白昼夢187

学部編

〜警察合わせだ、レイヤーズ〜


 

会長・犬飼高美以下鉄の結束を誇る、官庁系レイヤーの集団、コスプレ集団・レイヤーズ。全メンバーが大学の学部生で、単なるコスプレ好きの集まりだったころには、以下のようなできごともあった。

 

官庁系OKの、室内会場で行われたコスプレイベントに、コスプレ集団・レイヤーズは警察コス合わせで出動している。

会長の犬飼高美は、アニメ版『逮捕しちゃうぞ』の、無帽で平成6年式制服、青い肩章つきのワイシャツ袖まくりの辻本夏実に扮している。大排気量のバイクを乗りこなす彼女だから、地で演じられる役である。後輩の鳴海悠子は、自慢の腰まで伸ばした黒髪ロングを三つ編みにし、同じく無帽で合服ベスト姿の小早川美幸に扮する。高美、悠子の二人も、コンビを組んで難事件を解決するから、悠子の小早川美幸も、地で演じられる役である。


高美@夏実、美幸@悠子
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なじみのカメラマンと、しばし談笑して別れたのと入れ替わりに、黒髪ロングでメガネっ娘の村瀬頼子がやってきた。

「高美先輩、悠子、お待たせー。」

彼女が着ているのは、四つボタンアウトポケット、センタープリーツのスカートの昭和51年式婦人警察官制服だが、「ド・ゴール帽」の正帽を被らず、黒髪ロングとメガネを生かし、異姓同名の二階堂頼子に扮している。

高美が言う。

「頼子は原作版の二階堂頼子なんだ。あたしたちはアニメ版にしたんだ。」

悠子が次ぐ。

「先輩からは「警察合わせをする」としか連絡がなかったから、あたしはてっきり、アニメ版の『逮捕しちゃうぞ』だとばっかり思っていたのよ。それはともかく、夏実、美幸、頼子と来たら、葵が欲しいわね。」

頼子が返す。

「さすがに葵は女装だから無理としても、課長や東海林、中嶋といった、男性キャラがいるといいのにね。」

「今日来ている逮捕コス仲間に連絡すれば、集合ができるかな。」

高美がワイシャツの胸ポケットから携帯電話を取り出したところへ、4つボタン背広式、帯革装備の昭和43年式制服の警察官に似ているが、ポケットのデザインなど微妙に違う制服の宗村高光がやって来た。

「みんなはまだ、来ていないのかい?」

「あらムネさん。昭和43年式制服にしてはデザインが違っているわね。いつの時代の制服なの?」

宗村は、上着を直して返す。

「今回は警察コス合わせだから、デザインが似ている、特別司法警察官の鉄道公安官に扮しているんだ。昭和43年式は、誰か別の人が着てくるだろうから。」



鉄道公安班長 宗村高光
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宗村は、国鉄時代に鉄道敷地内で警察業務を行った、鉄道公安官の制服で来た。

鉄道公安官は、帯革に装備をつける警察官と着装の基本は同じだが、独自の記章を持ち、袖章での階級識別はせず、左胸ポケットの上に独自のデザインの階級章をつける。警棒は雑踏の中で使うことを考慮して、一世代前の婦人警察官や、現在の警備員が装備できる特殊警棒を装備し、所属鉄道公安室の腕章を巻くこともある。

「『逮捕しちゃうぞ』の連載が始まった次の年に、国鉄が分割民営化されたんだから、夏実・美幸と鉄道公安官の共演は、ぎりぎりでできるわね。だけどその場合は、原作版の昭和51年式でないとね。」

高美が言うと、宗村が続く。

「高美先輩と悠子さんは、平成6年のアニメ版か。警察コスだというから、てっきり昭和51年式の原作版かと思って、共演できるように鉄道公安官にしたんだけどね。」

とそこへ、肩章つき5つボタン詰襟制服に銀色のサーベルを吊った、昭和10年式制服の守村義衛がやってきた。


甲田巡査に扮した守村義衛
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「おお、みんなここにおったのか。ゲームキャラやアニメキャラがわんさかいるが、ここはすぐにわかったよ。」

