白昼夢
大学院編
〜「他人の空似」と「正反対の双子の姉妹」〜
行きつけの居酒屋、「角さん」で開かれた、コスプレ集団・レイヤーズの例会でのこと。
長身で筋肉質、怪力で、似ているのは顔と体格だけの双子の姉妹、守谷ジュン・衛子が、座席の関係上三人並んで座っていた高村宗光、宗村高光、守村義衛を見て、言った。
「本当は高村さんと守村さんと宗村さんは、血縁関係、あるんでしょう?」
「生き別れの三つ子の兄弟なんじゃないの?それが養子に出されたかなにかして。」
それを聞いて、高村・宗村・守村のトリオは、顔を見合わせた。
「僕らはたまたま似ているだけで、血縁関係はまったくない。遺伝子レベルからして、他人だから。」
宗村が言うと、高村が次ぐ。
「第一出身地だって違うし。俺は東京は台東区で、文字通りの江戸っ子、ムネさんは先祖は会津だし、守村は広島だからね。」
守谷姉妹が言うとおり、高村、守村、宗村の三人は、ぱっと見たところではほとんど区別ができない。よって防犯パトロールに出たときも、コスプレイベントにいるときも、兄弟や双子、三つ子に間違われることが多い。しかもこの三人、私服では「ポケットが多く、動きやすい」として、作業服や運輸関係の制服、各国の軍服の払い下げを着ていることが多い。それに、コスプレイベントや防犯パトロールでは、宗村は国鉄時代、国鉄敷地内で警察官と同等の任務についた特別司法警察官の昭和36年式鉄道公安官制服、守村は同名映画の主題歌を歌い、作中でも本名で出る『若いお巡りさん』の曽根史郎も着ている、巡査・巡査部長は左腕に逆V字の階級章がつく昭和27年式制服、高村は4つボタンで襟の第1折り返しに階級章がつき、帯革で装具を吊る、未だにレイヤーやマニアのあいだでは高い人気を誇る昭和43年式と、似たようなデザインの制服姿になることが多いから、なおさらだ。
「高美さんに見せてもらった、ティファニーをあいだに挟んだ三人の写真、あれは三つ子にしか見えなかったせ。」
ジュンが言う。写真とは、「警察合わせだ、レイヤーズ」で出てきた、高村と守村は昭和43年式警察官制服、宗村は昭和36年式鉄道公安官制服で、アメリカの警察官に扮したティファニーをあいだに挟み、警察官が日常勤務する場合に必要な装備がすぐ使える状態か点検する、日常点検の「拳銃を出せ」を再現したものである。
衛子が次ぐ。
「それに、着ている制服のデザインも似たり寄ったりだし、私服のセンスも共通している点が多いから、なおさらよね。」
「区別してもらうんで、識別ポイントを増やしたり、名札をつけても、着替えてきたと言われたこともあったから、それ以来似たような姿にしたんだ。」
宗村がいうと、高村が次ぐ。
「いつだったか、俺は青函連絡船の航海士、ムネさんが一般職種の三つボタン背広型で車掌、守村が運転士制服で、それぞれ所属する運転区や車掌区、名前をかえているのに、それでもなお、会う人からは着替えてきたとかなんだとかって言われたからね…。」
運輸系専門のコスプレOKの同人誌即売会で、高村は青函・宇高の連絡船を動かした連絡船職員、宗村は国鉄の車掌、守村は国鉄の電車運転士に扮し、名札に記載される所属車掌区、運転区も、宗村は大宮車掌区、守村は川越電車区にしておいたが、会う人からは「あれ、着替えてきたんですか」、「コンタクトにしたんですね。」と言われている。
と、そこへ、レイヤーズ会長の犬飼高美が、会話に入ってきた。
「その次のイベントは、あれで間違えるなっていうほうが無理よ。あたしたちや顔なじみのレイヤーさんはわかるけど、制服の予備知識のない、素人には同一人物と思われていたみたいよ。」
