青服騎士団・傭兵団
今ではないとき、ここではない場所。こちらの時代区分では中世ヨーロッパが近い時期のある大陸に、女帝の統治する王国がある。
この国には、騎士団、傭兵団と名乗るものの、外敵と戦うことが主目的ではない組織がある。一つは、平時には貧富の区別なく傷病者の治療を行い、災害時には救助活動と被災地支援、戦時には敵味方の区別なく傷病者の治療にあたる騎士団・傭兵団を、白服団と呼ぶ。構成している団員が、白い上着と帽子を常に着用し、赤い十字の記章を持つのでついた呼び名である。こちらの世界の赤十字に相当する存在だ。
もう一つが、青服騎士団・傭兵団。こちらは国内の治安維持、災害時の救援活動、火災の消火活動にあたる。現在の警察と消防を合わせた組織である。
青服騎士団・傭兵団は、他の中世ベースの世界観で出てくる、自警団ではない。組織を構成する者はみな、この国の法律を一通り学び、実技と学科の試験に合格した者である。騎士・兵士・傭兵とも、青系統の統一した意匠の鎧、装備を着用し、身分証を常に携帯する。
青服団員は、犯罪者を逮捕し、取調べは行うが、裁判は法官にゆだねる。フランスのフォーシェ、イギリスのピールが創設した、近代の警察制度に近い存在だ。
さて。
ある街の青服団の傭兵隊長と騎士隊長、双子の女戦士が、今回の主人公である。
騎士隊長の名は、エフスキー・ラズーム。年こそ26歳だが、冷静沈着で、いついかなるときも慌てることはない。青色の鎧を身につけ、青のマントを翻して街を巡回して歩く姿を見て、悪人どもはこそこそと逃げ出す。
傭兵隊長の名は、ハーロウ・アイゼンハート。年はエフスキーと同じだが、性格は正反対。出自こそ騎士だが、作法にうるさい騎士を嫌い、傭兵になった男。曲がったことは大嫌いな、熱血漢である。盗賊と戦う場合には、相手を脅し、味方の士気を高める効果も狙い、上半身は、心臓部分を守るベルトだけで、部隊の先頭に立ち、バトルアックスを振り回す。その外見が似合うだけの体格をしているから、なおさらだ。
窃盗や詐欺など、推理を必要とする事件の捜査は、エフスキー。容疑者があがって逮捕に向かう場合や、強盗などの強力犯の逮捕は、ハーロウが向いている。
ハーロウ率いる傭兵団の中に、「双子のアマゾネス」という異名を持つ双子の姉妹がいる。身長は180センチ近くあり、二人とも筋肉質の体だ。ジュン・ガーディアンは己の体を武器とも防具ともして戦う、格闘家。エーコ・ガーディアンはさまざまな技を繰り出して相手を翻弄する、剣士。双子なので、区別してもらうため、エーコは黒髪ロング、ジュンは黒髪ショートにしている。
顔と体格は似ているが、性格は正反対。エーコはのんびりおっとりなのに対し、ジュンは男勝りでがらっぱち。ペアを組ませるなら、エフスキーにはエーコ、ハーロウにはジュンと言われている。この二人が青服団に入ったのは、父親の敵を探すためである。

エフスキー・ラズームとハーロウ・アイゼンハート。ジュンとエーコのガーディアン・シスターズ
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ある日のこと。
ハーロウ、エフスキー、ジュン、エーコの四人が、警備所で休憩しているところへ、兵士が飛び込んできた。
「伝令。城北地区で魔物出現。現在住民の避難誘導と非常線の展開中。至急、救援乞う。以上。」
「なにっ、わかった。今すぐ行く!」
「みんな、支度しろ。魔物が出たぞ。」
青服団に課せられた任務の一つは、一般市民が住んでいる地区に現れた魔物と戦うことである。
直ちに装備を整え、現場へ部下を引き連れて向かう。
そこへさらに、新しい伝令が。
「魔物の正体は、エリミネーターとリビングメイルそれぞれ二体。」
「エリミネーターにリビングメイルかよ!」
ハーロウの言葉に、エフスキーは返す。
「厄介な敵だな。」
エリミネーターは、人間と同じ姿をしていることはしているが、なぜか全員2メートル以上ある大男で、筋肉質の体で覆面、ブーツにマント姿。斧を武器にしている。目の前にいる生き物なら何でも殺さなければ気がすまない、まさに殺人鬼。一方のリビングメイルは、戦場で倒れた者の怨霊を宿した全身鎧。これまた生きている者に対して仇をなす。退治するには、完全に破壊するか、僧侶の力によって成仏させるかの方法がある。
現場では、飛び道具の得意な者で牽制しているあいだに住民を避難させ、そのどさくさにまぎれて盗みを働こうとする不埒な輩を立ち入らせず、野次馬を整理するため非常線を張っている。