「守村君は、いつごろの時代なの?」

守村は、詰襟服を指さして言う。

「警察合わせをするというから、わしは、大日本帝国海軍下士官の軍服と、軍刀を生かして、昭和10年式制服の巡査じゃ。地の広島弁でしゃべることができる、『多甚古村』の甲田雅一郎じゃ。」

とそこへ、中折帽子にコートといういでたちの湯浅昭弘と、紺色肩章つき、左右に蓋のできる胸ポケットのシャツ、同じ色のズボンで腰に特殊警棒や拳銃などを装備した、日系ハーフのティファニー・ロックハート、正確な着こなしの、昭和51年式制服の宗村夏実がやってきた。

「みんな、ここにいたのか。」

「湯浅の御大は、私服刑事なんだ。」

高美の言葉に、湯浅は返す。

「「警察コス」としか指令にないから、どうしようか迷ったんだけどね。ひねってみようと、1959年のイタリア映画、「刑事」の、ピエトロ・ジェルミが扮したイングラバロ警部にしたよ。」

「「刑事」か。湯浅の御大らしく、渋い趣味じゃあのう。」

守村が言うと、湯浅は返す。

「『多甚古村』だって、そう簡単にわかる人はいないぜ。」

『多甚古村』とは、日中戦争開戦以降、日米開戦に至るまでの、昭和131938)年から昭和151940)年まで、戦時体制が強化される寸前の時期、瀬戸内の駐在所に勤務する甲田雅一郎巡査の日記というかたちで、平凡な人々の、日常の姿を描いた作品である。『刑事』は、1959年のイタリア、ローマ市の下町で起こった強盗事件を捜査する私服刑事、イングラバロ警部の目を通し、庶民の姿を描く、ネオ・レアリズモ期のイタリア映画である。

「あたしは、アメリカの警察官にしたんだ。アメリカの大学は、キャンパスポリスというかたちで、請願警察官が大学構内の警戒に当たるんだ。」

「アメリカでは、請願警察官制度がまだ残っているんだ。」

夏実が言うと、高美が返す。

「警察官の人件費、派出所の維持管理費一切を出す替わりに、警察官を常駐させる仕組みなのよね、請願警察官は。ところで、どこの大学なの?」

ティファニーは、紺色シャツの左袖上部の記章を指差し、言う。

「カリフォルニア州立大学よ。通っていたこともある、地元の大学ってことでさ。装備は日本のと共用できるようにしてあるんだ。拳銃も、スミス・アンド・ウエッソンのM1917にしたんだ。」

夏実が次ぐ。

「あたしは、着たくてあこがれていた、昭和51年式制服。この姿にあこがれて、警察官になったといっても、言い過ぎではないからね。」

夏実は、ド・ゴール帽の制帽に、白い手袋、白の警笛吊り紐、センタープリーツのスカートに水色ネクタイ、4つボタンの上着、左肩にはショルダーバッグと、着装規定の写真から抜け出したような着こなしになっている。無帽でいる頼子、シャツの第一ボタンをあけて腕まくりをする高美とは対照的だ。

「さすがは現役志願。ところで、どこの所属なの?」

高美が言うと、夏実は返す。

「決まっているじゃないの、警視庁よ。」

平成6年のモデルチェンジまで、警察官の制服は、各地で、微妙な変化があった。男子警察官は、装備する警棒が黒塗りか、木目を生かしたニス塗りか程度、だったが、婦人警察官は、ネクタイの色は臙脂か水色か、夏服の靴の色は白か黒か、ハンドバッグは黒か茶色か、夏服を着た場合は制帽略帽どちらを被るか、交通巡視員と区別させるための着装はあるか…など、など、ローカルカラーが豊富だった。警視庁に勤務する警察官一家の三代目である宗村夏実は迷わず、警視庁式にしている。

