ブルー・ユニッツ対侵入者
〜白昼夢外伝〜


 『白昼夢』シリーズで出てくる、サンディ所属する劇団が演じる戦隊物ショー「ユニッツファイブ」は、タイトルが示すとおり、職業系制服姿の男女5人がヒーロー・ヒロインとして登場し、職業を象徴する色の衣装、武器で戦う。
トラブル発生時などに、つなぎとしてレイヤーズに登場願った場合、熱くなった宗村が立ち回りで殺陣の血のり以上の血の雨を降らせることしばしばなので、共演することの多い鳴海ともども、「ユニッツファイブの上官。変身せずとも怪人をやっつけることができる。」という設定にした。今回は、それを生かした脚本の小説版である。


 皇宮警察本部内にある、悪役・特撮戦隊物悪役対策室に、犬飼高美司令、湯浅昭弘副長、ユニッツブルーの青野巡査の三人がいた。
 「今夜、某商社のバイオテクノロジー部門の研究所に、連中が忍び込むという情報が入ってきました。」
 青野が言うと、資料片手に湯浅が次ぐ。
 「バイオテクノロジーの研究といってもいろいろ種類があるうえ、奴らが手に入れたがりそうな、遺伝子組み換え、クローン技術をやっているところも複数あります。よって、どこを狙うかは、内部情報をつかまない限りまったくの未知数。同時多発という可能性も否定できません。」
 今回標的になっている商社は、大は発電プラントや重機械、小は日用雑貨の類まで種々の商品を海外に輸出し、日本に輸入する。名前の通った会社の代理店になっているほか、官公庁の物品調達も行っている大手。その中にバイオテクノロジーに関する研究開発部門も持っている。悪の組織が狙いそうな、クローンや遺伝子組み換えなどについての研究は、自社の研究所のほか、大学や官民の研究機関とも連携して行っているうえ、データは、契約書、申込書などの取引記録、顧客情報、信用情報などを一元管理する事務センターにも、バックアップとして集められている。
 幸いなことに、奴らの狙いそうな場所は南関東圏内に集中しているが、ユニッツファイブは名前の通り、
5人しかいない。よって、今回戦隊物・特撮物の悪役に対処するべく編成された、特撮・戦隊物悪役対策室に出動を依頼したわけだ。
 「で、あたしたち特撮・戦隊物悪役対策室も、警備に協力してほしいというわけね。」
 「そうなります。」
 「了解。対策室にはあたしから指示を出すから、青野君たちユニッツファイブも警戒、怠りないよう。」
 「はっ。」
 それから数分後。特撮・戦隊物悪役対策室の室員が集められた。
 特撮・戦隊物悪役対策室を構成するのは、全国
47都道府県と皇宮警察本部から志願した、腕に自信のある者ばかり。普段は皇宮護衛官として、日常勤務では着用する機会の少ない制服姿で勤務し、事件があれば各地の警察本部に出向という形で応援に行く。
 今日は、非番、勤務あけの近藤衛恵、内藤武士、熱川進、清水清司、園田方也、長井美幸、守谷ジュン、守谷衛子、高村宗光、鳴海悠子、宗村高光、守村義衛の
12名が出動できる。
 犬飼が、訓示する。
 「今回、バイオテクノロジー技術を悪用しようとする悪の組織から、技術資料を守るため、出動する。相手は怪人・戦闘員の典型的戦隊物の悪役だ。数を頼んでの攻撃も予想される。みんな遅れを取るようなことはないだろうが、油断しないように。」
 「はっ。」
 一同は、敬礼で返す。
 湯浅が続ける。
 「警備配置を発表する。」

