白昼夢社会人編 特撮物に協力だ、レイヤーズ

白昼夢
社会人編
特撮物に協力だ、レイヤーズ!
〜巨大女子プロボクサーVSロボット〜


 「そんなこたぁ、熱川と清水にやらせりゃいいだろが。何で俺らが特撮に協力しなきゃあならないんだ。第一俺は、作る模型の男だぞ。壊す模型の連中に、俺の気持ちがわかってたまるか。」
 「全くだ。レイヤーズの趣旨に反する。会長の命令とあっても、これだけは、引き受けられないね。」
 歯切れのいい江戸弁でまくし立てる高村に、宗村が適当なところで相槌を打つ。これが見事なまでのタイミングで入るから、不思議だ。
 さて、ここはレイヤーズ例会の席。仕事の関係上、遅れてやってきた鳴海が、
 「いったい何があったのよ。」
 というと、レイヤーズ会長の犬飼が、苦笑交じりに、一冊の台本を渡した。
 「こんど、サンディさんの関係で、レイヤーズも特撮に出演しないかって誘いが来たのよ。」
 レイヤーズの準会員で、南米某国の特殊部隊にいたこともあるという、日系四世のアレッサンドラ・タカモリ・ロペスことサンディは、軍人時代に鍛えたボディと身のこなしを生かし、スタントウーマンとして活躍している。その関係で、今回、レイヤーズに、特撮に出ないかという話が来たわけだ。
 「ああ、だからあの二人はぶつくさ言っているわけね。ところで、どういう内容なの?」
 「台本は出る出ないを別としても、人数分もらったから、悠子にも渡しておくわね。」
 「戦隊物の台本はもらったことが何回かあるけど、特撮の台本は初めてね。」
 あらすじは、以下の通り。

 マッドサイエンティストの研究所に、「より効果的な鍛え方がある」と誘い込まれた、女子プロボクサーのサンディは、マッドサイエンティストの作った薬により、常人の10倍の身長にされたうえ、様々な実験を受ける。常人の10倍の身長になっているということは、筋力も10倍になっている。よって、機会をうかがってサンディは、鉄格子は針金の如く曲げ、厚いコンクリートの壁は豆腐でできているかのように破り、研究所から脱走した。マッドサイエンティストと悪の組織は、誘いこんだ相手は、プロボクサーだけあって平素から鍛えているということを忘れていたわけだ。
 しばらくすると、街に出た。そこではじめて会ったのは、よりにもよって、警ら中の警察官。警察官はサンディの姿を見て、緊急配備を要請する。一報を受けた当直通信司令は、これは一大事だと判断し、機動隊や一般制服部隊へ出動を命じる一方、警視庁が開発した全長17メートルの人型特機を装備する、特機隊にも出動を命じる。場所の関係上、一番で現場に着いた人型特機は、サンディの身柄を確保しようとする。が、やっと自由の身になれたのだ。おとなしく捕まるわけにはいかない。しかも、今回は警察だ。国かどこかの研究機関でまたも囚われの身になって、何をされるかわかったものではない。
 かくて満月の夜の市街地で、巨大女子プロボクサーと人型特機は、月光の中で格闘することになる。

 「いろいろな先行作品を意識した部分があるわね。ざっと目を通しただけでも、『仮面ライダー』、『ウルトラマン』シリーズに、『パトレイバー』、『逮捕しちゃうぞ』に似ているなっていう部分があったから。」
 「あたしも台本を読んだとき、そう思った。だからあたしたちに出演依頼が来たわけでもあるのよ。サンディの紹介で監督と会って話したとき、あたしが「レイヤーズは、一世代前の警察官制服を持っている」って言ったら、「ぜひそれを着て出てほしい」って言われたし。で、「警ら中の警察官」役に、地で演じられそうな宗村君と高村君をあてようとしたら、あのように猛反発されたわけ。」
 犬飼が言うと、鳴海は返す。
 「警ら中に発見、通信指令に急報、あとはロボットと巨大娘の格闘を見ているだけで、踏み潰されるようなこともないし、街のセットが壊される、ロボットとサンディの立ち回りと、二人が出るシーンは別個なんでしょ。協力してもいいと思うんだけど…、なんで反対するのかしらねえ。」
 高村は、模型作りが趣味で、それが昂じて、今は模型問屋に勤めている。宗村も同じ趣味。二人とも作る過程が楽しい「作る模型」の男だ。だが、特撮は違う。撮影で壊すための模型。二人を街のセットが破壊される場所に立ちあわせるのは、拷問だといっても、過言ではない。
 いつだったか、高村に特撮用の街のセットを作ってほしいと依頼が来たとき、彼は、太平洋戦争最末期、イ号潜水艦に水上機晴嵐を積み込み、パナマ運河の水門を爆撃、使えなくして、ヨーロッパ戦線からの兵力転用を妨害しようとする作戦が企画、実行されたそのとき、日本人としてただ一人、パナマ運河建設に携わった技術者に、海軍軍人が協力を求めた際、断ったときの言葉と、全く同じことを言っている。「作り方は知っているが、壊し方は知らない」と。
 (自らの信念を貫く点では見習うべきだけど、もう少し弾力性を持たしたほうがいいんじゃあ…。ま、それが二人を二人らしくしているんだけどね。)
 と、内心、鳴海は思う。
 「問題をややこしくしているのは、作品の内容よ。」
 鳴海が台本に目を落とすと『パトレイバー』に出てきそうなマシンが、身長
20メートル近い、サンディ扮する予定の筋肉質の女性と、市街地で格闘している絵コンテがついている。


