白昼夢大学院編〜時間稼ぎだ、レイヤーズ!

白昼夢
大学院編
〜時間稼ぎだ、レイヤーズ〜


1
ベナラクサ対鳴海・宗村…?

宗村高光巡査と鳴海悠子巡査は、ウマ怪人ベナラクサと対峙していた。


クリックすると拡大されます

相手は身の丈
2メートル以上で筋肉隆々、30トン40トンのものを軽々投げられる怪力の持ち主だが、鳴海と宗村は一般人。対処できるのか…?
「ふはは、ユニッツファイブが来るまでのあいだのウォーミングアップにしてやる。」
ベナラクサのセリフに、鳴海、宗村は動じない。それどころか余裕を見せる。
「そうは…、いくかな?」
「ふふっ、どっちがウオーミングアップになるのかしらね。」
しばらくにらみあっていたが、しびれを切らしたベナラクサが襲いかかってきた。こういう場合、先に仕掛けてきたほうが負けになる確率が高い。
どうやら今回も、そうなりそうだ。
突進してきたベナラクサに、宗村はすばやく腰の警棒を抜き放ち、がつんと一撃。
「そんな攻撃、利かないな!」
宗村の攻撃は、相手を油断させるためのもの。ベナラクサの見せたすきをつき、鳴海はポケットから拳銃をすばやく取り出し、どんな生物でもある弱点の一つ、目につるべ撃ちで弾を浴びせかけた。
「うわぁ、なにをする!?」
鳴海の拳銃は私服刑事や婦人警察官が持つワルサー
PPKで、口径は7.65ミリ。屈強なボディを持つベナラクサなら、宗村が持つ、11.43ミリ弾のスミス・アンド・ウエッソンM1917でも平気なはずでは…。
それもそのはず、これはよい子のみんなのための特撮ショー。鳴海と宗村は、時間稼ぎのつなぎ役として、怪人ベナラクサのお相手を務めている。なぜそうなったかというと……

2
ことのおこりは

「えーっ、あたしたちが特撮ショーに出演!?」
「そ、高美さんたちレイヤーズしか頼れないんだよ〜。ね、お願い。」
「でもねぇ…、レイヤーズは今、会場警戒で出動しているし…。」
ここは、コスプレイベント会場の控え室。会場警戒で出動中のレイヤーズ・メンバーは歴代警察官制服姿で、レイヤーズ会長の犬飼高美はマニアのあいだでは一番人気の、昭和
51年式制服で、階級章は指揮官らしく警部。
頼み込んでいるのは犬飼のバイク仲間、大川樹理。今日はレイヤーズ・メンバーの南条理恵の関係で入った劇団の「ユニッツファイブ」ショーの戦闘員役で来ている。
おなじく劇団員で近藤衛恵の友人、日系
4世のスタントウーマン、アレッサンドラ・タカモリ・ロペスことサンディが次ぐ。
「いやあ、荷造り間違えられてたんだよ。あたしらは特撮物ショーなんだけど、ケース開けてみたらメルヘン物の衣装なんだからさぁ…。」
劇団の面々が現場につき、セットの設営も終わり、さあ衣装合わせとリハーサルをしようと衣装ケースを開けたところ、悪役ベナラクサの衣装はあったものの、ユニッツレッド以下のメンバーと戦闘員の衣装のかわりに、うさぎのミッフィーの着ぐるみが入っていた。
もちろんすぐにユニッツレッド以下と戦闘員の衣装を取りに行ったが、一回目の公演には間にあいそうにない。
「どうしよう…。まさかユニッツファイブのかわりにミッフィーを出すわけにもいかないし…」
うさぎの女の子のミッフィーが、筋肉隆々のウマ怪人・ベナラクサと対決するのは珍妙な取り合わせだし、そのギャップはおもしろいかもしれないが、「制服戦隊 ユニッツファイブ」は職業制服がモチーフだし、ミッフィーは絵本で知られたキャラクター。「ミッフィー対ベナラクサ」をやるわけにいかない。
一同が青ざめた瞬間、大川が、
「確か、今日は高美さんが……。」
と、レイヤーズが近くのコスプレイベントに警備で参加しているのを思い出し、協力要請にきたわけだ。
「衣装が来るまでのあいだ、ぜひとも協力いただけませんか…。」
監督も言ったので、犬飼会長は決断する。
「よし、わかった。困っているのに断ったらレイヤーズの名前がすたる。だけど今は会場警備やっているから、全員が出動するわけにはいかないのよね…。湯浅の御大、シフト表にはなんて書いてある…?」
「ええと…、この時間は…。」
レイヤーズの参謀総長、湯浅の御大こと湯浅昭弘警部補(昭和
43年式制服)が、警備のシフト表を取り出し、誰が空いているか確認しようとした瞬間、鳴海悠子巡査(制服は犬飼に同じ)と宗村高光巡査(昭和27年式制服)が、巡回から戻ってきた。

