トラフィック戦隊・アンゼンジャー外伝
〜「復讐ライダー」〜


 千葉西警察署M.U.D対策室専任の「頼子放送局」、警視庁墨東警察署交通課から出向の二階堂巡査が、休憩時間のM.U.D対策室の面々相手にうわさ話に興じていた。
 「「復讐ライダー」って、知っている?」
 交通機動隊兼任の白バイ乗り、犬養巡査部長が返す。
 「そんな邦題の洋画があるわね。ヘルメット、ライダースーツ、バイク全て黒ずくめ。それに乗って、自分を殺した者を次々と復讐の血祭りにあげていく…。しかも、交通事故で…という内容だったっけ。それがどうしたの?」
 「頼子さん、日曜ロードショー見て、怖くて寝られなくなったんですか?」
 これは同じく墨東署出向組の、双葉巡査長。
 「まさか。」
 「淀川さんの解説が聞かれなくなって、はや何年…。あの映画は、「怖いですね、恐ろしいですね」の淀長節がもってこいの内容だね。」
 これは地域課兼任組の、清水巡査部長。
 「今日の話題は映画じゃあないの。」
 「というと?」
 「あの映画の主人公そっくりのバイク乗りが、出るのよ。」
 「へ〜え。」
 「法律に違反していなければ、干渉する必要はない。バイク乗りの姿は、様々だから。」
 犬養が言うと、二階堂は返す。
 「あたしたちがスピード違反で検挙した連中が、検挙される数日から一週間前に、「復讐ライダー」と同じ姿のバイク乗りを見ているのよ。」
 「バイクに乗る姿としては、露出が少ないから模範的だけど、フルフェイス・ヘルメットで黒ずくめというのは、いただけないわね。 夜、黒は他のライダー・ドライバー、歩行者に見つかりにくくなるから、危険極まりない。」
 同じく墨東署出向組、バイク乗りでもある辻本巡査が言うと、犬養が次ぐ。
 「ライダースーツは伊達や酔狂で着ているわけじゃあないのよ。最近では、プロテクターの着用も義務付けようかと言われているんだから。」
 「そうでもしないと、二輪車=危険の間違った認識が消せないからね。」
 これは事実。ヘルメット着用が義務化されて長いが、二輪車に乗っての事故は多い。「被っていればいいだろう」と、あご紐をかけない者、あみだに被る者もいる。あご紐をかけていなくては、転倒時に脱げてしまい、意味がない。あみだに被っているのも同じく、転倒時に頭の肝心の部分を守ることができない。
 また、「ヘルメットならいいだろう」と、谷沢製作所、ミドリ安全などの作業用ヘルメット、デザインがバイク乗車用に似ている、自転車通学を許可している小中学校の自転車乗車用ヘルメット、さらには第二次大戦中のドイツ空挺部隊のヘルメット、アメリカ軍の
M1ヘルメット、旧軍の九〇式鉄帽など各種軍用ヘルメットの払い下げ品を被っている者もいる。
 軍用ヘルメットは、特殊鋼製とはいえ経年劣化している可能性が高い。第二次大戦時に製作されたものは、特にだ。それに、作業用ヘルメットと同じく、飛来物、落下物から頭を守るのが主目的である。ただし、飛んでくるものが瓦礫、ガラス片、手榴弾片、砲弾片などだから、作業用ヘルメットよりかは頑丈である。
 だが、日本は警防団、ドイツは帝国防空団、イギリスはホーム・ガードといった、空襲に備えて結成した民間防衛団体向けに製作されたものや、撮影用レプリカも混じっている可能性がある。民間防衛団体向けの防御力は、作業用ヘルメットよりは高いが、軍用ほどではない。撮影用レプリカはそれらしく見えればよいので、普通の鉄かアルミ製。防御力は作業用ヘルメット並みだろう。
 作業用ヘルメットは、作業時の飛来物、落下物から頭を守るためであり、歩いていて転んだ程度ならともかく、バイク乗車時のように、高速で転倒した場合は想定していない。また、自転車乗車用ヘルメットも、自転車が出せる最高速度の時速
20キロ以上には対応できない。よって、これらのヘルメットで自動二輪や原付二輪に乗り、転倒した場合、命の保障はできない。アライなどの乗車用ヘルメットにしておかないと、被保険者の不注意も問われて、保険金が減額される可能性もある。
 ライダースーツも、かっこよく見せようと着ているわけではない。革や合成皮革で作られているのは、転倒時、路面との擦過で受ける傷を減らすためである。
 それで、ヘルメットとライダースーツに加え、バイク用のプロテクターが開発されて、実用段階に入っている。ライダースーツの上に着るタイプと、中に着込むタイプの二通りある。上に着るタイプは、変身ヒーローの変身後を思わせるデザインのものもある。今は任意だが、それで死傷率が下がれば、ヘルメットや自動車のシートベルトと同じく、着用が義務化されるかもしれない。多少外見がごつくなっても、命には替えられない。