軍装主体で非公開会場で行われた、室内主体のコスイベントでは、守村は、前出の通り四つボタン背広型、巡査・巡査部長は左腕に逆V字の階級章のつく、昭和27年式制服の警ら課の巡査で、紺色の脚絆を巻き、米軍貸与のスミス・アンド・ウエッソンM1917を装備。高村は3つボタン背広型で襟に階級章がつく昭和32年式制服で、白い帯革を装備し、制帽に日おおいをつけ、交通腕章を巻いた交通課の巡査。宗村は再び4つボタンに戻った昭和43年式制服で、国鉄民営化後、鉄道公安部の業務を引継いだ鉄道警察隊の隊員となり、「警乗」の腕章を巻いたが、それでも間違える人は、間違えていた。
高村と宗村、守村を見分ける最大のポイントは、眼鏡の有無である。銀色フレームなら守村、金色フレームなら宗村、裸眼なら高村だし、宗村と高村、守村の区別ポイントは、腕時計である。本来利き手の反対側に巻くとされる腕時計を、宗村は右利きなのに、利き手の右腕に巻いている。
「制服の話はともかく、はじめて高村に会ったとき、自分によく似ていると思ったのは確かだね。」
宗村が言うと、高村が次ぐ。
「それは、俺も同感だったね。学友会主催の新入生歓迎会で、たまたま隣りあって、出身だとかなんだとかってぽつぽつ口をきいているうちに、だんだん話があってきて、その日のうちにコンビ結成となったんだからね。」
「確かムネさんが、俺が着ている上着が、国鉄の運転士のものだと見抜いたところから話が弾んだんだよな。」
「そう。僕は背広型の接客職種だった。」
それまで犬飼と話していた鳴海悠子が、会話に入ってきた。
「そのときに実藤君や湯浅の御大、大滝君とも知りあったんでしょ?」
「うん、そうなる。それ以来のつきあいだからねえ…。」
宗村が言うと、犬飼が次ぐ。
「あたしがはじめてあんたたちを見たのは、試験監督のアルバイトのときだね。高村、宗村の二人は、あまりにも似ているから、替え玉入試かと思って受験票の顔写真を入試課の人とで見比べたし、学友会の会員として、新入生歓迎会であんたたち二人を見た瞬間は、双子かと思って名簿を見直したぐらいだからね。」
「替え玉入試…!」
「同じ会場にいたんだな、俺ら。気がつかなかったねえ…。」
宗村と高村が顔を見合わせると、守村が次ぐ。
「…で、わしが森川と鳴海さんの紹介でレイヤーズに入らないかと誘われたときも、二人を見て、「世の中自分に似た顔の人間が三人いる」というが、二人は見つけたと思ったから。」
守村は、平素は意識して共通語を使うようにしているが、高村、宗村といるときと、本気を出した場合は、地の広島弁が出る。高村、宗村といる場合は、方言で区別してもらうのが主目的である。
「だけど、さっきも言ったとおり、僕らには血のつながりはないからね。それに、性格や発想はぜんぜん違う面もあるし。」
宗村が言うと、模型屋の高村が次ぐ。
「模型にしたら、共通部品が多くて楽ができるだろうね、俺ら三人は。」
確かに外見では、高村、守村、宗村の三人は似ている。が、中身はぜんぜん違う。それでも喧嘩別れしないのが、三人目の存在である。二人が対立した場合、あいだを三人目が取り持つことが多い。
「似たもの同士の場合、反発することが多いからね。その逆で、正反対の性格のほうがうまく行く場合もあるし。」
鳴海が言うと、犬飼が次ぐ。
「そのいい例が、熱川と清水、園田の三人と、あたしと悠子になるのかな。」
「うわっ、こっちに話が及んできたぞ。」
熱川が言うと、清水が返す。
「来るかとは、思っていたがね。」
「名は体をあらわす」のことわざが示すとおり、熱血漢の熱川進、冷静沈着の清水清司、水は方円の器に従う園田方也の三人は、性格はまったくの正反対。熱川は事件の一報を聞いて飛び出してから、なにをすべきか考えるのに対し、清水は動き出す前にある程度は考えている。園田は中間的存在で、どちらに偏ることもない。
