「城北の青き疾風」犬飼高美の学科教習
第1段階
ハンドルを握る身になるにあたって


犬飼:原付二輪以上の自動車を動かせるようになると、行動範囲が広くなる。だけど、一歩間違えば過失傷害、過失致死の前科一犯になりかねない。交通ルールを守る事は、市原刑務所の受刑者にならないよう、身を守るすべでもあるのよ。
今回は、ハンドルを握る身になるにあたっての心がまえをお話するわ。


譲りあいと思いやり

犬飼:道路を渡れなくて困ったこと、みんなもあるわよね。わき道から合流できない車もよく見る。こういうとき、「こっちが優先だ」と我を張って走るのはもってのほか。気を利かせて譲るぐらいの心構えで走るようにしなきゃあだめ。それに、横断歩道のあるところで歩行者がいる場合は、止まらなきゃならない。「歩行者などの保護」でも説明するけど、横断歩道の前に渡ろうとしている人がいるのに止まらないのは「歩行者保護義務違反」にあたってね。路上教習で緊張のあまり見落としているので、あたしたち指導員が補助ブレーキを踏む事もあるし、卒業検定で失敗する一番の原因でもあるんだ。いい、譲りあいと思いやりが大切なのよ。

他人に迷惑をかけない運転

犬飼:車を運転するときは、他の人のことも考えなきゃいけない。幹線道路の植え込みに、ごみが捨ててあるのを見るんだけど、あれは立派な道路交通法違反だから。空ぶかしやアイドリングはもちろん、暴走族、ローリング族、ゼロヨンなんてもってのほか。自動車重量税、揮発油税、軽油取引税は、道を主に使う車の運転者が道路整備の資金を負担するように作られた税金なのよ。それにね、「走り屋」は、地球環境上もよくないうえ、命も危険に晒しているんだ。自動車が傷むしガソリン代やタイヤ代がかかるのは本人の自業自得だからかまわないとしても、道路に損傷を与え、近隣住民は騒音や排気ガスで迷惑し、樹木にも排気ガスの影響が来る。カーブを曲がりきれずに衝突するのは、本人はかまわないかもしれないけど、家族はたまったものではない。ましてや対向車や普通に走っている車にぶつかったら…。
暴走行為を唆すような漫画を描く漫画家は、排気ガスが原因の喘息で苦しむ人たちから「重大違反唆し」「犯罪教唆」で告発されるかもしれないわよ。あたしとしては、ああいうことをする連中は張り倒したいぐらい憎いから、ざまあ見ろと思うけどね。


同乗者の安全確保

犬飼:四輪車は、同乗者が不用意にドアを開けたのが原因で事故を起した場合は運転者の責任も問われる。運転者は側方、後方の安全を確認してから、ドアを開けさせなきゃならない。二輪車は、二人乗りするばあい、同乗者にもヘルメットを被らせなきゃならない。それに、シートベルトの着用やチャイルドシートの使用も、運転者の責任よ。

チャイルドシート、シートベルトの使用

犬飼:チャイルドシートは、交通事故に遭った場合大人のシートベルトに相当する役目を果たす。助手席に1人で乗せたり、膝の上に抱えて乗せるのは、子供を殺す事になりかねないから。親は助かったが子供は死んだという事例では、子供を膝の上に乗せていたケースが多いし、助手席に座っていた子供が気になって事故を起したなんて話も、よく聞くわね。オートマチック車が普及したころ、お母さんが子供を助手席に乗せて走っていたとき、子供がシフトをリバースに入れて、突如車は後進して後続車と衝突…なんて事故もあったし。
だからといって、チャイルドシートなら何でもいいって話にはならない。お金を惜しんで、「大は小を兼ねる」でまだ
0歳児なのに大きくなってからのことを考えて、6歳児のチャイルドシートに乗せたり、その逆で4歳児用のチャイルドシートに10歳の子供を乗せるなんてやったら、効果半減よ。だいたい小学校中学年の10歳ぐらいまでは必要かしらね。
それに、どこにつけてもいいって話にもならない。これは仮免、本免許の問題でよく出る以外に、親になったときに役立つからよく聞いて。一番いいのは、後部座席。助手席エアバッグ装着車はとくにそうよ。だけど物を乗せたりでどうしても助手席に乗せなきゃならない場合は、座席を一番後ろまで下げて、前向きに取りつけるんだ。そうでもしないと、エアバッグで子供の首の骨が折れて死ぬから。余談だけど、外国車で助手席エアバッグを装着しているばあい、ものによってはディーラーから、「身長
160センチ以下の人は大人でも乗せないでください」と説明されるから。理由はチャイルドシートと同じよ。
もちろん、チャイルドシートは確実に、シートベルトで固定して、子供の体格にあったものに乗せること。いい、わかったわね。
それからシートベルト。これはモータースポーツのクラッシュシーンを見ればわかるように、事故に遭ったとき車外に放り出されるのを防ぐ効果がある。群馬県のインターチェンジの急カーブで実際にあった事例では、シートベルトをしていた運転者と助手席は助かったけど、していなかった後ろ
2人は車外に放り出されて死亡…。後部座席も、面倒だからとか、大丈夫だからといって高をくくって装着しないと、死ぬからね。
それに、シートベルトを装着すると、運転姿勢が正しくなって、疲れにくくなる。四点シートベルトはラリーカーのドライバーになった気分がするわよ。
三点シートベルトが一番多いから、正しい着装方法を説明すると、

