白昼夢199話外伝
「巨大プロボクサー、サンディVS警察用ロボット」
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「こちら実藤。現在警察用ロボットと巨大女が格闘中。警ら中の各警察官は応援願います。」
実藤の無線に、一番近い地点を警らしていた守村巡査が真っ先にやってきた。黒い自転車で、ハンドルに佩刀をひっかけている。詰襟で左右の肩章と袖章で階級を識別する、昭和10年式制服姿なので、このような騒ぎでなければ、『多甚古村』の甲田巡査のようだと言っていられるが…。
「巨大女と警察用ロボットが戦っているだって。おい、実藤、大滝、しっかりしろ。何かを見間違えているんじゃあないのか。」
渋い顔をしている守村に対し、大滝は、無言で、サンディと特機隊のロボットが、折からの月光を浴び、グランドで格闘している姿を指さす。
その姿を見て、守村は絶句した。
とそこへ、開襟式で装具を帯革でつるようになり、巡査・巡査部長は左袖の逆V字の数で階級を識別する、昭和21年式制服の高村巡査と、背広式襟になり、腰ポケットは飾りになった、昭和27年式制服の宗村巡査が、白いジープに乗ってやってきた。
「巨大女と警察用ロボットが格闘している姿が見えたから、ただごとではないと飛んできたんだが…、見間違えじゃあないな。」
「夢なのか、現実なのか。」
高村、宗村共に、次の言葉が出ない。
さらにそこへ、折からの暴走族警らで出動していた、辻本巡査と小早川巡査が、あのニトロ噴射トゥディでやってきた。
「『パトレイバー』が現実になったの!?」
「あたしよりボディ、鍛えているじゃん。」
夏実・美幸コンビらしいセリフを言ったが、それから先は出ない。
「実藤さんの無線は、本当なんですか?」
大滝・実藤と同じ、昭和43年制定の制服姿で、荷台に雑具箱をつけた白い自転車に乗った、熱川巡査、清水巡査、園田巡査の三人が、やってきた。
三人も、格闘しているロボットとサンディを見て、言葉が出ない。
やっと我に返った小早川巡査が、無線をロボットと特機隊が使う周波数に合わせたので、どういう状況か、わかるようになった。
「こいつ強すぎます。増援をお願いします。それに、武器を使わないと取り押さえられそうにありません。」
「増援は今出動させた。武器も使っていいぞ」
「了解…うわあ〜!」
交通事故のときに似た、金属が固い物体に激突したときに出る衝撃音とともに、コックピットと特機隊本部との無線交信が途絶えた。
大滝が叫ぶ。
「み、見ろ…、ノックアウトしちまった!」
見れば、特機隊のロボットは、ボクシングでボディーブローを決められて、ノックアウトされたのと同じく、膝をついていた。
「さっきの衝撃音は…」
「パイロットが、やられたんだ。」
素手で、金属の固まりを殴って凹ませることができるのだから、常人と同じサイズでも、相当の破壊力を持つに違いない。
辻本がつぶやく。
「あまり、相手にはしたくないわね。」
小早川が、無線でコックピットに呼びかける。
「こちら墨東署交通課小早川巡査、小早川巡査。特機隊パイロット、応答願います。」
返事がない。特機隊のほうでも呼びかけているが、そちらも応答はない。
実藤が代わりに、特機隊に報告する。
「こちら墨東署警ら課実藤巡査。特機隊のロボットは、コックピットにボディーブローを決められて、KOされた。パイロットの生死は不明。」
一方サンディは、足元にいる制服警察官の集団や、騒ぎを聞きつけて集まった野次馬連中にちらりと目をやると、ノックアウトしたロボットを軽々と持ち上げ、放り投げた。
「あたしを逮捕しようなんて、100年早いのさ。機械のくせに。」
ずしんという衝撃音と共に、地震のような地響きがする。
これで、周囲の人も目を覚ましたに違いない。
事実、サイレンや物音を聞きつけて、心配げに集まってきたり、窓を開けて様子を見ている人がいる。
「特機隊が増援を呼んだと言っても、相手になるのか。」
先ほどまで繰り広げられていた、パイロット搭乗タイプとサンディとの格闘が、ボディーブローであっけなく片付いたのを見ている一同は、思う。
間もなく、増援がやってきた。オリーブドラブで警察用というより、陸上自衛隊が装備していると言ってもおかしくないようなデザインで、無人だ。