サンディと格闘するロボット。それに大滝と実藤
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 「…ああ、これならますます二人は、出たくないって言うわね。」
 警察用ロボットが配備されている「特車二課」が出てくる、『パトレイバー』に対し、高村・宗村コンビは、拒否反応を示す。作中で実用化されている年を過ぎていても、いまだに夢物語の話ではないか。それどころか、一般の警察官制服もモデルチェンジが行われているではないか。「激動の昭和彩った、あの日の姿、今ここに」をモットーとするレイヤーズは、不確定要素の強い「近未来」などやるべきではない。我々が協力すべきなのは、『三丁目の夕日』、『バス通り裏』のような、市井の人々を主人公とした作品の中での、「昭和のあの日のお巡りさん」なのだというのが、反発する理由だ。
 それなのに、戦隊物の撮影には協力するので、いつだったか鳴海が、「矛盾しているわね」といったところ、二人は、「人間、理屈では説明できないことがあるんだ」と返している。確かに、二人が言うとおり、人間の感情は、理屈では説明できないこともある。その点、鳴海は気になっていて、いつか研究したいなと思ってもいる。
 鳴海は言う。
 「ところで、守村君はどうなの?反対したの。」
 守村も、考え方は高村・宗村に共通する部分がある。だからこそ、「他人の空似」の高宗守トリオが結成できるわけである。
 「出たいのは山々だが、仕事が入ってスケジュールの調整が利かないって。」
 犬飼が返すと、鳴海は次ぐ。
 「熱川君と清水君は出せないの。」
 「あの二人は、他に使いたいキャストがあるのよ。」
 「何?」
 「マシンのパイロットよ。あの二人なら、勤まると思うんだ。」
 「確かにね。」
 熱川・清水コンビは、熱血漢と冷静沈着という、正反対の組み合わせだが、うまくいっている。戦隊物ならレッドとブルー、ロボットアニメなら主人公とライバルといった役が似合う。
 「と来ると、先輩は司令、湯浅の御大は副長。サポートは桐田・村瀬コンビでしょ?」
 鳴海の言葉に、犬飼は、微笑して返す。
 「さすが悠子。カンがいいわね。あたしは特機課の課長で、湯浅の御大が参謀総長的存在の副長。無線交信といった内勤関係は桐田・村瀬コンビがやるんだ。」
 台本を見ながら、鳴海が言う。
 「高村君は、整備士が向いているんじゃあないの?」
 「役柄としては、だけどね。いくら役柄が向いているっていっても、本人が出たくないって言うんだから、仕方がない。あの二人は出ないことで了解、もらったから。」
 「なんだか仲間はずれにするようで、心苦しいわね。」
 鳴海の言葉に、犬飼は、手元にあったお茶を飲んで、返す。
 「なぁに、あの二人とのつきあいも長いから、長所・短所もわかっている。それに、二人には別の作品に出てもらうことになっているんだ。」
 「何、それは。」
 絵コンテと台本を広げながら、犬飼が言う。
 「これはあたしのルートから回ってきたもので、カラオケの背景で流す画像の撮影のシナリオ。『若いお巡りさん』、『白いジープのパトロール』、『あゝ上野駅』、『修学旅行』と、『逮捕しちゃうぞ』の歴代オープニングとエンディングを、レイヤーズは担当するんだ。」
 絵コンテを、鳴海は見る。『若いお巡りさん』の、「野暮な説教するんじゃないが ここらは近ごろ物騒だ」では、夜の上野公園の警ら中、カップルを発見し、
11時近い時計を指差し、「ここらは近頃物騒だ」と注意する姿。『白いジープのパトロール』の歌いだし、「了解了解 本部了解」では、昭和20年代後半から30年代前半の街並みで、路面電車や初代クラウン、ダットサン110、ミゼットに代表されるオート三輪など一般車両が走る中、警ら走行中の白の三菱ジープが本部から無線で指令を受け、車長が「こちらケイシ23、本部了解!」と応答し、緊急走行に移る、同名映画を思わせる姿。


