白昼夢社会人編〜狂戦士対ベナラクサ〜

白昼夢
社会人編
狂戦士バーサーカー対ベナラクサ〜


レイヤーズやカウンセリング研究所と縁の深い、学童待機施設の夏のお楽しみ会でのこと。
「時間稼ぎだ、レイヤーズ」というタイトルで頼子が形にした、あたしとムネさんが、コスプレを生かして、劇団の悪役以下の衣装が来るまでの時間稼ぎをやった関係とサンディさんの縁で、「制服戦隊 ユニッツファイブ」のショーを、呼んだ。時間稼ぎをしたことを、恩義に感じていたのだ。
今回の公演では、レイヤーズも通学路の防犯パトロールをする関係で、顔を覚えてもらうのも兼ねて、高美先輩、ムネさん、高村君、守村君、あたしの
5人が、着なれた各人の時代の警察官夏服で出演する。もちろん、ムネさんは昭和27年式で、あたしと高美先輩は昭和51年式。
リハーサルも終わり、公演前の待ち時間。ムネさんの機嫌がなんだか悪い。理由を聞いても、「なんでもない」の一点張り。
「どうしたのかしら。」
あたしが言うと、昭和
10年式制服姿の守村君が、佩刀の手入れをしながら返す。
「あいつは偏屈者じゃ。今に始まったことじゃあないわい。」
昭和
21年式制服の高村君が次ぐ。
「ムネさんの変わり者ぶり、知らないわけないだろう?ま、放っておくこったね。」
ムネさんが一風も二風も変わった男なのは、先刻ご承知。だからこそあたしは好きになったのだ。
高美先輩が、次ぐ。
「紀行番組から特撮にチャンネルまわしたからじゃあないのかしらね。」
今日は日曜日。趣味が渋いムネさんは「関東甲信越小さな旅」を見ているが、特撮物が同時間帯にやっているので、演技の参考にするべくチャンネルを回したのが利いている…のかもしれない。
「どうしたのかしらねえ…。」
そのときは高美先輩の「ムネさんは変わり者」説で片づけたが、なんとなく、嫌な予感がした。
その予感は、的中する。

時間どおり、会は始まった。
予定通り、小学生・中学生、保護者の出し物…とプログラムは進み、最後の最後、「ユニッツファイブ」のショーに移る。
「なお、今回は特別出演として、通学路のパトロールにあたる、コスプレ集団・レイヤーズの皆さんも出演します、応援、よろしくね〜!」
司会のお姉さんの声がする。あたしたちも舞台に出てあいさつすると、わっと歓声があがる。
あたしとムネさんがウマ怪人・ベナラクサ以下に襲われるシーンまでは、台本どおりに進んでいる。
あたしたちはパトロール中といった自然体で、ステージに出る。
「どうやら、異常なしってところね。」
あたしが言うと、ムネさんは返す。
「そのようだね…ん、こりゃ大変だ。馬が逃げ出しているぞ。悠子さん、本署に連絡して。」
目の前には、黒毛のオス馬・ベナラクサが。
ムネさんが手綱を探そうとすると、馬はしゃべった。
「ふははは、我輩は馬ではない。世界征服を狙う秘密結社、シェーカーの誇るウマ怪人、ベナラクサである!!」
ここでまがまがしい効果音が入り、ベナラクサの恐ろしさが増す。会場の子供たちの中には泣くものも。ベナラクサの身の丈は
2メートル以上で筋肉隆々、30トン40トンのものを軽々投げられる怪力の持ち主だから、なおさらだ。
「ウマ怪人のベナラクサ…?なんだか鍋にされそうな名前ね。」
あたしが言うと、ムネさんが次ぐ。
「それに秘密結社の名前がシェーカー…?どこかで聞いたような名前の二番煎じだなぁ……。馬の面を取ったらどうだい?職務質問するよ。」
ベナラクサはわめく。
「うう、黙れ黙れ黙れ一般人。泣け、叫べ、わめけ。お前らのピストルなど、我輩には無力。ユニッツファイブが来るまでのウォーミングアップにしてやる。」
司会のお姉さんの合いの手が入る。
「さあ、二人のお巡りさんはどうなっちゃうのかな…。ユニッツファイブは来るのかな…、仲間のユニッツブルーは来るのかな〜?」
「くらえ、蹄鉄アターック!」
ベナラクサが襲いかかってきた。本来ならムネさんを狙うはずのベナラクサのパンチは、なんと、あたしにあたった。運の悪いことに、見事なまでの、右フックで。
「痛い!」
油断していたあたしは、ものの見事に吹っ飛ばされた。
「ああっ。」
観客席からは悲鳴に似た声が。
「何をしやがる、この馬野郎!!」
その瞬間、ムネさんは腰の警棒を抜き放つなり、ベナラクサに襲いかかった。
「よくも悠子の、それも顔面を殴ったな。貴様それでも怪人か。怪人の拳は、ヒーローにこそ向けられるんだ!!」
「痛い痛い、やめろ、やめてくれ〜!」
ベナラクサが痛がって悲鳴をあげるが、ムネさんの攻撃は続く。
「何を抜かすか、この馬野郎!お前なんかコンビーフと桜鍋にしてやる!いままでお前に殺された人々の怨み、思い知るがいい!!」
客席からは、ムネさんの「コンビーフと桜鍋」に笑い声があがる。
「筋肉の固まりだから、食べられないよ!」
「歯が欠けちまう。」
はじめは時間稼ぎのアドリブだと思った攻撃は、相手の急所を狙っている。しかもムネさんの目は、殺意を帯びている!
これはただ事ではない。
あたしが狙われたと、本当に思っているんだ。
「ムネさん、やめて、やめるのよ!」
騒ぎを見て事情を察した高村君と守村君が、ステージに飛び出してきた。
「ムネさん、やめろ、やめるんじゃ!」
「放せ、守村、放せ、武士の情けだ!全国の警友のため、俺は戦う!!」

