白昼夢
社会人編
一千尋短編集より
〜「小異を捨てて大同につく」〜
〜本作品は、『処刑されちゃうぞ』をもとに、一千尋が書いたものである〜




警ら中の高村巡査、宗村巡査
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詰襟制服にサーベル装備という、昭和戦前の巡査に扮して防犯パトロールをしている高村宗光・宗村高光コンビがとあるアパートの前までやって来ると、銃を持った現行制服やそれに近いが微妙に違う制服の警察官がたった一人の男を引っ立てているのが見えた。
「なんだなんだ、あれは?」
宗村のことばに、高村は返す。
「おい見ろムネさん、あれは墨東署特高課だ!」
「なんだって!?じゃあ引っ立てられているのは
Aか!?」
「まちがいない。」
Aは自らも所属しているエロ同人サークル「悪魔の宅急便」の出したエロ同人CG集で、『逮捕しちゃうぞ』の辻本夏実や小早川美幸、それに『バーンナップ・エクスプレス』の甲子園利緒や神宮真弥をレイプそのほか性犯罪、性暴力としか言えない目に遭わせた。だから作品を熱狂的に愛する墨東署特高課のメンバーに狙われたというわけだ。
「あいつは確かに、俺らの好きな作品のヒロインを汚した。だけど放っておけば墨東署特高課に十中八九は殺される。ムネさん、本部に増援を呼んでくれ。俺は助けに行く!」
「わかった。」
宗村は制服のポケットから携帯無線機を取り出し、本部に報告する。
「こちら高村・宗村班。現在誘拐事件に遭遇中。これから被害者を奪回するので増援をお願いします!」
増援が来るまでにも放っておくわけにはいかないから、高村は
Aを引っ立てていこうとするナツミに、
「おいこらお前ら、その男をどうする気だ。今すぐ放せ。さもないと逮捕監禁の現行犯で逮捕するぞ!」
というと
Aは、相手が高村だということは知らないのか、
「どこのどなたか知りませんが、助けてください!」
と泣きついてきたから、さらに
Aに歩みよると、
「報復を妨害する者は、何人たりとも射殺する。」
といってナツミは
MG42、マヤはM60、リオはM16A2…と一同は現行銃火器を高村につきつけてきた。墨東署特高課の面々はメカフェチに体力魔神、ガンマニアがいるから、ヨリコやコバヤカワミユキ、フジイデラミユキですら7.65ミリや9ミリ口径ではなく、11.43ミリの大口径で威力のある、デザート・イーグル、マグナムを持っている。
対するレイヤーズはというと、昭和
21年式の湯浅警部補は米軍払い下げ拳銃がくるまでのつなぎで装備した大日本帝国陸軍の14年式拳銃、32年式の実藤巡査部長は米軍払い下げのコルト・ガバメント、43年式の有沢巡査なら純国産拳銃のニューナンブ…と、装備規定にある武器しか持てないことになっているから、高村・宗村コンビは佩刀だけだ。これが機動隊の前身の警備隊だったら拳銃装備なのだろうが…。
普通なら、サーベルのみの高村・宗村コンビは圧倒的不利だから、拳銃を持った増援が到着するまで待ったほうがいいかもしれないが、殺気だった特高課の面々は
Aをモデルガンの銃床で小突き、蹴飛ばし、ののしっているから、一刻の猶予もできない状況だった。
(確かに
Aは夏実や美幸、真弥や里緒を汚した。それは憎い。俺だって殺してやりたい。復讐してやりたい。だけど…、だけど今ここで墨東署特高課に渡したら、Aは間違いなく殺される。助けなければ…!)
ただその一念で、高村は命がけの行動に出た。
彼はサーベルの柄に手をやりながら、
「もう一度言う。
Aを放せ。放さなかったら逮捕監禁の容疑で現行犯逮捕だ!」
Aを解放するべく歩み寄ろうとすると、カチョウ課長は、
「かまわん、撃て!」
と号令したから、高村は
「うわっ、やむをえんムネさん、抜刀、応戦!」
といってついにサーベルを抜いたので、宗村も、
「おうよ!」
と言いながら西南戦争の警視庁抜刀隊よろしく斬りこんでいく。
相手が武器を使ったのだから、応戦するのはやむをえない。しかも
Aを殺そうとしている。当時の武器使用の規定の1項には、「多衆聚合シテ暴行ヲ為シ又ハ為サントシ、其ノ状況急迫シテ武器使用ノ外ニ之ヲ鎮圧スルノ手段ナキ場合」(大正14年内務大臣訓令)とあるが、今の状況はまさにそれだ。