 「とはいってもごついからね、プロテクターは。」
 辻本が言うと、小早川が返す。
 「夏実や高美さんが着ると、戦隊物や変身ヒーロー物の主人公の変身後になるわね。安野さんもそうだし。」
 「何か呼んだか?」
 通りかかったのは、大安全マンの安野巡査。
 「安野さんが交通安全のイベントで、バイク乗車用プロテクターのモデルになったらって話。」
 犬養が言うと、安野は返す。
 「カラーリングと組み合わせを考えないと、マッド・ハシリーヤ将軍と似たり寄ったりになりかねないんだよな。そうそう、小早川さんの場合は、突拍子もない機能をつけたものを辻本さんに着せて、一騒ぎ起こしそうだね。」
 これには、「メカフェチ」小早川美幸、苦笑で返すほかない。突拍子もない機能付の白バイ隊用プロテクターを開発し、試着した辻本や中嶋が作動させてしまい、騒ぎになる…というシナリオは、成立しかねない。
 「ところで頼子。「復讐ライダー」の話はどうなったの?」
 「すっかり忘れていた。いやあ、安野さんのモデル姿、かっこよかったからさ。本題に戻すわね。夜の湾岸高速を飛ばしていると、後ろから音もなく、黒ずくめのライダーが追い抜いていくのよ。走り屋は挑発されたと思って、追い越そうとする。近いはずなのに抜けない。バイクとの間はわずかに数メートル。アクセルペダルが床につくぐらい踏み込んでも抜けない。あっという間に速度計は
200キロ近くになっているわけ。」
 「時速
200キロ!?」
 「そんなに飛ばすの。」
 頼子は、コーヒーを飲んで続ける。
 「で、気がつくとそのバイクは消えている。何だあいつはと思いながら走っていると、数日後には夏実や美幸、高美さん、渋川さん、首塚さんに速度超過の青切符を切られるわけ。」
 「速度超過の前歴が山ほどある連中に青切符を渡したとき、「復讐ライダー」を見たからだとか何とかって、ぶつくさ言っていたわね。」
 辻本が言うと、小早川が返す。
 「「復讐ライダー」が出る場所は?」
 「どこに出るかもわからない。走り屋が好んで走るところならどこでもって感じ。隠れられるものが全くないところでも見たっていうから、気味悪がられているのよ。」
 しばし考えて、小早川が言う。
 「高美さん、交機で特科部隊を編成したって話、聞いていない?」
 「聞いていないわね。編成するなら交通課に所属する
M.U.D対策室はもちろん、あたしや夏実、晴美にも連絡が来るでしょ。」
 暴走族対策、引ったくり対策に、覆面パトカーならぬ覆面白バイを導入する警察本部がある。車種は原付二輪のスクーターから大型自動二輪まで様々。なんと、結成当初は捜査一課の刑事の私物を使い、ガソリン代も自腹だった覆面白バイ隊もあった。もっとも私物だったので、大型自動二輪からスクーター、カブの原付二輪まであり、車種が多種多様になるという利点もあった。
 「復讐ライダー」のような外見のライダーが乗る、暴走族対策覆面白バイも実在する。並走して、水をかける装置がついているとか。水を被った連中が検問中の警察官に見つかれば、検挙できるわけだ。
 「隠れる場所がないところからも現れるのには、ひっかかる点があるわね。」
 小早川が言うと、犬養が次ぐ。
 「「復讐ライダー」は、走り屋にやられた二輪車乗りの怨念が実体化したもの。さもなければ怨霊よ。」
 「高美さんは怨霊説なんだ。」
 二階堂の言葉に、犬養は返す。
 「二輪車乗りは各所で、事故に遭っている。わざと幅寄せしてきたり、妨害してくる奴らもいる。それで結果的に事故になることもある。事故にあって死んだり、命はとりとめても半身不随、全身不随で車椅子や寝たきりの生活になるケースも多い。ライダー達の怨念が集まって実体化したり、怨霊になったっておかしくない。だから「復讐ライダー」は走り屋を狙うのよ。交通機動隊の犬養高美巡査部長としては、速度超過で検挙しなければならないけど、バイク乗りとしての犬養高美としては、「復讐ライダー」の味方になりたい。」
 「同じバイク乗りだから、高美さんの気持ちはわかる。それはともかく、「復讐ライダー」もスピード違反になるわけだから、オービスにはひっかからないの?」
 辻本が言うと、二階堂は返す。
 「それがねえ、ひっかかっていないのよ。高速道路や有料道路の料金所でも、目撃されていないのよ。防犯カメラにも写っていない。同じ時間帯に同じ道路を走っていた、他のドライバー、ライダーに聞いても、見ていないっていうのよ。」
 「いったい、何者なのかしら…?」