『忠臣蔵』の「刃傷松の廊下」よろしくムネさんを引き離し、あたしたちは舞台の袖の控え室に入った。
あとはサンディさんたちの演技なので、本物に任せる。
控え室に下がっても、ムネさんは、
「放せ、あいつは悠子を狙った。不倶戴天の仇だ!殺してやる。」
と激昂しているので、あたしは言う。
「ムネさん、あたしは無事よ。怪我も何もしていない。それなのにまだ、ベナラクサを殺すとかってわめくの。」
しばらくたつと、ムネさんも正気づいた。
守村君があたしの袖を引くので、廊下に出ると、彼は言った。
「鳴海さん、さっきの全国警友云々で思い出したが、あいつが暴発したのは、今朝見た戦隊物に原因があるかもしれない。」
高美先輩が、次ぐ。
「その可能性、大ね。」
演技の参考のため見ていた戦隊物では、冒頭で、警ら中の警察官や酔っ払いといった一般人が怪人に襲われるシーンがあった。それを見た瞬間、ムネさんの表情が一瞬だが、凍りついた。そのあとから不機嫌になって、理由を聞いても「なんでもない」の一点張りになった……。それをあたしたちは、「いつも見ている番組を思い出したが、チャンネルを変えてくれといわなかった」ととっていたのだ…。
守村君はつづける。
「全国警友…は、あの作品でやられた警察官の復仇を、ムネさんがやろうとしたんじゃろうな。」
高美先輩が言う。
「確かに宗村は、戦隊物や特撮物での一般人の扱いに不満を持つ…といったことを言っていたわね。」
ムネさんは、感情移入しやすい。それはヒーロー・ヒロインだけではない、ちょい役にもしてしまうのだ。それに、さっきの戦隊物のように、一般市民は単に怪人の犠牲になるだけの扱いには疑問を持つことを常日頃言っていたし、レイヤーズの機関誌『世界制服計画』に連載している小説では、戦隊物・特撮物のパロディーだといって、あたしやムネさんといったレイヤーズの面々をモデルにしたキャラが、一般人のはずなのに怪人や戦闘員をてんてこ舞いさせる作品をいくつか書いている。
だが、これはすべて推測。騒動を引き起こした本人に聞かなければ、真の理由はわからない。
これから「事情聴取」だ。