動物好きで小柄なメガネっ娘、桐田かおるが鑑識課の作業服、コンビを組む「クール・ビューティー」渋川あずさが交通機動隊の乗車服姿でやってきた。

「あたしは、鑑識課の警察犬担当。動物大好きだから。」

生き物の心がわかるかおるは、鑑識課の作業服姿。今回はさすがにつれてこられなかったが、主人に忠実にして勇猛果敢の、シェパードとドーベルマンを飼っている。

あずさが次ぐ。

「あたしは、スポーツカー改造パトカー乗務の交通機動隊にしたんだ。高美が白バイで出ると思ったんだけどねぇ。」

愛車はトヨタ800という、古車をあやつる渋川あずさも、地で演じられる交通機動隊である。前髪が左目にかぶさり、ヘルメットから出ている右目も三白眼だから、やましいところがなくても、一瞬凍りつく。


左より、渋川あずさ(交通機動隊)、湯浅昭弘(イングラバロ警部)、村瀬頼子(二階堂頼子)、桐田かおる(鑑識課)
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さらにそこへ、ヘルメットに防具、防盾警杖の完全武装の機動隊員に扮した近藤衛恵、内藤武士と、昭和43年式制服で、臙脂色の拳銃吊りひもの熱川進、清水清司のコンビと、昭和51年式制服で、臙脂の警笛吊り紐の守谷ジュン、守谷衛子の双子の姉妹がやってきた。

「機動隊の、完全装備が手に入ってね。もちろんすべて撮影用だけどさ。」

身長185センチの内藤が言うと、身長180センチの衛恵が次ぐ。

「高美の指令には、「警察コスであわせる」としかなかったから、迷ったんだけどね。あたしたちは「動く鎧」をやったから、それにひっかけたわけ。」

「すごいなぁ…、絵になる。いつだったか全身鎧で動き回ってもらったことがあるが、それに近いね。」

湯浅が言うと、小柄なメガネっ娘のかおるが次ぐ。

「紺色の壁状態ね。6人もいると。」

「そうそう。」

これは、頼子。

熱川、清水は185センチと186センチ、守谷姉妹は180センチある。いずれも長身だ。

熱川がいう。

「俺ら4人は、皇宮護衛官になったっす。高美女帝陛下をお守りするのが任務っすから。」

これを聞いて、犬飼を含めた一同は思わず笑う。犬飼高美の別名は、「女帝」。事実今こうやって、コスプレ集団・レイヤーズを率いるのみならず、天性の指揮能力を有していると思いたくなるような言動や、周囲が思わずひれ伏したくなるような雰囲気を出すときもある。


左より、皇宮巡査守村義衛、ロサンゼルス市警察、巡査 千春・ティファニー・ロックハート、警視庁巡査高村宗光、
東京北鉄道管理局 鉄道公安班長宗村高光
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守村が次ぐ。

「皇宮警察の対外英訳名称は、今もインペリアル・ガードで、近衛部隊じゃけんのう。」

皇宮警察の着装は、基本は警察と同じだが、拳銃吊り紐、警笛吊り紐が臙脂であること、上着の襟に皇宮警察を示す記章をつけることで、区別させる。

清水がひきとる。

「皇宮警察の記章を外し、拳銃吊り紐を白に取り替えると、東京駅駅前交番の警察官として、宗村さんと共演できますよ。」

宗村が返す。

「皇宮警察だと、お召し列車の警戒。丸の内署だと、「撮ると金運に見放される」現金輸送列車マニ30の警戒になるねぇ。」

高美は、言う。

「うーん、「警察コスであわせる」としか言わなかったのは、失敗だったわね。」

宗村が、次ぐ。

「「戊辰の仇!薩摩のイモどもに目にものを見せてやる。」とばかり、田原坂で活躍した、旧佐幕藩の藩士や、新撰組、新徴組、見廻組の元隊士で編成した、西南戦争の警視庁抜刀隊や、本土決戦に備えて編成した警察沿岸警備隊、守村が扮している『多甚古村』の甲田雅一郎、『若いお巡りさん』の曽根史郎、『ボクの街』の高木聖大も、入りますから。」