トゥディの無線のマイクから、特機隊の副長の声がする。
「間にあわなかったが、つなぎにはなるだろう。パイロットの乗っていない、人工知能タイプだ。本来ならこいつと二対一の戦いにしたかったんだが…。」
署轄無線が入る。
「展開中の各人へ。住民の避難勧告と雑踏整理、非常線の展開願います。」
あまりにも見事な、サンディのボディーブローによるKO勝ちに一同は茫然自失していたが、今の無線の一言で、これからどうすべきか、我に返った。
「現在格闘中のグランドがこの地区の避難場所に指定されているが、使えないので、近くにある文化会館と小中学校をあけてもらった。間もなく消防団と消防も避難誘導に出動する。協力して避難誘導されたし。」
「了解。」
「承知。」
特機隊のマシンのパイロットの生死も気になるが、今は住民を安全なところへ避難させなければならない。
パイロットの救出は特機隊と消防のレスキュー隊、掩護はSATをはじめとした機動隊に任せ、一同は、ロボットとサンディの格闘で被害を受けそうな、半径50メートル以内の住宅各戸を回り、避難所へ避難するよう命じる。
「急いでください、貴重品だけ持って避難所へ。下手をすれば建物ごと押しつぶされます。」
いきなりたたき起こされて、現実離れした風景を見せられたうえ、警察官と消防官、それに、非常呼集で集まった消防団員、防災ボランティアに言われた住民は、寝巻き姿に上着を羽織り、当座の品と貴重品の類だけを持ち、避難する。
消防団員や防災ボランティアの中には、まさにこの立ち回りの行われている地区に住んでいて、家族を避難させたあとでやって来ている者もいる。任務とはいえ、一抹の不安を抱えながらの仕事だ。
その間にも、新手の陸戦用ロボットとサンディの立ち回りは続いていた。
第一回戦はパイロット搭乗式だったので、人と同じような対決ができた。しかし今回は無人のロボット。いかに人工知能が優れているとはいえ、サンディに勝てるわけがない。あっという間に襟髪つかまれてしまい、関節技を決められた。
人間なら骨折したとしかいえない方向に、足が向いている。TKO状態だ。
「ああっ、ロボットがやられたぞ。」
誰かが言うと、サンディは、ふっと笑う。
「こんなへなちょこロボットにやられるあたしじゃあないのさ。」
ロボットはじたばた暴れて抵抗しているが、作動していない部分がある。
今回もあっけなく持ち上げられて、一機目とは別の場所に投げ捨てられた。
「いったい、どうなっているんだ。」
「特機隊、どうした!?」
誰からともなく声があがるが、一番あせっているのは、当の特機隊だ。
無線交信のマイクの背後で、さまざまな声を拾っているのが証拠だ。
「かくなるうえは…、実用試験段階だが、ヴァルキリータイプを出動させる。」
今度は、ジェット戦闘機にも変身できる、航空自衛隊と共同開発しているといううわさもある、アニメーションで同じ機能を持つ機体が出るので、それにひっかけてヴァルキリータイプと呼ばれる機種がやってきた。
これが先ほどの二機と共に戦えばよかったが、五月雨式に出動させたのがまずかった。それぞれ持てる限りの能力を出して戦ったが、サンディには及ばなかったわけだ。
三機目も、ケンカなれしているのかパイロットの技量が高く、軽快なフットワークでサンディと互角の立ち回りをしていたが、試作段階の悲しさで、何かトラブルが発生して、転んでしまった。
その隙を見逃さす、サンディは関節技に持ち込む。変型機能がついているのが災いして、可動部分からぼきっという音がしたかと思うと、あっけなくやられてしまった。
「ど、どうなっているのよ…。」
小早川が言うと、辻本が次ぐ。
「あんたの作ったアイテムで、あたしをあいつと同じぐらいの大きさにするものはないの。」
「そんなアイテムがあったら、とっくの昔に使っているわよ。」
「くそ〜、あいつと同じサイズなら、ノックダウンさせられる自信があるんだけどな。」
こういうやり取りをしている間にも、住民の避難誘導にあたらなければならない。自力では動けない高齢者や障害者から優先的にパトカーなどに乗せ、避難所に指定された学校や施設に移動させる。
サンディは、足元の騒ぎを知ってかしらずか、捨てゼリフを残して、歩き出した。
「こんなへなちょこロボット軍団にやっつけられる、あたしじゃあないのさ!」