別室で、頭を抱えてうなっているムネさんに、あたしは言う。
「自分が何をやったか、わかる?相手は痛い痛いと悲鳴をあげているのに、ムネさんは攻撃を続けた。悪口雑言のおまけつきでね。戦隊物の悪役の前では一般市民が無力な存在なのが腹に据えかねるからっていっても、いっくらなんでもやりすぎよ。」
しばしの間ののちムネさんは、手を顔で覆いながら、返す。
「……死にたい。」
「死にたい…?」
あまりの返答に驚いていると、彼は、続けた。
「ほとほとこの性格がいやになった。今さっきも見せた狂態。感情のコントロールができない。このままでいたら、いつ前科者になるか、わからない。いつ君に手をあげるかもわからない。感情のない人間になりたい。」
またいつもの、論理飛躍だ。彼の思想は極端に走りやすい。一時の感情に任せた行動をしたから、これから先、衝動殺人を起こしかねない。前科者になる前に死にたい、感情のない人間になりたい……。
確かに、感情がなければ、衝動殺人を起す心配はなくなる。人生を棒に振るようなこともしない。だが、死んでしまったら何にもならないし、感情をなくせば自分の親や兄弟、愛する妻や子供、友人知人の死を見ても涙せず、人生最大の幸せのときでも笑わない。
それに、テレビや映画などを見ても、面白くもなければおかしくも、悲しくもない。無味乾燥な人間になる。それこそ文字どおりの怪人だ。
あたしは言う。
「確かに、ムネさんの気持ちもわかる。感情がなければ人生を棒に振る心配はなくなる。だけど、感情のない人間なんておかしいし不気味よ。あたしや高美先輩が死んだときも、泣かないし、あたしと結婚したときには笑わない。そんなムネさんだったら、あたしは別れる。それに、大なり小なり人間は、感情に任せた行動に出る。あたしだって、いつ、ムネさんに手をあげるか、わからない。一時の感情に任せて、衛恵さんと喧嘩して、東都保安警備のパートをやめるかわからないし、高美先輩と喧嘩して、レイヤーズをやめるかもわからない。こういうあたしだって、感情のコントロールがうまくできない時だってある。
ムネさんがあたしを守ろうとして戦ったのはうれしいけれど、あたしに手を上げた相手は、ただでは済まないわよ。あたしだって反撃する。その気になれば、相手を殺せるんだからね。」
あたしは棒術を習っている。師匠や内藤さんに、警棒・警杖でも扱いようによっては、ベナラクサのような筋肉隆々の怪人でも一撃で倒す事ができる…という話を聞かされたので、ちょっと誇張してやった。

一撃必殺、警棒一本で怪人を倒す。

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しばしの間ののち、ムネさんは返す。
「絵になるだろうね、ベナラクサを一撃必殺で倒すなんて。それも、変身も何もしないでだから。」
あたしは、尋ねる。
「なんであたしが殴られたとき、それこそ本物の怪人を相手にするかのように向かっていったの?それは全国警友のため…だけでは、説明がつかないわよ。」
あたしも役柄は警察官だから、「全国警友のため、戦う」で説明がつかなくもないが、それだけで荒れ狂えるわけがない。
しばしの間ののち、ムネさんは、照れくさそうに言う。
「愛する者を、守るため。もちろん、戦隊物での一般市民が単に怪人その他悪の組織には無力な存在だということに対する反感もあった。」
あたしは返す。
「それは目の前の怪人ではなく、別の存在にぶつけるべき怒り。ムネさんの趣味である小説で、怪人どもをやっつけてやればいい。あたしが生身の制服姿で、一撃必殺、警棒一本で怪人どもをノックアウトする姿を描いてほしいな。」
「変身ヒロインが登場する以前に、方をつけているわけか…」
ムネさんは苦笑したので、あたしは続ける。
「気分は落ち着いた?だったらこれからステージに戻らないとね。」