「今回扮した『刑事』のイングラバロ警部以外に、『刑事コロンボ』のコロンボ警部補、『シャーロック・ホームズ』のレストレード警部、『ルパン三世』の銭形警部、『レ・ミゼラブル』のジャヴェール警視…といった私服刑事も、警察官だから入るのう。」

湯浅が言うと、清水が次ぐ。

「防暑帽型の制帽に詰襟制服のヴィクトリアン・ボビー、パリ蜂起でレジスタンスが味方につけたパリ警視庁の警察官、警察官と警察官経験者で編成した、ドイツの武装親衛隊「警察師団」も入りますね。」

余談だが、「パリ蜂起」でレジスタンスがパリ警視庁を味方につけられた最大の理由は、フランス警察は、ドイツ占領地区、親独政権のヴィシー政府ともども、ドイツ軍などに協力させられて、不本意な命令を受けることがたびたびあり、不満を募らせていたからだったのは、有名な話である。また、ポーランドやロシアといった東方のドイツ占領地では、ドイツ警察が後方の治安維持にあたることになっていた。

熱川が言う。

「俺、第二次大戦のころのドイツ警察の制服、持っているっす。何なら次、着てきたほうがいいっすか。」

頼子が次ぐ。

「アニメの『ポケットモンスター』のジュンサー、『パトレイバー』や『バーンナップ・エクスプレス』シリーズ、ゲームの『バイオハザード』だって、警察コスの範疇に入るわね。」

「同じ制服を着る特別司法警察官の皇宮護衛官はもちろん、別個の制服だが、海上保安官、自衛隊の警務隊、往年の憲兵、海軍特別警察隊、鉄道公安官も入れなきゃならなくなるな。事実今日は、皇宮護衛官と鉄道公安官が来ているがね。」

湯浅が言うと、衛子がいう。

「国は違うけど、憲兵だと『禁じられた遊び』のラストで出てくる、フランスのジャンダルムや、イタリアのカラビニエーレも入るの?」

ジュンが次ぐ。

「ジャンダルム、カラビニエーレともども、武道留学であたしらの道場に来ていたんだよ。同性だったから、よくつるんで遊んだねぇ。」

「ヨーロッパ圏では、未だに憲兵警察が残っているからなあ。」

湯浅のことばに、犬飼が次ぐ。

「限定した案件なら一件書類を作れたり、逮捕令状などの請求ができる特別司法警察官は、いっぱいある。私服活動がメインの、密猟監視の鳥獣保護員、密漁監視の漁業監督官、郵便法違反や郵政職員の犯罪を監察する郵政監察官、労基法違反を摘発する労働基準監督官、盗伐取り締まりの林野技官、ハイジャックや船内での犯罪なら、船長、機長だって、一件書類を作れるんだ。」

「悪質なキセル、無賃乗車のサツマノカミを現行犯逮捕した場合なら、国鉄時代の駅長、助役もだよ。」

宗村が言うと、頼子が次ぐ。

「二時間ドラマや推理小説で、船長が推理する話があるけど、あれはまんざら、うそではないのね。」

「裁判に立ち会わなければならないから、この手の特別司法警察官は、本業の警察官を呼んで現行犯逮捕の手続きをする場合が多いけどね、その気になれば、書類送検できるんだ。もっとも、船の場合は逃げようがないから、身柄を確保する程度だけどね。」

