トラフィック戦隊・アンゼンジャー外伝
〜男装の麗人と女装の達人〜


 M.U.D対策室は、相手が神出鬼没で、いつどこに出るかわからないから、制服姿で警察活動の第一線にあたる、地域課と、M.U.D対策室の主体である交通課の兼任が多くなる。
 過去の世界から
M.U.Dの暴れる姿に義憤を覚え、所属はおろか時空を越えて出向してきた甲田雅一郎、佐々木久雄、曽根史郎の三人は、幕張メッセ前交番勤務である。だが、出向前の時代にはなかった法律、廃止になった法律、警察が関与しなくて済むようになった手続きなどを知らなければ外勤活動に出せないので、1か月千葉県警察学校で現在に対応する生活訓練と学科教育を受けさせてから、就勤させている。
 地域課兼任者は、自動車警ら隊にもいる。「男装の麗人」、「メデューサの一睨み」の二つ名を持つ、渋川梓巡査長である。
 彼女は、群馬県警察渋川警察署からの出向。タクシー・教習車向けに開発されたニッサン・クルーの警察仕様で、数々の違反車両を摘発している。それに、前髪に隠れていない右目から出る鋭い眼光。心にやましい所のある者は、目線を合わせただけで固まってしまい、男性警察官でももてあます、悪質な交通違反者ですら魂を抜かれたかのように従順になる。これを、「メデューサの一睨み」と呼んでいる。「現代に生きるデュラハン」とうわさされている、白バイ隊の首塚晴美巡査部長と並んで、湾岸高速の「走り屋」や暴走族には、恐れられている。
 もともとボーイッシュな姿を好み、渋川警察署時代も活動帽+活動服+活動ズボンで、腰には「三点セット」、拳銃、警棒、手錠を装備していた彼女は、
M.U.D対策室の所有する初代クラウンや、初代クラウン風コンフォートに合わせ、愛車のクルーも、ブーメラン型内蔵電子音サイレンのパトライトは、円筒形タイプにし、サイレンもブゥーに近い、重々しい音を出す機械式に取り替えた。無論、フェンダーミラーのままだ。
 着装も車に合わせ、
M.U.D対策室の特例、過去の制服が着用できるので、昭和43年制定、51年マイナーチェンジ、昭和戦後型警察官制服の集大成、四つボタンで帯革に装備をつける昭和43年式制服で乗務している。
 
M.U.D対策室では男装の麗人だと正体を明かしたが、地域課、自動車警ら隊では、長身で、自動車を扱った漫画の主人公のライバルのような髪型をしている、男性にしては線が細く、声のトーンが高い人として接している。
 地域課・自動車警ら隊の婦人警察官の中には、悪人を「メデューサの一睨み」で文字通り石にする三白眼から出る鋭い眼光に射抜かれて、ひそかに思いを寄せる者もいるらしい。