 一番危ない鶴見の研究所は、ユニッツファイブがじきじきに警戒する。次いで危険な和光の研究所は、戦闘力では群を抜く、近藤衛恵・内藤武士ペア。日吉にある大学の理学部は、変身ヒーロー・ヒロインになれそうな外見の、熱川、園田、守谷姉妹。この六人は、下手な変身ヒーロー・ヒロインよりも戦闘力があるのではないかと言われている。
やや重要度の下がる、狭山にある研究所は、園田、長井ペア。浦和の事務センターには、高村、鳴海、宗村、守村の四人が配置される。
 特撮・戦隊物悪役対策室は、勤務の性質上、現行制服に加え、歴代の警察官制服を着用することで知られている。だが、単にデッドストックや使用品を着用しているのではない。ケプラー以上の強度を持ち、布と同じ方法で加工できる、ガーディアン・クロスという素材で作った復刻モデルである。
 守村は、背広式四つボタンで、腰ポケットは飾り、巡査・巡査部長は左腕に、黒ラシャ台地に黄色の山型と旭日章、警部補以上は右胸ポケット上部に、黒ラシャ台地に金色線と旭日章の階級章をつける、昭和
27年式警察官制服。高村は、三つボタンで、階級章のデザインが銀色金属台地の上に旭日章と変わり、装着位置が襟の第一折り返しになった、昭和32年式警察官制服。宗村は、背広式四つボタンだが、27年式とはポケットのデザインが変わり、階級章は銀色台地の中央に金線と黒線、その上に旭日章が乗る、昭和43年式制服。いずれもなじみ深い、帯革で装具を吊り、右肩に白い拳銃吊り紐をつけ、左腰には木製警棒を装備するタイプ。鳴海は、制服通の間では根強い人気を誇る。ド・ゴール帽の制帽、四つボタンアウトポケットの上着、センタープリーツのタイトスカートの昭和51年式婦人警察官制服。いずれも、現在は警備員が踏襲しているデザインだ。
 装具に拳銃、手錠が入っていることを除けば、制服の知識などない怪人、戦闘員は一般人の警備員だと油断して襲いかかってくる。だが、それが運の尽きになるのだ。
 高村、宗村、守村は、三つ子と錯覚するほど似ている。しかも今日は似たデザインの制服だから、なおさらだ。無論、血縁はない。その点では、双子なのに似ているのは顔だけの、守谷ジュン・守谷衛子姉妹とは正反対である。
ちなみに識別ポイントは、守村の眼鏡は銀色フレームで、左腕に腕時計を巻く。宗村の眼鏡は金色フレームで、右利きなのに右腕に腕時計を巻く。高村は裸眼であることである。
 痩せてほっそりしていて、どこをどう見ても強そうには見えない男性陣、黒髪ロングで長身、典型的大和撫子の鳴海の四人は、ごく普通の人々。だが、先ほども触れたように、下手な変身ヒーロー以上の戦闘力を有する。高村は陸軍軍人に白兵戦闘術を教えた戸山学校仕込みの片手操刀術。守村は、一撃必殺で方をつける居合。鳴海は大和撫子のたしなみとして始めた棒術の有段者。宗村は、武道はそこそこのレベルだが、いざ対戦すると予測不可能、まさにトリッキーという言葉があてはまる行動で相手を翻弄し、不利なほうへ導き、自滅させる。よって「士大夫の剣」の使い手とされている。
 もちろん、警察官である一同の右腰には、制服の時代に合わせ、守村はスミス・アンド・ウエッソン
M1917、高村はコルト・オフィシャルポリス、宗村はスミス・アンド・ウエッソン・ミリタリー・アンド・ポリス。鳴海はコルト・ディテクティブを装備している。いずれもニューナンブ開発以前、警察用拳銃として使用されたタイプだ。


左より、守村(昭和27年式)、高村(昭和32年式)、宗村(昭和43年式)、鳴海(昭和51年式)
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 社員は定時かっきりに全員帰宅させ、守衛も安全のため避難させた事務センターは、普通のオフィスビルだ。一階は受付や休憩スペース、売店、郵便局や銀行
ATMなどが入っていて、二階からが事務室と記録保管庫になっている。
 「迎え撃つのは、一階のロビーからエレベータに通じる廊下じゃ。」
 守村が言う。
 「ここなら、細くて一対一、よくても二人しか並べない。それに、上に進ませるわけにはいかんからな。」
 ロビーからエレベーターホール、階段に通じる廊下は、
5メートルほどの広さがある。が、自動販売機やベンチなどがおいてあり、適当な障害物になっている。
 高村が、次ぐ。
 「ここなら、交代して応戦ということもできるな。」
 下見しながら、四人は、ポケットからなにやら出し、撒く。
 それから、配電盤室に向かう。今回の作戦の、重要なところだ。
 一階の配電盤を見て、守村が言う。
 「一階、主電路開閉器、閉。」
 高村が復唱し、スイッチを操作する。
 「一階、主電路開閉器、閉。」
 「非常用電路開閉器、開。」
 「非常用電路開閉器、開。」
 「消火栓用喞筒電路、開。」
 「消火栓用喞筒電路、開。」
 「どういう意味なのよ。」
 鳴海が宗村の袖を引くと、彼は、返す。
 「僕ら三人は、年齢詐称だ、戦中派だってよく言われるだろう。だから「一階、主電源スイッチ、オフ」じゃあつまらないから、漢訳した言葉を使っているんだ。」
 「なるほどね…。電路は回線、スイッチは開閉器…。ムネさん、さっきのショクトウってのは、どういう意味なの?」
 「ポンプのことさ。今でもメーカーではこの漢字、正式社名で使っているところもあるんだ。皇宮警察や各地の消防本部にポンプ車を納入している会社でね。それに、鉄道や電力会社では今でも、スイッチを開閉器というときがある。今、思い出した。」

