
20年代にサーベルから拳銃に武器が代わったとき、拳銃の紛失、盗難が相次いだのと、昭和30年代に大規模災害発生などの緊急事態発生時を除き、原則私服で出退勤するようになってから、警察署勤務者の拳銃に加え、警察手帳も紛失を予防するため警務課が預かり、就勤前に本人に返し、勤務明けに再度預かる形を取っている。
 よって、刑事ドラマでよくある、私服刑事が出勤途上に事件を発見し、警察官だといって警察手帳を出すシーンは、時代設定が昭和30年代以降の作品では、フィクションになる。

 湯朝室長が署長を通じ、本部に要望していたのは、
M.U.D対策室の増員である。M.U.Dが出れば非番だろうが何だろうが、対策室員は行かなければならない。だが、兼任の場合はすぐに対処できない場合もある。地域課兼任・幕張メッセ前交番勤務の甲田、佐々木、曽根、高木。交通機動隊兼任の犬養、首塚。交通課兼任の辻本・小早川は、他の事案の処理に当たっていることも多い。で、本部で支援するはずの園田・永井も出動しなければならなくなり、本部には非常勤警察技官となった、ドクター・ヨイデガンスしか残らない場合もあった。
 湯朝警部は、衛子巡査長が渡した人事考課書類の入った封筒を片手に、返す。
 「
M.U.D対策室の性格上、外勤専従が欲しいところだが、この際ぜいたくは言っていられないな。いったいどういう顔ぶれだろう…。」
 
 41日。新年度。正式に辞令が交付される日。
 M.U.D対策室には、全員が揃っていた。
 背広姿の湯朝警部、安野巡査。
M.U.D対策室専従内勤の、永井美幸巡査、園田方哉巡査。
 警務課兼任の、守屋ジュン・衛子姉妹、生活安全課青少年係兼任の成見悠子巡査長。警察学校射撃助教兼任の守川あずさ巡査部長は、普段めったに見ることのできない、三つボタン背広型の制服にスカート姿。男勝りのジュンはスラックスだ。
 続いて、交通課兼任組。青いライダースーツ式の乗車服姿の、犬養高美巡査部長、首塚晴美巡査部長はバイクに乗っていないので、野球帽型の略帽を被っている。いつもはアニメ版『逮捕しちゃうぞ』でおなじみ、無帽でワイシャツ袖まくりの辻本夏実巡査・同じく無帽でベスト着用の小早川美幸巡査も、今日は制服・制帽姿である。
 その隣が、地域課兼任組。詰襟
5つボタンに肩章、左腰には白銀のサーベルを吊った、昭和10年式制服の甲田雅一郎巡査。5つボタン開襟式で、左腕に逆V字の階級章がつく、昭和21年式制服の佐々木久雄巡査。同じく4つボタン背広型襟で、腰ポケットは飾りの昭和27年式制服の曽根史郎巡査。
 佐々木・曽根の、帯革に拳銃、手錠嚢、警棒をつける着装は長年見られたので、警察官だとすぐ分かるが、詰襟で白銀のサーベルを吊った姿を知っている世代はほとんどいなくなっているので、甲田は学生に間違われることもあり、警察手帳を見せて、身分をいちいち説明しなければならない場合もある。
 その隣が、平成
6年のモデルチェンジで定められた、作業ブルゾン式の活動服姿の高木聖大巡査と清水清司巡査部長。
 これで、帯革に装備をつけ、腰ポケットは飾りなのは同じだが、階級章が襟につく昭和
32年式、43年式があると、昭和・平成に制定された、歴代制服が揃う話になる。
 犬養が、挙手の礼…一般に敬礼と聞いて想像する姿…で、湯朝警部に報告する。
 「
M.U.D対策室室員、揃いました。」
 湯朝は、全員がいるのを確認して、切り出す。
 「本年度、長いこと要請していた増員が認められた。残念ながら外勤要員は兼務だが、今日から勤務についてもらう。各人から自己紹介を。」
 湯朝から少し離れた位置に立っていた、黒髪ソバージュで長身の婦人警察官から、自己紹介が始まる。
 「警視庁墨東警察署交通課より出向。双葉葵巡査長。」
 その隣の、黒髪ロングで黒ぶちの眼鏡をかけた、小柄なほうが次ぐ。
 「同じく、警視庁墨東警察署交通課より出向。二階堂頼子巡査。」
 「葵ちゃんに頼子!?」
 墨東署から出向している辻本夏実・小早川美幸が驚くのを見て、湯朝警部は次ぐ。
 「前々から要請していた、内勤要員はこの
2人だったんだ。墨東署のときと同様、息の合った連携プレーを期待しているよ。」
 「はいっ。」