 さて。渋川の所属する、自動車警ら隊も出動前には、他の部署と同じく点検を行う。現行のクラウン、セドリックはもちろんクルーもあるが、昭和
43年式制服の渋川と、円筒形赤色回転灯、機械式サイレンの幕張特機5のクルーは、目立つ。初代クラウンの幕張特機1、ニトロ噴射機能まで搭載した、警視庁墨東署名物、カスタマイズトゥディの幕張特機2、三菱ジープの幕張特機3、クルーと並んで古風な外見である、コンフォートの幕張特機4は、マニアならずとも気になる車両である。円筒形赤色灯の緊急車両は、ほとんど見られなくなったからだ。
 渋川と組むことが多いのは、名和、川崎、中島の若手と、年季の入った中野巡査部長。中野部長は、
M.U.D対策室がレストアした初代クラウンが最後のご奉公をしているときに、巡査になった人だ。
 初めて会った日、渋川の姿を見て中野部長は、
 「俺も、
M.U.D対策室兼任になりたいよ。」
 と言った。帯革に装備をつける、昭和
43年式制服・32年式制服を着た世代だからだ。湯朝警部とは同期だが、警部補・警部の試験は職務に忙殺されて受けられず、巡査部長のままで今に至っている。
 「渋川さん!」
 「名和君ね。今日乗務するのは。」
 「ええ。僕も渋川さんと同じ着装で乗務したいですよ。」
 普通、警察用車両は、駐在所・交番に配備される、ファミリーカーベースのパトカー、軽自動車ベースのミニパトカーでもない限り、二人で運用する。古くは「白いジープのパトロール」、最近では『逮捕しちゃうぞ』を見ればわかるように、運転手は運転に専念し、助手席に乗るもう一人が署轄無線、
110番無線の交信と運転手への道案内、異常発見時の対処などにあたる。
 今日は、高木と同期の名和巡査とのペア。円フレームの眼鏡に短く刈り込んだ頭、やせてほっそりした姿は、
M.U.D対策室の曽根を思わせる。彼は現行の制帽に活動服・活動ズボン姿で、腰には三点セット装備だが、曽根と同じ昭和27年式制服か、渋川と同じ昭和43年式制服のほうが、しっくりきて、絵になると渋川は思っているし、本人も一回着て乗務してみたいと言っている。
 点検を受けて、各車とも出発する。
 自動車警ら隊は受持区内を常時巡回し、走行中に発見した異常を報告、場合によっては職務質問、任意同行を求めることもある。
 また、機動力を生かし
110番司令から事件・事故現場へ急行するよう指示が出る。現場では負傷者救護や被疑者の身柄確保、現況維持、初動捜査にあたる。
 自動車警ら隊も交番勤務と同じく、なんでもありの部署である。
 渋川がハンドルを握る脇で、本部や署、僚車・白バイと交信する名和の姿は、「了解了解、本部了解」が出だしの「白いジープのパトロール」を歌い、同名映画でも準主役の中野巡査として主人公の乗務するパトカーの車長に扮する、曽根史郎を思わせる。
 その日は
830分から1730分までの日勤だったので、17時には警察署へ戻り、整備を済ます。
 常にカタログデータにある性能を維持するため、警察用車両は警察署や自動車警ら隊で整備するほか、一定の時期が来れば、オーバーホールする。だが、毎日走らせるのと、民間の自動車との兼ね合いから、最長
10年が限度の耐久消費財扱いだ。その点、M.U.D対策室の 初代クラウン警察仕様、夏実・美幸コンビのトゥディは、例外である。

 そんなある日。
 ペアを組むことの多い名和巡査が、急病になった。中野部長は川崎と出動中。中島は公休だ。
 渋川警察署地域課時代は単独で乗務することもあったが、今は違う。
 「今日は、出動できないのか…。」
 そう思いながら各種報告書を作成していると、当直幹部が
M.U.D対策室に電話しているのが聞こえた。
 「今日、渋川巡査の乗務する相手が急病になったんだ。
M.U.D対策室で手が余っていれば、誰か一人、まわしてもらえないかなあ…。」
 しばらくして、当直幹部がやってきた。
 「渋川。兼任先の
M.U.D対策室から応援が来ることになった。今日はその人と乗務してほしい。先にガレージに向かうそうだから、準備して。」
 「はっ、わかりました。」
 ガレージにやってきたのは、制服で勤務している園田か、急遽ロッカーから引っ張り出して制服姿になった室長の湯朝、実は大安全マンの安野ではなく、「女装の達人」双葉葵巡査長だった。
 「よろしくお願いします。」
 「こ、こちらこそ。」
 意外な展開に、渋川は驚いた。しかも双葉も
M.U.D対策室の特例で、「ド・ゴール帽」の愛称のある制帽に、四つボタンアウトポケット、センタープリーツのスカートの、昭和51年式制服。渋川が昭和43年式制服だから、昭和後半に生を受けた世代があこがれた「おまわりさん・ふけいさん」は、この姿だ。
 「行きましょうか、渋川さん。」
 「はい。」