しかし、ただのプラスチックの玉である
BB弾とはいえ、ガス・ガンで至近距離からぶっ放せばそれなりの威力があるから、二人は抜刀隊よろしく突進したものの、
「あたた、いてて、おいムネさん、こりゃたまったもんじゃねえ!」
と、新型武器を持った薩長軍相手に鳥羽、伏見の戦いで難渋した新撰組のように射すくめられてしまった。
「くっそー、完璧にアウトレンジされちまったな。」
「俺らもひねて昭和戦前の詰襟でなく、
43年式制服か鉄道公安官にすればよかったな。あれなら拳銃装備だから。」
と宗村と高村が悪戦苦闘をくりひろげているところへ、
「レイヤーズは、総力をあげて被害者を解放せよ!」
という号令がしたから振り向くと、ド・ゴール帽のニックネームのある制帽を被った昭和
51年式制服姿の会長、犬飼高美警部が指揮杖片手に立っていて、背後には、警杖、拳銃装備の警備隊姿の熱川、清水、園田、宮村のカルテットや、昭和21年式制服の湯浅警部補、32年式制服の実藤巡査部長、鉄道公安の大滝公安官、43年式制服の有沢巡査、それに制服婦人警察官で結成した、「婦警戦隊・ブルーユニッツ」の鳴海巡査部長(ミニスカートだったことで有名な46年式制服)、渋川巡査長(21年式制服)、桐田巡査(32年式制服)、高見巡査(51年式制服)、さらには鳴海つながりでやってきた、内藤武士警士部長と近藤衛恵警曹、守村義衛警士と森川あずさ警士がひかえており、犬飼警部の、
「構え!」
の号令で拳銃装備のメンバーはすっと拳銃嚢から各人装備の拳銃を取りだし、
「各人、射撃しつつ前進、突撃!」
で顔や手などの弱点を巧みに狙い撃ち、電信柱やゴミバケツといった掩護物を利用しながら歩兵の散兵突撃の要領で前進してきたから、それまで火力で高村・宗村コンビをアウトレンジしていた特高課は懐に飛びこまれてしまって大混乱。
こうなると形勢逆転。高村・宗村コンビは特殊警棒をふりまわすナカジマやショウジを向こうに回してサーベルでちゃんばらをくり広げるかと思えば、犬飼警部は武器兼用の指揮杖片手に、墨東署特高課の課長、カワサキ・マヤと、
「また騒いでくれたわね、墨東署特高課!」
「そっちこそ真のファンの復仇を妨害してくれるわね!」
とにらみあい、その反対側ではナルオと内藤警士部長が、
「品位を汚すエセファンめ!」
「なにをぬかすか、そっちこそ好きな作品のキャラが汚されても黙っているくせに!」
と取っ組みあっての大立回りを演じている。一方近藤警曹はナツミと、
「伊達や酔狂でこの怪力、使っているんじゃあないんだよ!」
「く、この〜!怪力なら負けはしないわよ…!」
と怪力対決。はたまた向こうでは、
「集団不法行為の容疑で逮捕する!」
「なにを!?」
と湯浅警部補がカチョウ課長と格闘し…の大混戦になっていた。
そのさなか、
Aを奪い返されては大変と車まで引っ立てていたマヤは、
(このままでは、復讐はなりたたない…!)
と考え、ホルスターから拳銃を取り出した。これは改造したモデルガンで、実弾が装填してある。
「ここで貴様を撃ち殺してやる。報復の一弾を食らわせてやる。これは改造銃だが、貴様を射殺するには十分すぎるんだよ…!」
とマヤが脅し文句をはきながら撃鉄を起こすと、青ざめたAが、
「うわ、助けてくれ、俺があんたになにをしたっていうんだよ、現実にあんたを汚したわけでもないのに…!」
と命乞いをしたのを見て、
(あいつは
Aを射殺しようとしている…!)
と判断した高村は、それまでチャンバラをくりひろげていたナカジマを、
「おいムネさん、あとは任せた!」
「わかった!」
と宗村に引き渡すと、
Aのもとへ全速力でかけ出した。
「なにをするんだ、おい!」
高村がマヤの前に立ちはだかった瞬間、彼女は、
「じゃまをするな!」
と叫んで引き金を引いた瞬間、まぎれもない実弾の発射音とともに高村の被っていた制帽が地面に落ちた。
「高村!?」
「高村君!?」
しかし、高村は何事もなかったかのように落ちた制帽を被りなおすと、マヤに向かって言った。
「逮捕監禁と暴行に加え、殺人未遂の現行犯で逮捕する!」