「男装の麗人」渋川梓巡査(左)と「女装の達人」双葉葵巡査長(右)クリックすると拡大されます。

 続いて、背広襟で襟に階級章がつき、4つボタンで帯革に装具をつける、昭和43年式制服で、左目が前髪で隠れた長身の男性が次ぐ。小柄なメガネっ娘の二階堂頼子の隣だから、なおさら高く見える。
 「群馬県警察本部、渋川警察署地域課より出向。渋川梓巡査。」
 「こういう髪型、ありなのか?」
 甲田が言うと、佐々木が次ぐ。
 「さぁ。高木君なら分かるだろう?」
 年代と時代が一番近い、高木に話が振られる。
 「俺…いや、自分も、こういう髪型ははじめて見るっす。」
 湯朝警部は、続ける。
 「渋川巡査は、自動車警ら隊の兼任となった。」
 「なぜ、自ら隊なんですか。」
 「制服姿の威圧効果による治安の確保のため、制服警察官を第一線に出したい地域課も増員要請を出していたので、それに便乗する形になったのと、現場へ急行できる者を増やしたいからだ。渋川巡査は、高度の運転テクニックを有している。群馬県は、全国で一番の自動車保有率だ。だからというわけではないが、違法改造による速度超過・危険走行を平気で行う連中もいる。その中で渋川巡査は、現行クラウン・セドリックやスカイラインなどで追いつけなかった違法改造の速度超過常習犯を、クルーで追い詰め、何人も検挙している。」
 「クルーで!?」
 「クルーって、あのクルーですよね。」
 夏実・美幸コンビの声が重なる。
 日産が教習車・タクシー用に開発した、クルーを警ら用自動車として採用した都道府県がある。確かに普通に街中を走るには、癖がなく、長時間乗っていても疲れないクルーは向いている。だが、一旦違反車両を発見したり、現場へ急行しなければならない警ら車両には出力不足だという声があがり、継続採用はしていない。トヨタが同様の目的で開発したコンフォートもである。しいて言うなら、コンフォートは初代クラウンを思わせる、真のセダン型車両といった外見なので、千葉県警察本部が
1台、幕張特機シリーズの予備車両、幕張特機4として、円筒形赤色回転灯、機械式サイレンを装着して配備している。
 「それで違反車両を追い詰めるとは…。只者じゃあないわね。」
 美幸が言うと、渋川は返す。
 「
550CCのミニパトカーで追い詰める、辻本さんや小早川さんには及びませんよ。」
 「あれは、チューンしているけどね。」
 しばらくざわついたので、それが収まってから、湯朝警部は言う。
 「みんな、聞いて驚くな…といっても無理かもしれないが、双葉巡査長は女装の達人、渋川巡査は男装の麗人なんだ。」
 「男装の麗人に女装の達人!?」
 「これまた、どえらい連中を集めてきたもんじゃ。」
 「時空を越えた出向者の次は、女装の達人と男装の麗人…。」
 当の双葉巡査長と渋川巡査は、澄ましたもの。
 「隠していても、いつか知れてしまうものですから。」
 「それなら、最初から正体を明かしておこうと思いましてね。」
 「甲田さんの時代でしょ、男装の麗人、川島芳子って。」
 成美に袖を引かれて、甲田は返す。
 「わしは、よく知らん。佐々木や曽根のほうが知っておる。」
 曽根が、引き取る。
 「甲田さんの言うとおり。敗戦後の報道で存在を知ったからさ、僕らは。」
 これは、曽根のいうとおり。敗戦で帝国陸海軍がなくなってから国民が知ったことは多い。例えば、長らく警視庁警察学校、警察大学校があった中野の駅前は、電信第
1連隊、鉄道第1連隊、憲兵学校、通信学校といった各種軍の学校・部隊があり、その中に中野学校という名前の学校があった。これがスパイ・後方撹乱要員を養成するためだったとわかったのは、敗戦後である。
 フィリピンはルバング島で反攻の機会をうかがっているうちに発見されて、「終戦の詔勅が出て、戦争は終わったから日本へ帰ろう」という周囲の説得も「命令が解かれない限り動かないし動けない」と聞き入れず、元の上官が現地へ赴き、「任務を解く」と命じてやっと帰郷に応じた小野田少尉がそこの出身者なのは、有名な話である。
 憲兵も戦地では同様の任務につくこともあったのと、同じ敷地にあったため、中野学校と憲兵学校は混同されることもある。
 ましてや清朝の満州貴族が実父、大陸浪人川島浪速の養女になり、「男装の麗人」として日本の各種諜報・謀略活動に関わったため、敗戦後、国民政府によって死刑になった川島芳子の存在は、昭和
14年の広島県警察部音戸警察署多甚古村駐在所から出向している甲田雅一郎が知るわけはない。
 「双葉巡査長、二階堂巡査は
M.U.D対策室専任の職員だ。渋川巡査は先ほどもいったように、自動車警ら隊の兼任。外見上は女性と男性なので、同等の任務についてもらう。みんなも、そのつもりで。」
 「はっ。」
 湯朝の一言で解散となり、兼務組は各人の部署へ向かう。
 
