白昼夢
大学院編
〜夜霧のパトロール〜
持っている制服を生かし、地域の防犯活動に協力する、一風変わった官庁系コスプレイヤーの集団、コスプレ集団・レイヤーズ。会員の高村宗光、宗村高光の二人は、防犯パトロールの受持区内を警らしていた。
「なんでまた、素人目には区別のつきにくい、マニアックな着こなしを選ぶんだよ。」
「どうしたわけか、階級章がどこかに行っちまったんだ。昭和32年式の巡査のがさ。」
今日は、高村は三つボタン、左右の胸と腰にポケットがつき、巡査は3センチの袖章、階級章は銀色金属板の中央に旭日章一つの、昭和32年式警察官制服。
宗村は同じく、レイヤーや制服マニアのあいだでは未だに人気が根強い、四つボタンの、腰ポケットは飾りフラップのみになり、巡査は1.5センチの袖章、階級章は銀色金属板の上に黒線で縁取りした金線、その中央に旭日章のつく昭和43年式制服だ。高村は、高度経済成長で発展しつつあるとはいえ、国力が十分ではない時期、地方の実情に即して認められた経過措置で、階級章と袖章を先に新型に取り替えたものである。いずれも、値打ちがわからない骨董品屋で、二束三文で手に入れた代物だ。値打ちがわかる店やネットオークションだったら、軽く万単位の金額がつくだろう。
区の非常勤無給職員の、地域防犯巡視員として警らにあたる場合は、警棒しか装備できない勤務中の警備員とは違い、実弾の発射できる銃、刃のある刀という銃刀法に抵触する武器以外なら装備できるので、警棒に加えて、中にカラーボールと同じ色素を入れた、特注の弾を装填したガス・ガンを持つ。その理由は、狂信的ファン集団の墨東署特高課がエロ同人作家の自宅を襲撃したとき、第一発見者の高村と宗村は、詰襟サーベル装備の昭和10年式制服だったため、刃引きの巡査刀だけではどうにもならず、アウトレンジされてしまい、大立回りを演じる結果になったのと、詰襟が警察官の制服に使われていたと知っている世代がほとんどいないから、防犯パトロール中にも学生に間違われることもあったので、現在では折襟背広式、帯革装備の昭和21年式以降の制服姿に限定されている。それに、ガス・ガンを持つといっても、レイヤーズの身上、「「激動の昭和」を彩った制服姿を今ここに」は生きていて、持つ拳銃は、男性陣は、実際に昭和21年に警察官の武装が拳銃になったとき、米軍から移管されて、警察用として使われた、11.43ミリのスミス・アンド・ウエッソンM1917、「コルト・ガバメント」のコルト・M1911-A1。9ミリのコルトM36、コルト・チーフスペシャル。女性陣は25口径のコルト・ディテクティブとワルサーPPK、さらには、米軍払い下げ拳銃が来るまでのつなぎで装備した、旧軍拳銃の14年式や26年式のどれか一種類だ。無論、警察用拳銃として開発された戦後初の国産拳銃、ニューナンブも入っているのは、あたりまえだ。それに、拳銃操法はレイヤーズが得意中の得意とする、相手のひるむ手や顔面などを狙い撃つ、弱点射撃を、森川あずさ、宗村夏実を教官にして、訓練している。
なお、高村と宗村が持っているのは、鉄道公安官も使ったコルトM36である。
「墨東署特高課のおかげで、俺らの制服も、着られなくなったものが出たり、装備も増えたりしたよな。」
高村が言うと、宗村が返す。
「連中のおかげで、僕らも不利益をこうむっているところがあるからなあ…。もっとも、連中のいっていることも、わからなくはないけどね。」
墨東署特高課は、レイヤーズの敵と言える存在である。『逮捕しちゃうぞ』の辻本夏実・小早川美幸といった制服姿の婦警を狂信的に崇拝しているとしかいえない連中の集団で、伊達に思想犯を扱った課を名前に使ってはいず、「夏実・美幸が悪の組織によって、監禁、陵辱される」といった内容のエロパロ同人を出した奴らの情報を収集し、機が熟したと思われるころ、アニメ版の制服姿で現れ、作者を「逮捕」し、連中の根拠地に「留置」し、二度とそういった内容のエロパロ同人は出さない、描かないと誓わせてから釈放する、「転向」をやっている。
幼心に見た、婦警さんの制服姿の美しさ、お巡りさんのかっこよさからこの世界に入ったレイヤーズの会員にとって、夏実・美幸といった制服姿の婦人警察官を性犯罪としかいえない目に遭わせる奴らは、敵である。が、それ以前の問題として、架空の世界で、架空の人物が受けた被害を現実世界に持ち込んで、実在の人物に危害を加えるという手口が許せない。だからこそ、共感する面があっても、高村、宗村は、奴らの味方にはならないしなれないわけだ。
こういう会話をしながらも、二人は注意すべき事柄は、見逃さない。空き巣や辻強盗といった不審者が隠れそうなところには目をやり、放火されそうな品物があれば、所有者に警告する。いれば、酔っ払いの介抱もするし、ふらふらしている未成年者を発見した場合も、注意する。その中で、天誅組などに狙われそうな要注意人物の家も回り、本人がいれば異常の有無を確かめ、いなければ、警ら箱に巡回に来た旨を知らせる用紙を入れる。
夜の街、一世代前と二世代前とはいえ、日ごろ制服を着なれたものにしか出せない、風格を出しつつ、二人は警らを続ける。高村は消防団員と交通安全協会の交通指導員を兼任しているし、宗村は交通指導員に加え、現役の鉄道員を目指し、JRの駅で、朝夕の混雑時間帯を中心とした整理員のアルバイトをしている。
二人の警ら路線は、あと少し。そろそろ終点の、消防団の詰所も兼ねた、防犯パトロールの詰所に戻る。二人の次は、本物の警察官を目指す熱川進と、本物の消防官を目指す清水清司が、地域防犯巡視員に支給されている、昭和43年式風の制服で待機している。正反対の性格は着装にも反映し、清水は短靴で地域課風の着こなしだが、熱川はすねまで来る編上靴を履く、機動隊風だ。今ごろは、熱川は編上靴の靴ひもを締めなおし、清水は警棒の装着位置を点検している。
事件よ起こるな
事故よ起こるな
そんな気持ちで警らする 夜霧のパトロール。