クリックすると拡大表示されます
話を聞くと、二人は返す。
「それだったら、僕らが行きます。ちょうど空いているし。」
「そういう理由なら、喜んで協力します。」
鳴海と宗村は、コスプレ集団・レイヤーズが結成されてからのメンバー。場数もこなしているし、舞台度胸もある。
「なら任せたわよ、二人とも。」
「はいっ!」
というわけで、鳴海、宗村の二人は、劇団員に混じって出演することになった。
ぶっつけ本番、アドリブ勝負。舞台の袖から顔を出すと、前列には親子づれが、後ろのほうには「おおきいおともだち」が来ているのが見える。
緊張をほぐすかのように、宗村が、
「制服、また時代差ができたねえ…。」
というと、鳴海は返す。
「今回は…、
24年になるわね。」
宗村の制服は、昭和
27年制定のもので、4つボタン背広型、装具を帯革でつるデザインは湯浅警部補の着ている昭和43年式と同じだが、腰ポケットはかざりで、左腕に逆V字の階級章がつく。一方鳴海の制服は、マニアのあいだでは根強い人気、このシリーズでも何回か出てきている、4つボタンアウトポケット、制帽には「ド・ゴール帽」というニックネームのある昭和51年式制服。犬飼が着ているのと同じだが、年相応で階級は二人とも巡査にしてある。『時代劇の「それは大きな、ミステイク」』でも二人はペアを組んでいるが、宗村は詰襟の昭和10年式だった。だが今回は折襟背広式だから、外見上の違和感は少ない。
今回は会場警戒のための特権として、警棒に加え、宗村はスミス・アンド・ウエッソン
M1917、鳴海はワルサーPPKのガス・ガンを装備している。
「みんな、ユニッツファイブショーが、はっじまるよ〜!」
司会のお姉さんの声が響く。時計を見れば開演時間。レイヤー二人を交えた「制服戦隊 ユニッツファイブ」ショーが、始まった。