 交通課兼任組はガレージで、またも驚かされた。
 「愛車です。出向先でも活躍できると思い、つれてきました。」
 渋川巡査の乗ってきた、クルーが止まっている。無論、「群馬県警察」は「千葉県警察」に変わっており、ナンバーも習志野になっている。
 外見は幕張特機
1の初代クラウン、幕張特機4のコンフォートと同じく、円筒形の赤色灯に機械式サイレン、鉄ホイールだ。クルーも角ばっていて、デザインが古風だから、今のブーメラン型赤色灯より、円筒形か角ばった長方形の赤色灯のほうが、絵になる。
 渋川巡査がM.U.D対策室要員を志願した理由は、交通秩序を乱す
M.U.Dが許せないのと、M.U.D対策室が初代クラウン、白の三菱ジープを装備していることの二つ。カタログデータのスペックで走らせられるよう、整備点検は怠らないが、毎日走るので10年持てばよいほうの耐久消耗品になってしまう警ら用車両だが、初代のクラウンと三菱ジープをレストアし、大切に乗っていると知った彼女は、車の外見に合わせ、動きやすい昭和43年式制服の「男装の麗人」となり、赴任したわけである。

 兼任組が各人の持ち場に散って、一段落ついたのを見計らった永井が、湯朝にお茶を出した。
 「すごい人事ですね。男装の麗人に女装の達人なんて。」
 湯朝警部は、微笑んで一言。
 「なぁに。
M.U.D対策室は一筋縄じゃあいかない連中の集団。墨東署交通課長並の神経がないと勤まらないよ。墨東署の2人は、前々からM.U.D対策室に呼んでほしいと課長に頼まれていたし、渋川は群馬県に行ったとき、その腕前を見込んで、それとなく頼んでおいたんだ。だが、男装とは聞いていなかったな。」
 
 時代を超えた出向者、メカフェチ気味に怪力大食のペアと「似ていない双子」の怪力姉妹。身長を自由自在に変えられる異星人、男装の麗人と女装の達人……。
 一筋縄でいかない部下を率いて、
M.U.D対策室は、これまた一筋縄ではいかない相手、ハシリーヤ将軍以下の活動を阻止すべく、今日も勤務につく。