高美が言うと、守村がひきとる。

「わしは、船釣りをしているとき、ダイナマイト密漁をやっている連中を追うから船を出してくれといわれて、水産庁の漁業取締官と、広島県の水産取締吏員を乗せて、そいつらを追っかけたことがあるが、身柄を確保したあとは、海上保安庁を呼んでおった。」

「いまどきダイナマイト密漁!」

衛子が言うと、守村は返す。

「相手は、砕石業者だったんじゃ。で、連中はわしらに向けて、火のついたマイトを投げつけてくる。対するわしらは丸腰だ。まさに、恐怖体験じゃ。」

「一対一で、武器を持った相手と素手で対決するのも怖いけど…、守村君は爆発すれば即死する、ダイナマイトを持った相手と対決したの…。恐れ入ったわ。」

レイヤーズでは最大の戦闘力を有する、柔道の師範代を勤める衛恵が言うと、守村は、返す。

「なぁに、種を明かせば簡単じゃ。わしが、釣竿でダイナマイトを海に叩き落として、相手がひるんだ隙に源義経ではないが、みんなして相手の船に飛び移ったんじゃ。そうすれば相手はマイトを投げられん。爆発物取締罰則違反と密漁の現行犯逮捕じゃ。」

「一芸は百芸に通じる。参考になったよ。」

衛恵と甲乙をつけがたい戦闘力を有する、剣道で師範代を勤める内藤が言うと、高美がつぐ。

「限定した事案でしか活躍できない特別司法警察官でも、レイヤーズは「来るものは拒まず」だから、大歓迎よ。」

「そういや、高村君はどうしたの?」

悠子があたりを見まわしながら言うと、宗村は、返す。

「特別司法警察官の、海上保安官をやるといっていたね。映画を意識するともいっていたねえ。」

「巡視船の乗組員かな?」

これは頼子。

そこへ、作業服の延長線上のような、サンドカラーの服に、舵輪に羅針盤をあしらった海上保安庁の記章のついた、白い戦闘帽形の帽子をかぶった高村が来た。



左、昭和30年代までの灯台職員の作業服(高村) 右、逓信省灯台局時代の制服(宗村)
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「観音崎の台長が、歓迎会や、送迎会のときによく言っていたじゃないか。行雲流水、去る人来る人。これが人生だよ。」

宗村がいう。

「「映画に出てくる海上保安官」は『喜びも悲しみも幾歳月』の灯台職員か。いやあ、渋いなあ。」

「巡視船の乗組員かと思ってたのにー、灯台守なの!?」

頼子が、落胆したような声をあげる。

高村は、返す。

「レイヤーズは地味だが、必要不可欠の部門を応援するのが身上。次こそは条件のいい、神奈川の観音崎や千葉の犬吠埼といったところへ行かれると思っては、岬の突端、離島といった不便なところから不便なところへ、辞令一本で北海道から沖縄まで、灯台補給船羅州丸、若草で移動して、沖行く船のため、灯台のともし火を守った航路標識部門は、『海猿』の特殊救難隊のように、華やかではない。だけど、日本の海の交通を守る任務は、同じだよ。だから俺は、『喜びも悲しみも幾歳月』の灯台職員の有沢四郎にしたんだ。」

『喜びも悲しみも幾歳月』は、昭和32年封切の、灯台職員の有沢四郎、有沢キヨ子の二人が、日本中の灯台を転々とする中で経験する哀歓を描いた名作である。航路標識部門は、『海猿』の特殊救難隊のような、華やかな部門ではない。昭和23年に海上保安庁ができるまでは、逓信省や運輸省が所管し、灯台や無線方位信号、潮流信号といった航路標識の管理を主体にしてきた。