宗村巡査と鳴海巡査は、パトロール中といった自然体で、ステージに出る。舞台の袖には監督が立ち、サインを送っている。
「どうやら、異常なしってところね。」
鳴海巡査が言うと、宗村巡査は返す。
「そのようだね…ん、こりゃ大変だ。馬が逃げ出しているぞ。悠子さん、本署に連絡して。」
二人の目の前には、黒毛のオス馬が。
宗村が手綱を探そうとすると、馬はしゃべった。
「ふははは、我輩は馬ではない。世界征服を狙う秘密結社、シェーカーの誇るウマ怪人、ベナラクサである!!」
ここでまがまがしい効果音が入り、ベナラクサの恐ろしさが増す。会場の子供たちの中には泣くものも。
ベナラクサの身の丈は
2メートル以上で筋肉隆々、30トン40トンのものを軽々投げられる怪力の持ち主だが、鳴海と宗村は一般人。対処できるのか…?
しかし、二人は動じない。
「ウマ怪人のベナラクサ…?なんだか鍋にされそうな名前ね。」
鳴海巡査が言うと、宗村巡査は次ぐ。
「それに秘密結社の名前がシェーカー…?どこかで聞いたような名前の二番煎じだなぁ……。馬の面を取ったらどうだい?職務質問するよ。」
ベナラクサはわめく。
「うう、黙れ黙れ黙れ一般人。泣け、叫べ、わめけ。お前らのピストルなど、我輩には無力。ユニッツファイブが来るまでのウォーミングアップにしてやる。」
司会のお姉さんの合いの手が入る。
「さあ、二人のお巡りさんはどうなっちゃうのかな…。ユニッツファイブは来るのかな…、仲間のユニッツブルーは来るのかな〜?」
しばらくにらみあっていると、監督がベナラクサに攻撃しろというサインを送った。
「くらえ、蹄鉄アターック!」
ベナラクサが襲いかかってきたので、すばやく宗村は腰の警棒を抜き放ち、がつんと一撃。
「そんな攻撃、利かないな!」
宗村の攻撃は相手を油断させるためのもので、ベナラクサがたじろいだすきにポケットから拳銃をすばやく取り出した鳴海が、どんな生物でもある弱点の一つ、目につるべ撃ちで弾を浴びせかけた。
「うわっ、なにをする!!」
鳴海の拳銃は私服刑事や婦人警察官が持つワルサー
PPKで、口径は7.65ミリ。屈強なボディを持つベナラクサなら、宗村の11.43ミリ弾を使うスミス・アンド・ウエッソンM1917でも平気なはずだが、目や顔面にあたれば、誰だってひるむ。
鳴海の弱点射撃にひるんだベナラクサに、さらなる一撃が。といっても宗村、鳴海は何もしていない。
「そこ、端っこだ!」
「危ない!!」
「痛い痛い…うわっ!」
「あちゃー!」
どしーん!
目測を誤り、ステージからベナラクサが転げ落ちた。いくら着ぐるみに入っていて、下にマットがあったとはいえ、ダメージはあるだろう。
司会のお姉さんは場慣れしているので、すかさずフォローする。
「ベナラクサがステージから落ちてしまいました。鍛えているから大丈夫だと思うんだけど…。敵でもみんな、応援してね、がんばれ、ベナラクサー!」
「ベナラクサー!」
ヒーロー・ヒロインが好きな子供たちから野次や罵声、ときには足に抱きつく、物をぶつけられるなどといった目にこそ遭うが、悪役が声援を受けるなんてめったにない。これは不幸中の幸い…?
鳴海と宗村は、ステージから転げ落ちたのをおっぽっておくわけにはいかないので、観客席におり、
「…お、おい、ベナラクサ。しっかりしろ!」
「痛いところがあったら言ってね、折れていたら大変だから。」
と言ったところへ、どやどやと戦闘員がやってきた。
衣装が届いたらしい。
「ああっ、ベナラクサ様!」
「おのれ、ベナラクサ様に何をした!?」
口々に言う戦闘員。
「今ごろきたか、役立たず!」
周りの手前、戦闘員を怒鳴りつけたがベナラクサ、配下が来てうれしい。
あちこちさすりながら、彼は続ける。
「ううーむ…。お前ら一般人じゃあないな、ユニッツブルーの仲間…、いや、上司だな。変身しないでも強いんだから。」
ユニッツブルーの変身前は警察官だから、これには思わず、二人とも苦笑する。
それはともかく、二人は決めゼリフを。
「警視庁巡査宗村高光、警視庁抜刀隊の末裔の意地、見せてやったのよ。」
といって宗村巡査は、警棒を構える。
鳴海巡査はワルサー
PPKを構え、次ぐ。
「同じく警視庁巡査鳴海悠子、大和撫子をバカにすると、痛い目に遭うからね!」
「ううむ、なんだかよくわからんが今日のところは引き揚げだ!ユニッツファイブに伝えておけ、この勝負、預けておくとな。」
戦闘員を従え、ゆうゆうと退出していくベナラクサ。
一方、鳴海と宗村は、それぞれ警棒と拳銃を戻し、首をひねる。
「関係ないのにねぇ〜。」
「いったいなんだったんだい、ありゃあ?」
司会のお姉さんの声が入る。
「怪人二人をやっつけたお巡りさん二人は、ユニッツブルーの味方なのか、わからないことだらけだけど、今日はここまで。みんな、またね〜!」


公演が終わっても、それですぐに衣装を脱げるわけではない。よい子のみんなとの記念撮影やサイン会、握手会が待っている。
衣装が間にあったヒーロー・ヒロインたちが、よい子のみんなとふれあっている姿を見ながら、宗村が、
「いやはや、すごい騒ぎだね。」
と言ったところへ、
「その制服はいつごろのですか。」
と尋ねてきた声がするので見れば、予備知識のありそうな若いお父さんだったので、彼は返す。
「国家地方警察と自治体警察の二本立て時代なので地方によってばらつきはありますが、警視庁管内では昭和
25年から31年、国家地方警察では昭和27年から31年まで使われたものです。43年から平成6年までのものに似ていますが、生地が紺色なのと、腰ポケットが飾りで、階級章が腕につくのが大きな違いですね。」(注1)
一方鳴海は、制服マニアらしき「おおきいおともだち」が、
「その拳銃は、刑事が使うワルサー
PPKですね。」
と言ってきたので、警笛モールにつなげたモデルガンを出し、鳴海は返す。
「いかにもこれは私服刑事や女性用として使われている、ドイツ製
7.65ミリのワルサーPPKです。ほかの銃にしたほうがよかったですか?」
この答えに、銃など知らないだろうと思っていた「おおきいおともだち」は、
「え、いや、まあそのあの……。」
と、撮影もそこそこに青くなって帰っていった。