 無論、交通課の一部である
M.U.D対策室にも、「復讐ライダー」の情報は入る。
 「今のところ事故発生の要因にはなっていないが、挑発して速度超過させることは、無視できない。ひっかかるのは、見た者が違反者だけということだ。」
 湯朝が言うと、心理学を専攻していた成見悠子巡査長が引き取る。
 「目撃したドライバー全員に面接調査を行いましたが、目撃時は正常な精神状態だったので、幻覚ではありません。インターチェンジ以外の外部から入り込んだ形跡もないとなると、何者かが普通の姿で料金所から入り、どこかで変装、「復讐ライダー」になって出現、並走してまたもとの姿に戻り、料金所から出る…としか考えられません。となれば、どこかしらで変身している姿を目撃した人がいてもいいはず…。」
 安野が返す。
 「こういうときこそ、
M.U.D対策室の出番。我々が高速道路のパーキングエリア、サービスエリアで張り込めばいいんです。」
 湯朝が言う。
 「高速道路・有料道路に張り込むのは、この場合、得策ではない。千葉県内すべてのパーキングエリア・サービスエリアに張り込むわけにもいかないし、成見巡査長の言うように、誰も目撃していないのだから。この場合は、安野君がおとりになるほうが賢明だな。」
 「俺が、ですか。」
 非常勤とはいえ、警察技官となったドクター・ヨイデガンスが言う。
 「マッド・ハシリーヤ将軍から没収したピラレディ
XYZを改造して、大安全マン専用マシンにしてある。外見は普通のスポーツカーだから、「復讐ライダー」とやらも見抜けないだろうよ。」
 「専用マシン、用意してくれたんですか。こりゃあますます、やる気が出てきました。室長、さっそく今夜からおとりとして、湾岸高速を走ります。」
 「その旨、高速道路警察隊と交通機動隊に言っておかないと。味方に検挙されたのでは、話にならないから。」
 「さらばピラレディ
XYZ」で、佐々木・曽根の停車命令に従わず、コルト・ガバメントとスミス・アンド・ウエッソンM1917の水平射撃を受けたピラレディXYZは、改装されて、大安全マン用の覆面スポーツカー型パトカーになっている。整備と改装にあたったのは、ドクター・ヨイデガンスと小早川美幸。特撮のヒーローが乗るのにふさわしいギミックが、各所についている。