肩ベルトは首に絡まったりしないようにして、たるませない。
腰ベルトは骨盤を巻くように。
バックルにかちりと音がするまで装着して、ねじれは直す。
背もたれを倒さずにしっかり腰かける。
これだけで命が助かるんだから、簡単じゃない?
バックする場合、妊娠しているなどでシートベルトが装着できない場合などは、外してもかまわない事例なんだ。
あと、エアバッグがあるからシートベルトはいらないなんて考えたら、死ぬわよ。側方から突っ込まれたり、時速30キロ以下だったり、追突された場合は作動しないこともある。それにエアバッグの前に物を置くと、衝突してエアバッグが作動したとき、おいてあった物が吹っ飛んできて二次災害になるから。エアバッグはシートベルトとコンビを組んではじめて力が発揮できる。夏実・美幸コンビみたいなものね。

交通違反・事故を起したら

犬飼:自動車を動かしていて事故を起したり、違反した場合は、以下のとおりの責任に問われるから。
1、懲役、禁錮、罰金などの刑事上の責任
2、免許の取消、効力停止などの行政上の責任
3、損害賠償などの民事上の責任
4、法律に違反した、人に危害を加えたという、道義上の責任
犬飼:業務上過失致死や過失傷害は、略式起訴になれば罰金で済むかもしれないけど、遺族や被害者への賠償やらなにやらで、大変な思いをする。それに、人を結果的に死なせた、前科一犯は変わらないから。あたしの知っている人はお寺さんでね。市原の交通刑務所でお盆にお経をあげてほしいと頼まれていったとき、お経をあげはじめると後ろでみんな、手放しでおいおい泣くんだって…。家族や死なせた人を思い出して…。いい、みんな、市原交通刑務所の受刑者になっちゃだめよ!
酒を飲んでいるのを知っていて車を貸したり、酒気帯びの後輩に先輩風吹かせて家まで車で送っていけと命じたり、過積載になることを知っていて物を乗せたりしたら、乗せろと言ったほうも責任を問われるから。


平素の準備

犬飼:こちらが気をつけていても、事故を起してしまうことだってある。もらい事故ってやつね。こういう最悪のシナリオに備えて、車の中には応急手当のセットをそなえつけなきゃいけないし、第2段階で救命講習をやるようになっているんだ。それと、強制保険と任意保険の2種類の保険にも入らないと。強制保険に入らないと車検も通らないから。

交通法令の遵守

犬飼:道路交通法を初めとした道路交通法規は、過去の事故による苦い経験や悲しい思いをもとに、何回も改正されています。飲酒運転の罰則強化、二輪車のヘルメット着用、シートベルト、チャイルドシートの義務化、原付二輪の2段階右折やオートマチック限定免許は、まさにそれね。道路交通法規さえ守れば、交通事故はなくなるのよ…。