よい子のみんなや「おおきいおともだち」との相手を終え、鳴海と宗村が控え室に入ってくると、一足先に戻ってきていた大川樹理と舞台監督、ベナラクサ、犬飼高美会長と記録班の桐田かおる、村瀬頼子コンビ(制服は犬飼に同じ)と鑑識作業服姿の岡部慶四郎カメラマンが、待っていた。
舞台監督が、
「お二人のおかげで、なんとか公演に穴をあけずに済みました。」
というと、宗村は返す。
「いえいえ、こちらもあがってましたね。」
ベナラクサ役がつづける。
「いやあ…、いきなり顔面に
BB弾がべちっとあたったときには、びっくりしたけどねえ…」
「ごめんなさい、まさか弾が装填してあるとは思わなかったのよ。」
鳴海が言うと、犬飼が驚いた声をあげた。
「あれ、偶発だったんだ。てっきり台本にあるかと思った。」
「見てたんですか、先輩!」
鳴海が言うと、犬飼は返す。
「メンバーが出ているんだからね。記録係の面々と見に来たわよ。」
舞台監督は、苦笑して次ぐ。
「舞台から落ちた瞬間は、頭が一瞬真っ白になりかけたがね。今回は派手な立ち回りはなかったが、見ていておもしろかったな。こういう台本で、何かやってみたいねえ……。」
文芸担当のメガネっ娘、村瀬が、
「創作意欲を刺激されました〜。」
と言うと、絵画担当の桐田かおるが次ぐ。
「しっかりスケッチしてあるものね。」
岡部カメラマンが引き取る。
「きっちり活躍の記録は押さえてあるから。」
そういう桐田のスケッチブックは、びっしりと二人とベナラクサの絵で埋まっている。今日の活躍は、二人の創作活動の題材になるだろう。

3
一件落着、それから…

午後の公演はつつがなく、ユニッツファイブと戦闘員、ベナラクサの立ち回りになった。
「ふははは、現れたなユニッツファイブ。」
「ベナラクサ、お前なんかすぐに倒してやる!」
もちろんユニッツレッドはサンディで、戦闘員には大川もいる。
トンボを切り、はでに立ち回りをする姿を見て、犬飼が、
「戦隊物、あたしたちもやってみたいわね。」
というと、鳴海は返す。
「施設のみんなのお楽しみ会で、呼ぼうかしら…。」
宗村がひきとる。
「僕らが演じたら、どうなりますかねえ。」
犬飼は、笑って続ける。
「あたしは、司令か悪役の女帝といったところかな……。だけどレイヤーズがやるとなったら、普通の戦隊物のようにはいかなさそうよね、一般人が怪人退治しちゃえるんだからさ。」
犬飼の言葉に、思わず鳴海と宗村は、顔を見合わせた。
「もう一回、僕らは活躍しないといけないみたいだね。」
「そのようね。」

それから数か月後。鳴海の勤務する授産所のお楽しみ会で、再び鳴海・宗村ペアがベナラクサと対決することになるが、その詳細は、また別の機会に。

用語解説
国家地方警察、自治体警察
1948(昭和23)年から1954(昭和29)年までは、市と人口5千人以上で、鉄道、港湾、街道など交通の要所がある町・村は、自前で警察と消防を持たなければならなかった。これを自治体警察と呼び、警察が維持できない町村は、事務組合を作るか、国の運営する国家地方警察で治安維持にあたった。アメリカ・イギリス式に改めたわけだが、東京都内でも23区を所管する自治体警察警視庁とそれ以外の市町村の自治体警察、国家地方警察の分立となり、事件発生時には自治体警察どうしで連絡しなければならず不便、小さい市町村では10人前後で治安維持にあたらなければならず大事件、大事故のとき不安、さらには予算がない…といった理由で、1954(昭和29)年に、現在の都道府県が管理する警察という形になった。ちなみに現在でも消防はこの名残で、市町村が管理運営している。 戻る