 一方、そのころ。
 「そこのスープラ、ただちに路肩に寄せて停車しなさい。」
 幕張特機
5のクルーに、速度超過のスープラはぴったりマークされていた。いまどき珍しい円筒形赤色回転灯にフェンダーミラー、サイレン、スピーカーもフェンダーにつけているので、撮影用特機かイベント用予備車両と勘違いして飛ばした瞬間だ。タクシー・教習車が主目的のクルーだから、追ってこれないと高をくくっていたが…。
 さらにそこへ、白バイもやってきた。前後を抑えられて、あえなく停車。違反切符を切られる運命に。
 クルーから降りた警察官と、白バイ隊員の二人それぞれと目線が合った瞬間、彼は、抵抗する気力がうせた。
 「あなたは制限時速
80キロのところを、150キロで走った。立派な速度超過になる。ほら、免許証出して。」
 「はい。」
 意のままになるドライバー。他の警察官だったら抵抗するが、なぜか、そういう気力がない。意に反し、進んで手や口が動き、相手の求める行動に出てしまう。
 クルーから降りてきたのは、線が細い男性。自動車を題材にした漫画の主人公のライバルとして出てきそうな髪形で、左目が前髪で隠れている。しかも制服も他の警察官とは違う。警備員のような、四つボタンの上着に制帽、帯革姿。一瞬高速道路会社のハイウェイパトロールかと思うが、警備員ではない証拠として、右腰には拳銃、左腰には警棒を装備しているし、制帽の記章は警察のものだ。
 白バイ隊員は女性だ。ライダースーツのボディーラインでわかる。
 (こ、この二人は、何者なんだ。)
 これが現行のクラウン、セドリック、スカイラインといったパトカーや、ニトロ噴射機能付トゥディのようなチューンドカーならあきらめもつくが、ノーマルのクルーとは…。
 (ど、どうなっているんだ、千葉県警の高速道路警察隊は…。)



「クルーに乗ったメデューサ」、渋川梓(左)と「現代に生きるデュラハン」首塚晴美(右) クリックすると拡大されます


 クルーに乗務しているのは、男装の麗人、群馬県警察渋川警察署から出向してきた、渋川梓巡査長。車が古風な外見なので、それに合わせて昭和
43年式警察官制服を着ている。
 白バイ隊の隊員は、犬養と同じ交通機動隊の隊員、首塚晴美巡査部長。
 渋川の三白眼が放つ鋭い眼光に射抜かれると、心にやましいところのある者は、一瞬にして凍りつき、抵抗する気力をなくす。これを走り屋の間では「メデューサの一睨み」と呼んでいる。
 首塚は、真夏でも白い絹のマフラーをしている。それもそのはず、彼女の正体は現代に生きるデュラハン。ルールを守って走る者には加護を与えるが、それに反したものには、正義の鉄槌を下す。そのひとつが、違反切符である。
千葉県内の「走り屋」の間では、クルーに乗ったメデューサと、白バイに乗ったデュラハン、「復讐ライダー」には気をつけろと言われている。
 スープラに乗った走り屋は、クルーに乗ったメデューサと、白バイに乗ったデュラハンに遭遇したわけだ。