運転に必要な準備

犬飼:せっかくこれから免許を取るって人たちに、市原交通刑務所の話をして威したから、これからは少し明るい話もします。まず、運行計画を立てること。行き当たりばったりにでたらめな道を走ると、時間とガソリン代もかかるうえいらいらする。あげくの果てそれが原因でケンカになって別れたカップル、何組も知っているわ。カーナビゲーションも過信してはならない。あたしはツーリングに行くけど、出発前に計画を立てるのも、なんだかんだいって楽しいものよ。さらに、あたしの教え子で2種大型を持っている人は、自家用車でも分刻みの運行計画を立てて、今日はどこからどこまで、誰を乗せて何キロ走ったと運行日誌をつけているけどね…、まあそこまでやるのはおおげさかもしれないけど。

体調を整える・酒気帯び運転などの禁止

犬飼:あれこれ助言すると、混乱してトンチンカンなことをしでかすタイプの教習生がいる。それは教習課題がうまくいかなくて、運転に向かないんじゃないかってしょげ返っているときに多い。所内で右レーンを走ったときには、こっちもびっくりしたけどね…。心配事があったり、疲れていると気が散って、判断力が鈍って事故を起すいい例ね。麻薬や覚醒剤なんて普通に使っただけでもとっつかまるようなものは論外で、徹夜明け、風邪薬や鼻炎薬など、催眠効果のある抗ヒスタミン剤が入った薬などを飲んだ場合はもちろん、頭痛、歯痛、腹痛、腹下し、身体の具合がどこか一つでもおかしいときは運転しちゃだめよ。仮免、本試験とも「眠くならない薬を飲んだときでも、運転は控えたほうがよい」と出たら、答えは「○」。万全のコンディションでハンドルを握らないと。
それから、少しでもお酒が入った場合は、二日酔でもハンドルは握らないこと。判断力が鈍るうえ、自制心はなくなり、反応も遅くなる。うそだと思うなら全く同じ事を、酒を飲む前とあとでやってみたらよくわかるから。タイピングソフトなんかいいかもしれないわね。それに、お酒を飲むと血行がよくなるから、事故で負傷した場合出血もひどくなる。飲酒運転、酒気帯び運転は一発免許取消か免停だからね。そのばあい、飲ませたほうも共犯にされるから。


運転に適した服装

犬飼:車を運転するときは、四輪車であっても、彼を誘惑するんだといってきわどいキャミソールとミニスカートにハイヒール、お祭りでおみこしを担ぐからといって半被腹掛け、お茶の師匠だからといって和装、土建屋だからニッカボッカに地下足袋…なんて姿では、いざというときのペダル操作が危ないから不適当よ。あたしの教えた教習生では、国鉄の機関士の制服の払い下げに、短靴、保線スパッツ姿という人がいたわね。あれは運転するための服だから、別段かまわないけど、そこまでおおげさにする必要はないわね。

左、運転に適した服装 右、運転には適さない服装

二輪車の場合は、ヘルメットの着用と露出を減らすことが肝心。普通自動車免許を取ると自動的に原付の免許も発生するから聞いてほしいんだけど、原付は自転車感覚で乗ると、痛い目に遭うからね。まかりまちがっても、夏暑いからランニングに短パン、サンダル、制服フェチの彼を誘惑するんだと、ミニスカポリスを意識した革の上着にミニスカートなんて姿で乗っちゃあだめよ。バイク乗りが革のライダースーツや革ジャケット、革パンツを着る理由は、かっこよくみせるためではない。転倒した時に少しでも負傷を減らす効果があるからなんだ。こういうあたしもカーブでバランスを崩して、そのまま路面を数メートル滑走した事がある。あたしは無傷だったけど、着ていたライダースーツはずたずたよ。機会があったらあたしもふくめた、バイク乗りの危険体験談も紹介したいわね。
軍手
1枚はめる、長袖シャツ1枚羽織る、スニーカーをはいている、厚手のジーンズを履いている、谷沢製作所の工事用MPヘルメット、野球場で買った球団のロゴ入りヘルメット、中田商店で買った90式鉄帽を被っている。これだけでも、転倒した場合の負傷度合いは変わるんだ。ヘルメットを被っていたから脳挫傷による死亡、軍手をしていたから指切断を免れたなんてケース、たくさん知っている。
だけど、ヘルメットは
JISマーク、PSマーク、Sマーク、CSマークのついた乗車用のものでないと違反切符切られるし、命の保証もできないから。それに、あごひもはしっかりかけ、あみだや目深には被らず、一回でも強い衝撃を受けたものは被らない。手袋は革製で、指が動かしやすいもの、服は目立ちやすい色で、動きやすく露出度の低いもの。靴はかかとがある革ブーツで、紐などがないといいわね