宗村が言う。
「高美先輩と悠子さんの関係も、また絶妙だね。」
犬飼高美、鳴海悠子の二人は、中学校からの先輩・後輩の関係である。ショートカットで時として胸のすくようなタンカを切り、大排気量のバイクを乗り回す犬飼と、腰まで伸ばした黒髪ロングを大切にし、控えめだが芯の強い鳴海。この二人も、正反対の外見、性格である。
「あたしたちがよくコスする、『逮捕しちゃうぞ』の夏実と美幸も、性格はまったくの正反対だからね。」
犬飼の言葉に、宗村が、
「となると、僕らは珍しいケースになるのかな。」
と返したので、鳴海は言う。
「いや、似たもの同士だからうまくいかない、正反対だからうまくいくと決まっているわけじゃあない。知りあって仲がよくなるのは、共通点があるからなんだから。」
高村、宗村、守村の三人は、大学時代日本近現代史を専攻したことが示すとおり、歴史に関心があり、模型作りが好き、鉄道や警察、消防などに関心があり、制服姿の女性も好きという点で共通する。
「ところで、ジュンと衛子は、双子なのに顔と体格以外はぜんぜん似ていないのう。」
話題をジュンと衛子に回すかのように守村が言うと、高村が次ぐ。
「双子だといわれたけど、年子だと思ったからね、はじめて会ったとき。」
鳴海がパートで勤務する警備会社を通じて知りあった守谷姉妹を、レイヤーズに誘ったとき、彼女は双子の姉妹と紹介したが、メンバーのほとんどは、年子か二卵性双生児だとしか思えないと反応したぐらいだ。
ジュンが返す。
「DNAレベルで共通する双子の姉妹でも、性格や趣味までは似ないのさ。」
衛子が次ぐ。
「顔と体格が似ている双子だから、区別してもらうためにあえて別々の外見にしているだけなのよ。それに、双子だといっても内面は似ないから、趣味、行動は別個になる。だからというわけじゃあないけど、あたしはロングヘアでスカート姿が多くて、格闘技を習わないかという話がきたときには、武器を使う剣道を選んだわけ。」
「で、あたしは、男言葉を使うこともあるし、服装はパンツルック姿が多くて、ショートカットにしている。衛子と二人して格闘技を習わないかと誘われたときには、武器を使わず自らの体を武器とも防具としても戦う、柔道にしたのさ。」
守谷姉妹は、一卵性双生児である。が、上のやり取りにもあるとおり、外見から双子だと思う人は、少ない。年子のような、さほど年齢の離れていない姉妹と取られるケースが多い。ジュンは、一見男性と間違われる名前が示すとおり、男勝りのがらっぱちで、時として男言葉で話す。ショートカットでパンツルックが多く、おせじにもおしとやかでおとなしいとはいえない。一方の衛子は、行動、言動は普通の女性だし、腰まで伸ばした黒髪ロングを大切にしている。
「外見どころか性格まで同じだったら、クローンになっちまうよ!」
ジュンが言うと、衛子が次ぐ。
「顔と体格が似ている一卵性双生児でも、性格までは同じにはならないのよ。」
「そうはいっても、一回でいいから、ロングのジュンや、ショートの衛子、見てみたいな。」
鳴海が言うと、宗村が次ぐ。
「それは言えているね。」
「だったら高宗守トリオも別々の外見にしなよ。」
「もともとわしらは、別々の服装でおるわい!」
一見双子、兄弟と勘違いされる、高村、宗村、守村の「他人の空似トリオ」と、正反対の外見の「似ていない一卵性双生児」守谷姉妹は、性格は正反対でも絶妙のコンビを組む、熱川進・清水清司や、「女帝」の二つ名を持つ犬飼高美と「五つの顔を持つ女」鳴海悠子とともに、コスプレ集団・レイヤーズを代表する存在である。