このあとあたしたちは公演に戻り、舞台あいさつまで済ませた。
そのときはアドリブで、ムネさんは「狂戦士バーサーカー」、あたしは「狂戦士バーサーカーを制御できるただ一人の存在」となっていた。

公演が終わってから、ベナラクサ役の人やサンディさんたちのところへ、謝りに行く。そのままでいるのは気がすまないと、ムネさんが言うからでもある。
高美先輩や守村君、高村君が説明がてら世間話をしているが、笑い声が聞こえてくるので、顔を見合わせた。
あたしたちがドアを開けた瞬間、ベナラクサ役の国司さんが言う。
「お、来たな狂戦士バーサーカー。」
あまりの言葉にきょとんとしていると、サンディさんが次ぐ。
「あんたは『ロードス島戦記』に出てくる、狂戦士バーサーカーのオルソンかい…?あたしは、筋肉質の女戦士のスメディやろうかねえ、地で演じられそうだからさ。」
高美先輩が続ける。
「悠子が「やめるのよ」って言ったら、あんた、手は止めていただろう、だから悠子の言うことだけは聞くのかって、言っていたのよ。」
さすがに着ぐるみは脱いでいるが、真っ黒に日焼けしているうえ筋肉隆々のボディなので、ベナラクサそっくりの国司さんは、続ける。
「みんなげらげら笑っていたから、コンビーフ云々は笑いを取るネタだとばかり思っていたが…、ぶち切れてのタンカだったのか。それに、「怪人の拳はヒーローにのみ向けられる」は名文句だね。俺も、そう思う。鳴海さんに手を上げたのは、なんといっても俺の失敗だった。」
サンディさんが返す。
「となると、ヒロインのあたしに手を上げるのかい。あたしだって、黙ってやられるようなわけには行かないからね、血を見るよ。」
高美先輩が、あたしにささやく。
「ムネさんは、悠子のことが好きだからあれだけ暴れまわったんだと説明しておいたのよ。」
なるほど。アドリブの狂戦士バーサーカー云々は、『ロードス島戦記』に出てくるオルソンにひっかけたわけか。
監督が言う。
「殺陣を覚えないと、いけないね。」
あたしはムネさんに、言う。
「よかったわね、おとがめなしで」
すると、ムネさんは、返す。
「ああ、よかった。みんな心が広くて……。」
ムネさんはここで落涙数行。感情があるから、泣けるのだ。
これで狂戦士事件は一件落着、手打ちの杯ではないが、そのあとうちあげをやっている。

それから数日後。なにやらかさばるものが郵送されて来た。開けてみると、「制服戦隊・ユニッツファイブ」のシナリオ。しかもご丁寧に表紙には、
12ポイント活字で「レイヤーズ共演用」とある。
それによると…


ベナラクサは、鳴海・宗村の二人を見ると、あとずさりする。二人は変身も何もしていないが…。
「あの二人をうかつに攻撃すると、半殺しにされかねない。俺なんか、コンビーフと桜鍋にするなんて言われたからな。」
ナレーションが入る。
「説明しよう、前回鳴海・宗村ペアと戦ったとき、ベナラクサは「コンビーフと桜鍋にする」と言われている。」
戦闘員が次ぐ。
「生身の人間でも、ユニッツブルー以上の戦闘力を有する存在です。ここは退却したほうが…。」
ベナラクサは、言う。
「あの二人は、ユニッツブルーの上官。厄介な相手にぶつかったな。勝てない相手と戦うほど、俺らは暇ではない。ここは一旦、退却だ。」
慌てて撤収するベナラクサ以下を見送って、二人は、顔を見合わせる。
「そんなに強くは、ないんだけどねえ…?」

……というわけで、あたしとムネさんは

鳴海悠子:ユニッツブルーの上官。変身しなくても怪人と戦える能力を持ち、狂戦士を操る。
宗村高光:ユニッツブルーの上官。狂戦士となると、鳴海の命令しか聞かない。

という、変身しなくても怪人と戦える能力を持つ、ユニッツブルーの上官になった。
確か…、ユニッツブルーは巡査長。あたしたちは上官なんだから、次回は年相応で巡査部長の階級章つけて出ようかな。