高村のセリフにあるように、航路標識の勤務者は、くしくも『喜びも悲しみも幾歳月』が封切られた昭和321957)年に、悪条件の灯台から始まった集約管理が、『新 喜びも悲しみも幾歳月』が公開される昭和611986)年をはさみ、昭和から平成に変わる寸前の昭和631989)年に終了するまで、「喜びも悲しみも幾歳月」の歌詞、「おいら岬の灯台守は 妻と二人で沖行く船の 無事を祈って 灯をかざす 灯をかざす」どおり、あるいは家族を伴い、あるいは単身で灯台に併設される航路標識事務所に勤務し、千葉県の犬吠埼、神奈川県の観音崎、三重県の大王崎…といった、観光地化された条件のいい灯台に次こそは行けるだろう、当たるだろうと期待しつつ、辞令一本で北海道から沖縄まで、不便なところを転々とし、定年を迎えている。

やや話がずれるが、現在、灯台職員の相互扶助組織とOB会を兼ねた灯光会が管理運営する、見学できる灯台は、条件がよい部類に入る。

宗村が言う。

「この格好だと、灯台の霧笛と船の汽笛で、カイロに夫と共に赴任する雪野を見送る、ラストに近い御前崎のシーンだね。海上保安庁のダブルの制服だと、野津が「俺が雪野ちゃんをおんぶしたんだ」とおいおい泣く雪野の結婚式か、灯台記念日に台長のかわりにあいさつして、しどろもどろになる安乗崎灯台だな。僕は、観音崎か石狩灯台の、逓信省の詰襟制服で参加したかったな…。ああ、軍装を生かして有沢が野津と再会する、一回目の御前崎という手もあるな…。」

「あの映画は夫婦共白髪の話だからね。撮影に使われた灯台でいつか、撮影してもらいたいな。」

悠子がいうと、高美が返す。

「オープニングの、観音崎灯台に向かう坂を上ってくるシーン、あれは地でできるんじゃないかしら?」

悠子が笑って返す。

「ムネさんが有沢四郎、あたしが有沢キヨ子。高村君は野津で、香澄ちゃんは真砂子で出る?」

湯浅が言う。

「うーん、何ともまとまりのない、警察合わせになったねえ。新旧年代所属不問の警察官、鉄道公安官に海上保安官、皇宮護衛官。」

高美が、一同を見回し、言う。

「私服、制服の警察官と、制服姿の特別司法警察官としてなら、このメンバーはくくれる。次に合わせる場合は、制服や詳細を指定しないといけないわね。」

湯浅が次ぐ。

「警察官類似の制服を着る鉄道公安官、往年の憲兵はともかく、特別司法警察官に含まれて、制服姿だとはいえ、ハイジャック犯を取り押さえる限りでの日航・全日空・東亜航空の機長、副操縦士や、船内でのトラブルに限る青函・宇高連絡船の船長、不正乗車と無賃乗車の現行犯に限る国鉄の駅長・助役で来られては、困りますから。」

 

それから、レイヤーズで「合わせ」をするときには、以下のような指令が出るようになった。

 

発:コスプレ集団・レイヤーズ会長 犬飼高美

宛:レイヤーズ・メンバー各位

題:平成○○年某月某日開催のコス・イベントについて

参加する各位のコスプレする衣装については、昭和21年以降の日本の制服警察官に統一します。皇宮護衛官、鉄道公安官は許容範囲ですが、日本以外の制服警察官、私服刑事、海上保安官、自衛隊の警務隊等の特別司法警察官は含まないことにします。

                           以上

 

発:コスプレ集団・レイヤーズ会長 犬飼高美

宛:レイヤーズ・メンバー各位

題:平成○○年某月某日開催のコス・イベントについて

参加する各位のコスプレ衣装については、今回は会場警備を兼任する関係で、男性は昭和43年式、女性は昭和51年式制服に統一します。一般レイヤー、警備員と識別するため、ネクタイは男女とも水色、左上腕部に「警備」の腕章、紺色の警笛吊り紐を装備します(いずれも主催者側で準備)。なお、昭和43年式、51年式がないメンバーは、デザインが似ている昭和27年式、32年式、46年式、鉄道公安官の着装も許可します。                                                           以上