 四人が一階の保安センターに待機していると、轟音がした。
モニターを見ると、筋肉隆々、牛の頭に筋肉質の男の体のミノタウロスと、同じく、馬の頭に筋肉質の男の体のケンタウロスが、銀色で筋肉質のボディを現した全身タイツ姿の戦闘員を従えている。
2トンのTNT火薬の爆発にも耐える分厚い鋼鉄の隔壁は、40トン相当の物を軽々と投げ、パンチ一撃で10センチの防弾鋼板をぶち抜く怪力のウシ怪人・ミノタウロス・タウロと、ウマ怪人・ケンタウロス・タングスには、通用しないのだ。
 そんな相手に、凡人の四人が戦えるのか。



怪人・タウロとタングスとそれに率いられる戦闘員。クリックすると大きい画像が出ます。


 タウロとタングスは、侵入者を知らせるサイレンが鳴り響くのもお構いなしで、悠々と入り、戦闘員を呼び寄せる。
 ここで普通の戦隊物、特撮物では、端役の警備員や警察官が表れて、あっけなくやられるが、そうならないのがこのシリーズ。
 タウロ、タングスは、部下を率いて目指すデータルームへと向かうべく、エレベーターホールにやってきた。
 迎え撃つと定めたエレベーターホールに通じる廊下に、高村、宗村、守村、鳴海の四人が立っていた。背景には誘導灯の明かり。白手袋に制服姿もりりしい。
 制服ファンには答えられない一瞬だ。
 「よく来たな、タウロ・タングス。だが、ここから先は、俺らブルー・ユニッツが進ませねえ!」
 台東区出身のちゃきちゃきの江戸っ子、高村がタンカを切る。
 その姿から、警備員と見誤ったタウロが返す。
 「何を抜かす、一般人が生意気な。お前らは怪人の前にあっけなくやられるのが定めだ。いいからやってしまえ!」
 「イィー!」
 戦闘員が四人めがけ、攻撃しようとした瞬間、ずってーんと転んだ。それも何人も。起き上がろうにもさらに転ぶ。
 「な、なんだ。」
 タウロが足を進めたとたん、彼も転んだ。
 「タウロ様。ゆ、床に何やら大量に敷きつめてあって、進めません!」
 「何だと…痛え!」
 今度は「
40トン相当のものを投げ飛ばし、一撃で10センチの防弾鋼板をぶち抜く怪力の持ち主」らしからぬ悲鳴を、タングスがあげた。
 「ま、撒きびしに剣山、折れ釘、画鋲。先の尖った物がばらまいてある!」
 「こ、こっちはビー玉にパチンコ玉。ボールベアリングのボール、単三電池…球形、円筒形で小さいものなら何でもだ。せこいぞ!」
 タングスが言うと、宗村は、返す。
 「兵は奇計を尊ぶべし。真正面からぶつかって勝ち目のない相手に対しては、奇計をもって臨むのみ。」
 高村が、次ぐ。
 「昔のパチンコ屋なら、「軍艦マーチ」を高らかに流す数、ばら撒いてやったんだ。どうだざまあ見ろ!」
 「それに、古武術で使う撒きびしもね。」
 これは鳴海。
 「おのれ、ガラスの足のサラブレッドの俺になんてことをする!」
 タングスがわめくと、鳴海が返す。
 「ガラスの足のサラブレッドは、走るための筋肉以外は全て削り落とした、無駄のないスプリンターのボディを指すのよ。あんたみたいな全身筋肉の格闘家ボディは、馬車馬、農耕馬のペルシュロンかハックニーね。」
 「言わせておけば!」
 誘導灯の薄暗い明かりの中で、時に「痛い」という悲鳴や、滑って転ぶ音をたてながら、進路を作る一同の目の前が、いきなり明るくなった。
 「うわっ、眩しい。」
 「こんどは何だ!?」
 高村が、消火栓の管鎗…ここではノズルといったほうがいいか…をかまえ、水圧で振り回されないよう、踏ん張っていた。
 その隣では、鳴海と宗村が拳銃を抜き、直協支援の態勢になっている。
 守村が、号令する。
 「消火栓喞筒、起動、送水バルブ開け!」
 「消火栓喞筒、起動、送水バルブ、開!」
 「放水開始。」
 「放水開始!」
 「ぶわーっ!」
 「今度は水攻めかぁ〜!」
 守村が号令する。
 暴徒鎮圧の要領で放水されて、戦闘員、タウロ、タングス、のども渇いていないのに大量の給水サービスを受ける運命になった。
 屋内消火栓は、自衛消防隊や火事に気づいた人が初期消火にあたるためのもので、専用の貯水槽に溜めてある水を使う。上水道の本管と直結している、消防隊用消火栓のように長時間の放水ができるわけではない。
 タンクが空になるころあいを見計らい、守村は号令する。
 「放水終了、ホース撤収。」
 「放水終了、ホース撤収!」
 直協支援の鳴海、宗村の掩護を受け、高村が退却するのを見て、三枚目的役を演じさせられたタウロ・タングスはわめく。
 「敵は後ろを見せたぞ、いまだ、追え!」
 放水でせっかく脇に寄せたパチンコ玉、ビー玉が戻っているが、それにもお構いなしで、戦闘員とタウロ、タングスは突進してきた。
 「あの四人を八つ裂きにしろ!」
 「俺の角で四人まとめて串刺しにしてやる!」
 ミノタウロスの武器の一つ、突進で攻撃しようとしたタウロに、新たな障害物が。
 「防火扉作動電路、開。」
 「防火扉作動電路、開!」
 突進する一同の前に、ぐんぐん鉄板でできた壁、防火扉が迫ってくる。
 「な、何ぃ!?」
 