ハーロウは、バトルアックスの石突をどん!とばかりに地面につき、タンカを切る。
「やい、殺人鬼。今度は貴様が倒される番だ。青服傭兵団団長・ハーロウ・アイゼンハートの報復の一撃、受けてみろ!」
エフスキーが愛刀をすらりと抜き放ち、次ぐ。
「青服騎士団団長、エフスキー・ラズーム。この街の平和を守る者として、及ばずながら、お相手いたす!」
一瞬、エリミネーターどもは、仲間かと思わせるような体格の男を見て動きを止めたが、粗雑な脳でも自分に仇をなす存在とわかると、斧で向かってきた。
傭兵隊長、騎士隊長を勤めるだけあって、ハーロウ、エフスキーともども動きに無駄がない。単にバトルアックスを振り回しているようにしか見えないハーロウだが、バトルアックスの長さを生かし、相手を寄せつけない。
エフスキーも、鍛えた剣の技で、力任せに斧を振り回す相手を翻弄している。こういう手合いとの対戦は、ハーロウ相手に日ごろ鍛えているから、どうということもない。
何回か切り結ぶうち、エリミネーターの斧が民家の柱に突き刺さり、それを抜こうとしてがら空きになった胴にエフスキーの愛刀が一閃して、片がついた。
そのころには、ハーロウの相手をしていたエリミネーターも倒されていた。
「どうだ、ざまあ見ろ。お前にやられた人たちの仇、討たせてもらったぜ。」
一方、リビングメイルに向かっていったジュンとエーコは…。
リビングメイルは、先に触れたように、全身鎧に戦場に散った者の怨霊を封じ込めた、いわばロボット。ターン・アンデッドが使える者がいればすぐに決着がつくが、残念ながらジュン、エーコともども、その心得のある神官戦士・僧侶ではないので、物理的に破壊し、動けないようにする。
リビングメイルは二体いる。一体はごてごてと装飾してあり、強そうだ。もう一体は普通の鎧だが、盾と剣を装備している。
「あたしはあのデカブツを相手にするから、エーコは剣を持っている奴の相手して!」
「任せて、ジュン!」
拳を守る手袋、蹴り技用に強化した部品をつけている靴を履いているとはいえ、素手で金属の塊に向かうジュン。勝負になるのかと一瞬思うが、それが、自らの体を武器として戦う、格闘家が格闘家たりえる面である。
「鉄くずにしてやるよ!」
タンカとともに蹴りと拳の嵐が、装飾過多の鎧に降り注ぐ。
その傍らでは、エーコが自慢の剣の腕で、生前は同じ剣士だったかもしれない鎧と切り結ぶ。
物理的にダメージを与えなければならないから、一撃目で攻撃できないよう右腕を切り落とした。だが相手もさるもので、残った左手の盾で殴りかかってきた。
それをひらりと交わし、腰に一閃。真っ二つにしてしまえば、動きは取れない。
「エーコ・ガーディアンを相手にしたのが、運の尽きだったわけよ。」
そのころには、装飾過多の鎧は、ジュンのタンカどおり、鉄くず同然、腕のいい鎧職人や板金工でも直せないまでにしていた。
「ジュン・ガーディアンの拳の威力、見たか!」
城北地区に入り込んだ怪物は、傭兵隊長と騎士隊長、双子のアマゾネスによって退治された。
普通のファンタジー小説なら、主人公一行は領主から慰労金をもらって話は別に移るが、青服団の任務は治安の維持、平穏な市民生活を守ること。これで終わりではない。
「魔物が入り込んだのには、何か理由があるに違いない。」
「エリミネーターがうろついているという情報は前々から入っていたものの、リビングメイルは、自然にわいて出る存在じゃあない。」
「この街の中に、死霊術を使う者が住んでいるということになるな。」
この国では、死霊術:ネクロマンシーは禁止されている。理由は、死後の平安を乱し、死者を冒涜するから。それを研究すること自体が、犯罪になる。
「そいつを探し出さなければ、似たような事件はまた起こる。」
「だが…、手がかりの鎧がなぁ…」
ジュンが相手にした鎧には、ごてごて飾りがついていた。ということは、貴族か高級騎士が元の所有者に違いない。だが、拳と蹴りの嵐で、鉄くず同然。もう一体は普通の鎧だったので、ほとんど手がかりがない。
「これじゃあ、捜査のしようがない。手がかりが一つ、消えてしまった。」
エフスキーが言うと、ジュンは、苦笑して返す。
「次から加減するからさ。」
単なるモンスター退治だけで終わるかと思いきや、この国では禁止されている、死霊術:ネクロマンシーをひそかに行っている者を探し出す、新たな推理の幕開けになった。
青服騎士団・傭兵団の活動は、今日も続く。