このあとすぐに犬飼が出動する前に呼んだ、本家本元の宗村夏実巡査や川崎警部補といった警察官が来たので、レイヤーズは逮捕した墨東署特高課の身柄を引き渡した。
ところでなぜ高村が無事だったかというと、彼が
Aを救うべくマヤのほうへ向かったときに、近藤は、
(マヤが高村を狙っている…!)
と殺気を察したので、ちょうど
KOした特高課員を辻本夏実よろしく頭上にさしあげ、
「どぅおりゃあぁ〜!」
とばかりマヤめがけて投げつけたのが手元にぶつかり、狙いが狂った彼女は見当違いのところに発射したので、弾は高村の制帽をかすめて飛んでいったというわけだ。

銃までぶっ放して騒いだ墨東署特高課の面々は、逮捕されても、
「俺達はなにも悪いことをした覚えはない。性犯罪としか言えない目に遭わされた女性に代わって復讐をしただけだ。」
だとか、
「人権侵害をやる奴らに対して、警告を発しただけだ。」
「女性にとって死にも均しい目に遭わせた奴だから、殺すしかない。」
などと言い、悪いことをしたとは認めなかった。


さて、舞台は変わってレイヤーズの例会の席。今回は
T大学のカウンセリング研究所の会議室を借りている。
墨東署特高課の身柄を引き渡された、現役警察官の宗村夏実が、
「特高課の連中は、
Aを狙うため自宅や職場はおろか、いきつけの店までつけまわしたんだってさ。時代が時代なら天誅だなんだとやっていたような手合いね。それに、今まで何回も作品の悪口を言った奴を殴ったり、エロパロ同人作家を襲撃してたんだってさ。」
と言うと、森川が次いだ。
「そういえば最近、パトロールのときあの近辺で怪しい車をよく見かけたわね。もしかしたらそれが…、墨東署特高課の車だったわけ?」
「かもしれないね。」
夏実が返すと、内藤がつぐ。
「脅迫して作品やキャラの悪口を言う奴を黙らせたり、レイプネタエロ同人作家を襲撃してエロ同人のネタに使わせないようにするなんてやりかたは中国の特務だぜ。墨東署特務科と改名すべきだね。」(注)
「キャラが好き、作品が好きといっても、架空の世界で起こったことを現実で復讐するなんてゆがんだファン心理としか言えないわ。」
と鳴海が言うと、実藤は特高課の作った報復計画書を読みながら次ぐ。
「確かに、この『報復計画書』に載っている連中の描いていたものは女性を物としか見ていない。男としてもあまり気分のいいもんじゃあないから、『女性にとって死にも均しい目に遭わせられたからエロ同人作家を殺すんだ』っていう、墨東署特高課の気持ちはわからないでもないけど…。感情移入もここまでくると、多重人格としかいえないね。」
「射殺するんだといって改造拳銃まで持っていたとは恐れ入ったわ。狂暴化しているのかもしれないな…。今回は高村君の帽子をかすめて飛んでいっただけだけど…。」
近藤が言ったので、副長の湯浅が、
「レイヤーズの基本装備に、防弾衣・防刃衣をつけ加えなければならなくなる日が来かねませんね。」
と引き取ると、犬飼は言う。
「だけど、レイヤーズの防犯パトロールは続けなければならない。なんてったって高村君とムネさんが、血が流れる寸前でくいとめたんだから。」
すると、宗村が、
「いやあ、高村の制帽が落ちた瞬間はドキッとしたな。なんてったって銃声のすぐあとに地面に落ちたから、てっきり撃たれたのかと思ったよ。だから俺、高村の仇だってナルオのどたまを思いっきりぶん殴っちまったんだ。」
というと、高村は苦笑して返す。
「まだまだ、俺は死ぬに死ねないからね。」
「ところでさ、なんで衛恵さんは相手が高村を狙っているとわかったの?」
渋川が振ったので、近藤は返す。
「なんでかしらね、虫の知らせとしか言えないわ。」
「え〜!?衛恵は予知能力があるの?」
鳴海が言うと、夏実が継ぐ。
「あたしは霊感がつよいけど、予知はちょっとね。」

近藤衛恵の予知能力について盛りあがる一同は、どこをどう見ても普通の人々にしか見えない。しかしひとたび事件があれば自分の身の危険も顧ず、戦う。
新旧混在の制服姿で、なんらの見返りを求めず、自らの好きなもの、大切なもののため戦う人間集団、それがコスプレ集団・レイヤーズなのだ。


モデルになってくださった、レイヤーズの皆さんにはこの場を借りて感謝します
一千尋



特務とは、中華民国国民政府時代に行われた、暴行、脅迫、殺人、説得…で反政府要素を持つものを排除する公権力活動のこと。