「男装の麗人」渋川梓と「女装の達人」双葉葵。
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 走行中、どちらともなく、出身地などの話題になった。M.U.D対策室所属とはいえ、双葉は内勤専従、渋川はほとんど車の中だ。話す機会はないといってもよい。
 「…なぜ、渋川さんは男装…しようと思われたんです?」
 ためらいがちに、双葉が言った。
 そういう双葉も、女装している。
 「もともと、男みたいな姿が好きなんだ。「男装の麗人」川島芳子や宝塚の男役にあこがれた時期もあった。今の制服は、スカート姿でいることが少ないから、なおさらだよ。
M.U.D対策室に誘われたとき、初代クラウン風に改造したコンフォートを持っているし、時空を越えた出向者もいて、特例で過去の制服の着用が許可されているっていうから、車に合わせて、この姿にしたわけ。」
 「あこがれの人は、「男装の麗人」川島芳子ですか…。今の制服は、女性でもズボン姿が多くなりましたね。警視庁でも、制帽に活動服・活動ズボン姿がほとんどです。あたしのような、古参の内勤専従は、昭和
51年式を着た世代なので、スカート姿に抵抗ありませんが、今の人たちは、ジーンズやスラックスを普段から履いていますからね。それに、いざというとき、下着が見えないか気になって、思い切った行動ができないというのもあります。」
 「それは、言えている。センタープリーツのおかげで、多少のアクションでも、下着は見えないって言われているけど…、気になるし。冬は、寒い。ところで葵さんは、なぜ、女装しようと思ったの?」
 「わたしのころはまだ警ら課でしたが、そのとき、痴漢・変質者のおとり捜査で女装したところ、絵になっていると言われて、さらに女性にも同性と間違われるほどになったんです。気がついたらいつの間にか、女性を演じるようになっていましてね。当時婦人警察官は
24時間勤務につけられなかったので、交通課に転属。勤務も男性の当直→明け→全休→日勤・日勤・日勤・日勤から、夏実・美幸と同じ830分出庁・1730分退庁の日勤にしてもらえました。」
 「あたしとは、逆の待遇ね。あたしは男として扱われているから、
24時間勤務もあるんだ。」
 「そうなんですか…。」
 「成見さんに意見、聞いてみない?」
 「何の意見です?」
 「なぜ、あたしたちが異性の姿になりたがる理由よ。臨床心理士で、大学院の博士課程まで行った悠子なら、あたしたちの長年の疑問に答えを出せるかもしれない。」
 M.U.D対策室兼任で、生活安全課では少年補導などを担当する成見悠子巡査長は、大学・大学院と心理学を専攻し、博士課程まで行った。心理職の警察技官として入ったが、思うところがあって、警察官に転属している。
 彼女なら、異性の服装にあこがれる理由を、合理的に説明できるかもしれない。
 赤信号だ。クルーのパトカーは止まる。交差点をはさんで反対側には、幕張特機2のトゥディが止まっている。あれに乗務するのは、交通執行係の辻本夏実巡査・小早川美幸巡査だ。
 「あっ、葵ちゃんに渋川さん。」
 目ざとく、夏実が見つけた。
 ハンドルを握る美幸が次ぐ。
 「男装の麗人と女装の達人がペアを組んでいるんだ。絵になっているわね。」
 昭和
43年式制服姿の渋川の隣は、昭和51年式制服の双葉。しかもパトカーのデザインも古風なので、絵になっている。
 「幕張特機
2より幕張特機5へ。これからの行動は。」
 夏実の声に、葵は、墨東署のときと同じ口調で返す。
 「幕張特機
2へ。本車は定線を巡回し、帰署する途中。」
 「幕張特機
2了解。こちらも定線を巡回し、帰署する途中。到着は同時になる。」
 それから数十分後。幕張特機
2のニトロ噴射機能付トゥディと、古風な外見の幕張特機5のクルーは、千葉西警察署に帰署した。

 渋川の愛車の中という密室で、同じ悩みで意気投合した二人は、以降親密につきあうようになった。
署内では、休憩時間になると親しげに話す二人の姿を見て
M.U.D対策室の双葉葵巡査長と自動車警ら隊の渋川梓巡査の職場結婚も近い?とささやかれている。無論、二人の正体を知っている二階堂頼子が出どころなわけはない。
 二人が親しくなった理由は、当事者と、秘密を守ることが仕事の臨床心理士・成見悠子だけが知っている。