 交通違反の取締りを終え、帰署した二人。
 休憩室で一息ついているところへ、墨東署出向組の双葉葵がやってきた。
 「あら、葵さん。」
 「あたしと葵さんが職場恋愛している…なんてうわさが流れているけど、頼子放送局が出どころじゃあないでしょうね。」
 「まさか。正体を知っている頼子さんがうわさを流すとは、考えられませんよ。」
 「男装の麗人」渋川梓と「女装の達人」双葉葵。二人はつきあっていて、職場結婚も近いといううわさが流れている。確かに外見の性別が違うだけなので、入籍できる。だが、親密になった理由は、また別個だ。正体を知っている二階堂頼子がうわさの出所なわけはない。
 「お二人は「復讐ライダー」の存在、ご存知ですか?」
 交通課兼任組がひとしきり盛り上がった話題を振ると、首塚があたりを見回し、言った。
 「二人が秘密を有していることを見込んで、明かす。あたしも、秘密を抱えて生きている。」
 「どんなことです?」
 「「復讐ライダー」の正体は、あたしなのよ。」
 「えっ!?」
 驚く渋川と双葉。
 「あたしは、デュラハン族の末裔。真夏でも白バイ隊の乗車服で、白のマフラーを外さない理由は、これにある。」
 マフラーを外した。うっすらとだが、首の周りを一周する傷がある。
 「今は相当血が薄くなって、アイルランドの伝説にあるように、首を抱えて死の予告を行うほどではなくなったけどね。」
 「それで、全身黒ずくめでバイクに乗って、夜の湾岸高速を走るわけ?」
 「そう。今のデュラハンは、馬は大排気量の「鋼鉄の馬」、鎧はライダースーツとプロテクターに替えて、このまま危険な走行を続けると、事故死するぞと警告するんだ。」
 「はじめて会ったときから、普通の人とは違うと思っていたけど…。」
 渋川が言うと、双葉が次ぐ。
 「でしたら、早く室長殿に言わないと。安野さんがおとり捜査で正体をつきとめるため、今夜から出ると言っていました。」
 「そこまで話が大きくなっているの!?わかった。今すぐ室長のところへ行ってくる。」

 
M.U.D対策室に向かうと、幸いにして湯朝と安野は出動していなかったので、首塚は、自分が「復讐ライダー」の正体であると明かした。
 「走り屋との並走は、行いを改めなければ死を招くと警告するためだったのか。」
 「はい。人騒がせなことをやり、申し訳なく思っています。」
 首塚の言葉に、湯朝は、しばしの間ののち、言う。
 「確かにやったことは人騒がせではある。だが、気持ちもわかる。」
 安野が次ぐ。
 「主人公がピンチのときに助けに来る、敵か味方か最終回近くにならないとわからない、ライバル的存在みたいな外見だね。だったらその能力と姿を生かして、交通違反を摘発しないと。
M.U.D対策室兼任なんだからさ。」
 「デュラハンの姿でも、いいんですか?」
 「
M.U.D対策室は、なんでもありだから。こういう俺だってサイボーグだし、シグナレィディ三姉妹に、時空を越えた出向者、男装の麗人に女装の達人、異星人までいるんだ。全身黒で統一した「復讐ライダー」がメンバーにいたって、構わないよ。」
 「異星人まで…。」
 湯朝室長が次いだ。
 「ひとつだけ、聞いていいかな。」
 「なんでしょう。」
 「高速道路の料金所の防犯ビデオに画像が残っていないのは、どういうトリックを使ったんだい?」
 「あれは、検挙対象者に予告したあと、最寄のパーキングエリアかサービスエリアで着替えたんです。もちろん、高速道路に入る前もです。ライダースーツはリバーシブルなんです。」
 ライダースーツは、前述のとおり革製、合成皮革製が多い。よって通気性はあまりよくない。平日ならバイク便、休日ならツーリングのライダーが、汗をかいたので、ライダースーツの下に着込んでいる服を着替えたり、ライダースーツを脱いで休憩している姿はよく見る。だから、サービスエリア、パーキングエリアで聞き込みを行っても、目撃者が出なかったわけだ。みんな、日常のありふれた光景としか思わない。
 「なるほど。それなら別人になれるわけだ。成見巡査長の推理は、当たっているね。」

 それから数日後。
 黒ずくめの「復讐ライダー」に加え、覆面パトカーに乗った大安全マンにシグナレィディ三姉妹が、湾岸高速でスピード違反の常習者に、行いを改めなければ数日後に検挙する通告書を渡すようになった。