左、「若いお巡りさん」警らシーン。中央、左「この世を花にするために」機動隊員に扮した熱川進、清水清司コンビ。

左、「あゝ上野駅」歌いだし 中央「あゝ上野駅」「就職列車に 揺られてついた」、右「修学旅行」歌いだし

 『あゝ上野駅』は、歌いだしの「どこかに故郷の 香りを乗せて」では、
18番線ホームで、当時の国鉄の制服である、開襟四つボタンの上野駅の駅員が、「上野ー、うえのー。○○中学校の皆さん、○○高校の皆さん、ご乗車お疲れ様でした。」と構内放送をかける姿。「就職列車に 揺られてついた 遠いあの夜を 思い出す」では、集団就職の中高新卒者を送り出す側の、故郷の駅長が、
 「−あんたより二つ三つもちっちえ子供らが、泣きながら村を出てくのさ。そったらとき、まさか俺が泣くわけいかんべや。気張ってけや、って子供らの肩たたいて笑わんならんのが辛くってなあ。ほいでホームの端っこ立って、汽車が見えなくなってもずっと汽笛の消えるまで敬礼しとったっけ。」
 という『鉄道員ぽっぽや』の佐藤乙松のセリフと同じく、集団就職で故郷を離れる、学生服姿の少年少女の間を、「気張っていけや、がんばれよ。」と肩をたたき、笑って回る、映画から引用したのかと思わせる絵。『修学旅行』では、前奏部分で、「修学旅行」と書かれた行先指示幕の湘南色
113系に、「ひので」という修学旅行専用列車のヘッドマークを、国鉄の3つボタン背広式制服の運転士がつけるシーン。
 いずれも、時流に乗れない、時代遅れだということを痛感しつつ今を生きている、高村・宗村コンビにしかできない役柄。無理に出たくない作品に登場させるより、地で演じられる役で活躍させたほうがよいと犬飼が判断したわけである。
 ちなみに、『逮捕しちゃうぞ』の歴代オープニングとエンディングでは、夏実・美幸に扮した、異姓同名の宗村夏実と長井美幸の二人が、トゥディやモトコンポ、夏実は白バイにも乗り、カースタント顔負けの走行テクニックも時に交え、出演する。
 「あの二人はカラオケの映像に出演したほうが、活躍できそうね。」
 鳴海が言うと、犬飼は次ぐ。
 「それに、本来任務の防犯パトロールも、休むわけにはいかないからね。悠子もそっち、回ってくれる?」
 「かまわないけど、肝心かなめのサンディさんの作品のほうの、警ら中の警察官役は誰がやるの?」
 「実藤君と大滝君に振ったら、一発で
OKしてくれた。熱川・清水コンビと、実藤、大滝で今回は固めることにしたから。」
 「大滝君と実藤君は、レイヤーズ結成のころからの古参だけど、高村・宗村コンビによってかすんでいるから、この作品で活躍させるのは、いいアイデアよ。」
 大滝啓、実藤高明の二人も、コスプレ集団・レイヤーズ結成からのメンバーであり、初めのころには道を踏み外しかけた高村を、正気づかせてもいる。しかし、宗村と正気づいて以降の高村、それにあとから入った「他人の空似」の守村の「高宗守トリオ」と、「レッドとブルー、グリーン」の熱川、清水、園田トリオによって、存在がかすんでいるような状態なので、一肌脱いだ犬飼会長が、作中で活躍させ、花を持たせようとするわけだ。
 「熱川・清水コンビは、ロボットアニメの主人公とライバルといった役が似合うし、大滝君と実藤君は、高村・宗村コンビのように、変なこだわりがないからね。」
 「四人とも、二つ返事で
OK出してくれたから。張りきって演技、してくれるわよ。」
 「どういう作品になるか、楽しみね。」

 かくて、コスプレ集団・レイヤーズの「レッドとブルー」の熱川、清水コンビと、怪力スタントウーマンのサンディ、それに、演技力抜群の名脇役、実藤、大滝を中心にした特撮「巨大プロボクサー
VSロボット」の撮影が始まるわけである。