白昼夢
学部編
ある日のレイヤーズ
〜制服に似合う車〜
都内某所の遊園地で開かれたコスプレイベントに、犬飼高美会長、湯浅昭弘副長、鳴海悠子、高村宗光、宗村高光は、歴代の警察官制服姿で出動していた。
高村は詰襟式の昭和10年式、湯浅副長は開襟式になった昭和21年式、宗村は背広式の27年式、鳴海と犬飼は昭和51年式。階級は、風格のある犬飼と湯浅は巡査部長で、あとは年相応で巡査だ。
遊園地にはゲームやアニメ、芸能人などほかのジャンルのコスプレイヤーがほとんどだが、レイヤーズの男性陣は、孫の相手をしているおじいさんおばあさんに呼び止められることが多い。実物を同年代で見た人たちだからだろう。
もちろんレイヤーズもなれたもので、たとえば、昭和27年式制服の宗村は、
「曽根史郎の『若いお巡りさん』に出てきたのは、これですよ。」
と返しているし、女性陣は、主催者側が用意した特機のミニパト仕様トゥディのまえで、辻本夏実・小早川美幸の『逮捕しちゃうぞ』を意識したポーズをとっている。
撮影と一般客の混雑が一段落ついた、午後2時。レイヤーもちらりほらりといる食堂で、一同は昼食にする。
「日本を舞台にした漫画やアニメ、ゲームキャラはともかく、異世界のキャラクターが和風のものを食べているとなると、少々趣が変わるわね。」
犬飼が言うと、鳴海が次ぐ。
「あら、あそこにいるのは、ディードリットとギムのようね。」
一同が目線をやると、『ロードス島戦記』のエルフのディードリットとドワーフのギムがいる。食べているのは…、ギムは焼きうどん、ディードは焼きそば。二人とも「剣と魔法の世界」のキャラクターだから、違和感がないとはいえない。
親子丼を手にした湯浅が、次ぐ。
「エルフとドワーフは、正反対の種族という設定を地で行っているな。」
偶然だろうが、体格とおなじで、小柄で恰幅のよいドワーフはうどん、細身で長身のエルフはそば。
「これで二人ともスパゲティなら、違和感ないんだろうがね。もっとも俺らがスパゲティというのも、正反対で違和感があるだろうけどさ。」
高村がうどんをすすりながら言うと、宗村が次ぐ。
「うそか本当か確めるすべがないけど、中国の麺が流れ流れてイタリアではスパゲティになったというがね…。」
犬飼が続ける。
「そういうムネさんと高村も、うどんね。」
高村が返す。
「宇高連絡船讃岐丸の食堂でうどんを出したのが、「讃岐うどん」のネーミングのきっかけだって、讃岐丸の食堂でうどんを作り、今は高松駅のキオスクでうどんをうでているおばちゃんが言ってたな。」
湯浅が次ぐ。
「コスプレするときは、休憩時間に食べるものにも気を使わなきゃならないのかもしれないな。」
レイヤー相手の雑誌を手にした鳴海が、言う。
「シチュエーションで思い出したんだけど、『逮捕しちゃうぞ』に出てくる、トヨタ800やトゥディを、漫画そのままに改造して持っているオーナーさんがいるんだって。」
犬飼が返す。
「そういえば、今日も撮影関係の特機レンタルのところから呼んだ、トゥディが来てたわね。あたしたちの制服に合うといったら、あの車かな?もっともニトロ噴射じゃあない、ノーマル仕様だけどね。」
「湯浅の御大の時代は、どうなる?」
鳴海が振ると、湯浅は返す。
「俺のころは…、昭和21年、22年ぐらいだと、戦時中の酷使と物資欠乏でがたがたになった代燃車を、だましだまし使っていたな。もっとも昭和25年ぐらいになると、アメリカ払い下げのジープを白く塗ってパトロールやっているね。ムネさんのころだとどうだい?」
宗村が続ける。
「僕のころも、湯浅の御大と同じだねえ。「了解了解、本部了解…」と曽根史郎さんが「白いジープのパトロール」で歌っているように、米軍払い下げの無線機を積んで、「こちらケイシ23、本部了解。」とやっていたころだろう。もっとも30年代に入るとクラウンがパトカーとして使われ始めているね。高村のころは、どうだい?」
高村が、次ぐ。
「俺のころの警察自動車は、特別警備隊の隊員輸送のトラックと指揮班用乗用車以外は、警察部に数台黒塗りの乗用車があるっきり。街の警察署でも乗用車が一台か二台あればいいほうで、それで皇族の警衛、署長や部課長が警察部に会議で行くときの送り迎えから、事件現場へ鑑識を運んだり、非常線を張るんで私服刑事や制服巡査を乗せたり拾ったり、容疑者被疑者を留置場から検察や裁判所、拘置所へ乗せていくのにも使ったな。そのあとは湯浅の御大が言うとおり、ガソリンが手に入らなくなって代燃車、さらには部品不足でがたがた…だね。」
「へええ、警察用自動車も、時代とともに変わったのねえ。」
鳴海が言うと、高村は、続ける。
「俺らのころは、自動車の免許を持っている人間そのものが、いまの海技免許並に少なくてね。警察職員の運転手が、巡査より給料がよかったりしたんだ。巡査で免許を持っていると自動車専務になって、何もない日は定時であがれるときもあるが、事件や事故があればさっき言ったように非常線を張るんだ、捜査会議だと走りまわらなきゃならなくなって、文字通りの不眠不休よ。それが原因で交通事故を起して殉職…なんて話は、俺が知っているだけで、神奈川と岡山で一件づつ起こっているな。」
「確かに、高村君が言うとおりよ。国立公文書館にある、「警保局長決裁書類、昭和21年」には、二件事故での殉職が報告されているわね。」
犬飼が言うと、鳴海が次ぐ。
「そうなると…、自動車専従がなくなるのは、昭和30年代後半、モータリーゼーションが進んだころになるのかな?」
宗村は返す。
「そうなるね。もっともクラウンパトカーは昭和40年代まで使われるから、32年式や43年式でも違和感はない。それに、クラウンとセドリックの歴代モデルはパトカー仕様にしておけば、違和感ないからね。」
湯浅が続ける。
「さすがにウイリスの戦中型ジープは、持っていても軍用仕様だから無理だろうから、陸自が使った三菱ジープをそれっぽく改装する話になるな。そうすれば、ランドローバーやランドクルーザーがなぜできたかの理由がわかるだろうね。」
高村が、言う。
「ああ、屋根がない吹きさらしだから、冬は寒くてたまらないって話だろう?確か俺は、払い下げのジープを使って送電線の見回りをやる、電力会社が折衝したと聞いたがねえ。」
鳴海が引き取る。
「さすがに、初代クラウンや白いジープのパトロールは車があるかどうか怪しいけれど、一回はパトカーを使っての撮影、やってみたいわねえ。」
一同は、歴代警察官制服姿で、同じ時期のパトカーとで写真に収まる姿を想像する。
「一回、やってみたいよなあ〜。」
それから幾星霜。犬飼、鳴海、宗村の三人は、ふとしたことがきっかけで、この願望が実現することになる。それが、「『月光仮面』のパトカー」である。