10センチの防弾鋼板をパンチでぶち抜けるといっても、角が刺されば、身動きが取れなくなる。怪力で防火扉を壁に固定してあるヒンジごとぶち破ったとしても、角が抜けない限りは、タウロ自身が障害物になってしまう。タックルだったらよかったが、一時の怒りに任せた行動で、こういう結果を招いてしまった。
 四人の術中にはまったわけだ。
 完全に防火扉が閉まるのと、タウロ以下が激突するのは同時だった。
 ぐわ〜ん!
 先ほどの騒ぎが、うそのように静まり返った。
 「やっつけたの…かしら。」
 鳴海が言うと、宗村が次ぐ。
「いくら怪人、戦闘員といってもねえ。突進して防火扉に正面衝突だから、相当のダメージはあるはずだ。」
 高村が引き取る。
 「それに、水攻めに撒きびし、障害物戦術で連中もへろへろだろう。開けてみよう。」
 万一のこともあるので、応戦できるよう身構えながら、防火扉を開けた。
 すると、予想したとおり、直撃したタウロを始めとした面々は、脳震盪を起こして目を回していた。が、怪人の意地か、それとも鳴海に馬車馬呼ばわりされたのを根に持っていたのか、タングスが最後の力を振り絞り、襲いかかって来た。
 「ただでやられるわけにはいかない、それが怪人の意地だ。受けてみよ、馬車馬蹄鉄アタック!」
 タングス渾身の一撃をひらりと鳴海はかわし、スカートのベルトに通し、制服に隠れるように装備した特殊警棒を抜き放ち、タングスのがら空きになった胴に一撃入れた。
 「うぉっ。」


一撃必殺、警棒一本で怪人を退治する鳴海巡査部長。
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 目にもとまらぬ早業とは、まさにこのこと。鳴海にとって、タングスのようなマッチョな怪人相手でも、急所に一撃入れれば、あっけなく倒せることは先刻ご承知だ。
 目を回してひっくり返るタウロ、タングスに向かい、鳴海はタンカを切る。
 「あたしたちブルー・ユニッツは、ユニッツファイブのように変身できないし、派手な必殺技、合体ロボットも持っていない。だけど、あたしたちは彼らの上官。上官たりえる理由は、ユニッツファイブ以上の能力を持っていること。」
 宗村が、次ぐ。
 「それが、今回見せた奇計。知力という武器を有しているのが、僕ら上官なのさ。」
 タウロ、タングスが、疲労でかすむ目でよく見ると、高村、宗村、守村、鳴海の袖章と階級章が違う。四人とも袖章は、黒線の下に銀線が入り、階級章も、守村は山形が二つ、高村は旭日章が二つ、鳴海と宗村は旭日章が三つになっている。いずれも巡査部長のものだ。
 「ユニッツブルーは…、巡査だった…。巡査部長の上官は、生身で俺たちと渡りあい、倒すとは…。」
 タングスが言うと、タウロが次ぐ。
 「恐るべし、ブルー・ユニッツ……。」

 かくて、特撮・戦隊物悪役対策室の高村、守村、宗村、鳴海の活躍により、バイオ技術は悪の組織の手には渡らなかった。
 平時は皇宮護衛官として勤務し、一旦事あれば戦隊物・特撮物の悪役退治に出動する、特撮・戦隊物悪役対策室。その活動に、休みはない。