 「今度は大安全マンまで出たんですって。」
 再び、頼子放送局。交通課兼任組が集まる中で、今朝方あった「復讐ライダー」と大安全マンのペアに加え、シグナレィディ三姉妹が、次々とスピード違反の常習犯を停車させ、行いを改めなければ数日後に検挙する通告書を手渡していった一件を話している。
 「今度は大安全マンとペアを組んだんだ。ということは、
M.U.D対策室も関係しているの?」
 「それがわからないのよ。みんな今朝聞いて驚いているし。」
 「ますます戦隊物・特撮物の登場人物っぽくなったな、「復讐ライダー」は。」
 清水が言うと、辻本が次ぐ。
 「あたしたちだって負けちゃあいられないわよ。美幸。」
 「もちろん!」
 M.U.D対策室専従内勤の園田巡査がやってきた。
 「あっ、皆さんここにいたんですね。近いうち、
M.U.D対策室としても出動します。詳しくは室長殿から説明があります。」
 清水が返す。
 「そうなると、初代クラウンに白いジープ、コンフォートにクルーも走るわけか。話題性は十分だな。」

 その談笑から少し引いたところに、渋川と双葉がいた。
 「室長殿が、うまくまとめてくれたみたいですね。」
 双葉が言うと、渋川が次ぐ。
 「経験豊富な警部殿よ、ほんと。墨東署交通課の課長と、管区警察学校の新任警部補課程の同期生だったって言っていたよね。そうでもなければ、こういう離れ業、できないよ。」
 「復讐ライダー」は、警察・
M.U.D対策室に協力する謎の存在だが、味方であるいうことで決着がついた。経験豊富で、交番や駅で人生の哀歓を見てきた湯朝警部が、うまくまとめたのだ。
 そのうち、
M.U.D対策室内では、渋川、双葉と同じく、正体を明かす予定だ。

 「復讐ライダー」、現代に生きるデュラハン、交通機動隊所属・首塚晴美巡査部長も所属する
M.U.D対策室は、交通事故ゼロの日を目指し、大安全マンの安野と共に、今日も活動する。

後日記。

 湯朝が休憩室で一服つけているところに、首塚がやってきた。
 「なぜ、あたしが「復讐ライダー」、ひいてはデュラハンだと正体を明かしても、平然としていらしたんですか。」
 湯朝は、ぐっとコーヒーを飲んでから、返す。
 「なぁに、「交通秩序を乱して世界征服を狙う」
M.U.D対策の対策室長に任じられてから、配属になる部下は一風変わった者ばかり。相手がやることも奇抜なことばかり。多少のことには驚かなくなったのさ。」
 「一風変わった者…ですか。」
 湯朝の言うとおり、
M.U.D対策室の室員は、一見普通でも、どこかしら変わっている者が多い。安野全次郎は、サイボーグ。地域課兼任の甲田雅一郎、佐々木久雄、曽根史郎の三人は、M.U.Dの傍若無人に義憤を覚え、時空を越えて出向してきたタイムトラベラー。自動車警ら隊兼任の渋川梓は、男装の麗人。交通課兼任の辻本夏実は女性とは思えない怪力で大食。小早川美幸は人間よりも機械が好きという、メカフェチ気味。警務課兼務の守屋姉妹は同じく女性とは思えない怪力で、双子なのに発想・行動すべて正反対。
 
M.U.D対策室の専従内勤、双葉葵は女装の達人で、永井美幸は身長を自由自在に変えられる異星人……。
 そこへきて、守屋姉妹と犬養・成見は、アンゼンジャーとシグナレィディを支援するため、ドクター・ヨイデガンスがデザインした変身ヒロイン風の衣装で事案に対処することもある。
 「サイボーグにタイムトラベラー、男装の麗人、女装の達人、怪力女に異星人と来て、デュラハン。ああ、また一人個性的な部下ができたな。これで終わり。
M.U.D対策室は、普通の神経の人間じゃあ、トップは務まらない。部下を信頼し、多少のことには動じない、肝の据わった、大山巌のような人間でないと。俺の後任が必要になったら、墨東署交通課の課長を推薦する。彼も、十分やっていける人間だ。」
 部下を信頼し、全てを任せる。この度胸だけでも、普通ではない。今でこそ警部で警察署内の一部署の長だが、時代が時代なら、どこかの本部長になっているのではないか…。
 首塚は、そんな感想を抱いた。