運転免許証などの携帯

犬飼:四輪車は1から4まで、250CC以上の二輪車は1から3までを必ず携帯したいわね。
1、運転免許証
2、車検証
3、責任保険証明書
4、発炎筒、非常停止灯、赤色懐中灯、停止表示板
1から3までは、事故を起した場合に持っていないと大変なことになる。それに、「免許制度の概要」で触れるように、原付2輪で90CCのバイクを動かしたら、免許外運転になるから。4は故障した場合に必要になる。これ以外に、簡単な工具や応急処置セット、軍手、ぼろきれ、バケツ、レインコート、故障を知らせる赤の手旗と牽引のときに必要な白の手旗、牽引ロープ、バッテリーあがりのときに使うブースターケーブルは欲しいわね。

走行中の携帯電話などの使用制限

犬飼:事故原因の近年の1位は、走行中の携帯電話やカーナビゲーションの操作に気を取られてなどのわき見運転なんだ。最近のカーナビゲーションは、一定の速度では走行中の操作ができなくなっているから。携帯電話も、ハンズフリーの設備をつけ、手を使わずに通話ができる状況では、違反切符は切られないけど、通話の相手が取引先や恋人、上司、先輩後輩など会話内容に気を使う場合は意識がそちらに向いて「意識のわき見」状態になるから、自動車に乗るときは携帯電話のスイッチは切っておくか、ドライブモードにするのが先決よ。無線タクシーやトラック野郎のアマチュア無線はどうなるんだと思うでしょ。無線は、アマチュア無線の資格を持っている人はわかるとおもうけど、「34号車は上野駅西口へ」、「34号車、了解。」のように、的確に、短い言葉だけで意思を疎通させるし、電源は常時入で携帯電話のように交信前後に複雑な操作もないから、別段違反にはならないんだ。
ハンズフリー機能がない携帯電話で通話して、違反切符を切られない場合は、事故など緊急事態の発生を通報する場合だけだから。

 
運転姿勢

犬飼:最後に、運転姿勢についてお話するから。これ、学科試験でよく出てくるのよね。4輪の人も関係ないからといって二輪は聞き流したら、大損するから。
四輪車の場合は、座ったときにひじがわずかに曲がり、膝は、マニュアルはクラッチ、オートマはブレーキを踏んだときに膝がわずかに曲がるぐらい。これが最良の姿勢よ。目線は計器板の少し上を見るような感じで。これが一番死角を減らす目線なんだ。まかりまちがっても、身体を斜めにしたり、肘を窓枠に乗せたりしないように。あたしの知人では、走行中におにぎりかじりだした猛者がいるけど、真似しちゃあだめよ。
二輪車の場合は、肩の力を抜いて背筋を自然に伸ばし、あごを引き、目線は前方を広く見る。手はグリップの中央を握り、手首は自然な角度を持たせ、軽くハンドルを押すような心持ち。ひじは腕の力を抜いて、軽く内側に絞る。座る位置は脚や腕を動かしやすい位置。足はステップに土踏まずを乗せ、つま先は前方へ向け、足の裏は水平に。両膝でタンクを軽く挟む、ニーグリップも忘れずに。
車種を選ぶときには、

1、平地でセンタースタンドが楽に立てられる。
2、またがったときに両足のつま先が楽につく
3、8の字に押して歩くことができる
3条件を最低でも満たさないと。それに、体力に自信があるからといって、いきなり普通二輪免許最大の排気量の400CCバイクに乗ったらだめだから。はじめは原付感覚で乗れる90CC、慣れてきたら125CC、さらに250CC…とだんだん大きくしていくのが最良よ。

犬飼:さて、ここまでドライバー、ライダーとしての心構えを話してきたんだけど、これは最低限守るべき事柄よ。学科教習、実技教習のときはもちろん、免許を取ったあとも、折に触れて思い出して。市原交通刑務所なんて行きたくないでしょ?
というわけで、第
1段階の第1回の学科教習を終わりにします。何かわからないことがあったらいつでも質問にきて。大歓迎だから。