白昼夢社会人編ある日のレイヤーズ〜交通指導員編〜

白昼夢
社会人編
ある日のレイヤーズ
〜交通指導員編〜


 コスプレ集団・レイヤーズは、持っている歴代の警察官制服を生かし、所属する交通安全協会管内の、信号機のない交差点での安全確保と、交通量の多い横断歩道で青の点滅時に無理な横断をさせないため、注意すべき地点と、学校から依頼を受けた場所に、登下校時の1時間ほど、通学路の警らも兼ねて、立つ。
 今朝は大学の助手の勤務まで時間があり、アルバイトの警備員は非番の、レイヤーズ会長、犬飼高美、カウンセリング研究所とパートの警備員の勤務それぞれ非番で、スクールカウンセラーとしての勤務まで時間のある鳴海、出勤前の一仕事、職場が近い高村、
24時間勤務の明けた宗村の4人が出動している

 赤色灯や警察の文字はないが、白バイをどことなく思わせるバイクに、白バイ隊の乗車服の犬飼が、交通安全協会のガレージに戻ってきた。
 「犬飼高美交通指導員、ただいま帰投。」
 レイヤーズが協力する交通安全協会は、マニアの集団ではないかと言われている。その理由のひとつが、レイヤーズもなっている交通指導員。警察官類似の制服を着用するが、レイヤーズは冒頭でも触れたとおり、持っている歴代の警察官制服を利用している。そして二つ目が、これから出てくる。
 「おや、高美お帰り。」
 「今日も「城北の青き疾風」姿ね。」
 一足先に戻っていた、交通指導員仲間、藤本夏美と小川美雪の二人が、油まみれの白いつなぎ姿で、整備中の車から顔を出した。整備している車が、ワタナベのホイールで、カスタマイズされたホンダ・トゥディや初代スバル・
R2だと、『逮捕しちゃうぞ』を思わせる。
 それもそのはずこの二人は、辻本夏実、小早川美幸のモデルだと言われている。
夏美は二児の母親となった今でも、犬飼と同じくリッターバイクを乗りこなす。美雪も現行の
R2Keiを、法律に引っかからない程度にカスタマイズしている。
 二人は寿退職の警察官経験者で、夫は警察官の職場結婚。墨東署ならぬ城東署勤務時代にはペアを組み、ノーマルのトゥディで駐車違反、スピード違反の取り締まりにあたっているし、夏美は白バイにも乗務している。
 夏美は、マニュアル・オートマ、一種二種不問で、大型、中型、普通四輪に大型特殊、牽引、大型自動二輪、自動二輪の実技教習ができる自動車教習所の万能指導員。学科もやるが、実技のほうがはるかに得意。第
2段階の急ブレーキ実習では、「足ブレーキ」の話もする。美雪も夏美と同じく小型特殊と原付以外は全て教えられるが、実技は普通四輪のみ。学科を主に担当している。よって、『逮捕しちゃうぞ』のファンからは、「その後の二人の姿」とも言われている。
 今日は二人して交通安全協会支給の、現行制服姿で交通安全指導にあたっていたが、そのときは、アニメ版を思わせる、夏美は無帽で冬ブラウス姿、美雪は同じくベストに冬ブラウス姿で立っている。これで小道具としてモトコンポやカスタマイズしたトゥディがあれば、現役で通る。
 「何を整備しているの?」
 エンジン周りを見ていた美雪が、返す。
 「初代クラウン、警察仕様。」
 「初代のクラウン!?」
 驚いて犬飼が返すと、夏美が次ぐ。
 「高美の部下にいるでしょ、今のクラウンより、このタイプに乗せたほうがはるかに絵になる奴らが。」
 「部下じゃあないんだけど、事実上はそう言っても、おかしくないわね。ところで、本当に初代のクラウンなの?」
 犬飼の念押しに、美雪は返す。
 「観音開きのリアドア、ぴょこっとサイドピラーから飛び出す方向指示器の初代クラウンと行きたかったんだけど、さすがに実車は貴重だから、デザインの近いコンフォートに、オリジンや、似たような形の部品を使って外見だけ似せた、レプリカになるわね。」
 「
R2とトゥディは実車があるから、クラウンもそうかと思った。」
これが、「交通安全協会はマニアの集団」と言われる理由の二つ目。交通安全運動をはじめとした警察関係のイベントで走らせる、歴代の警察仕様の車両。これは、小川美雪の実家の自動車整備工場が所有しているものもあれば、レイヤーズのメンバーが持っているものもある。初代クラウン風のコンフォートから、円筒式や角型の赤色回転灯の似合う歴代のセドリックとクラウン、それに初代
R2にトゥディと、各種揃っている。しかも塗装は警視庁の文字こそ入っていないが、警察用と同じく白黒なので、青色に回転灯を取り替えて、地域の防犯パトロール車両にもしている。無論乗務するのは、歴代警察官制服姿のレイヤーズ。このときは、自動車警ら隊の着装になる者もいる。


交通安全協会の制服姿で交通整理に当たる、高村宗光、宗村高光、犬飼高美、鳴海悠子
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 三人が世間話をしているところに、鳴海と宗村、高村が戻って来た。鳴海はド・ゴール帽のニックネームのある制帽に、紺色生地に金色四つボタン、アウトポケットの上着、同じ色のタイトスカートの昭和51年式婦人警察官制服姿。真っ白の木綿手袋に警笛吊り紐、左腕の交通腕章もりりしい。「昭和のあの日」の婦警さんだ。ついで「他人の空似」とも言われる、背格好、雰囲気が似ている高村宗光・宗村高光の二人は、受傷事故防止のため、白いGI型ヘルメットに白帯革、白脚絆、白い化繊の手袋で、紺色生地に金色四つボタン、腰ポケットは飾りの、昭和43年式警察官制服。これまた「昭和のあの日のお巡りさん」だ。
 鳴海は徒歩、高村、宗村は受持区が遠いので、白色塗装、荷台には雑具箱、警棒挿しのついた自転車で戻ってきている。警棒挿しには、紅白に塗り分けられた誘導棒が入っている。高村のものは、対空機銃の銃長が「目標、
300メートル前の敵機!」と号令をかけるときに使えそうだ。
 「おおっ、見ろ高村、初代クラウンだぞ。」
 「あの、初代ランクルのエンジン積んだタイプか!?」
 初代クラウン風コンフォートを見て、予想通りの反応を見せる高村・宗村。
 「ね、言ったでしょ。」
 美雪が微笑すると、夏美が次ぐ。
 「さすがに実車じゃあないけどね。高美が言ったとおりだわ、この反応。三菱ジープを白に塗り替えたら、どうなることやらよ。」
 「コンフォート改造でも、ここまで実車に似せられるんなら、僕らも中野巡査、竹村巡査として乗務しないと。」
 「どっちがハンドル握る?ムネさんはM.U.D対策室で曽根史郎やるから、俺が竹村巡査になるよ。」
 「あんたたち、実年齢いくつよ。」
 高村・宗村のやりとりに、夏美が呆れ顔で返す。中野巡査、竹村巡査とは、『若いお巡りさん』の続編的存在、『白いジープのパトロール』の配役である。同名主題歌「白いジープのパトロール」を歌った曽根史郎は、ちらっと出るだけの『若いお巡りさん』とは違い、車長の中野巡査として、主人公竹村巡査の隣に座っている。
 「辻本夏実は時代劇が好きという設定だけど、この二人は昭和
30年代の作品が好きだから。」
 鳴海が言うと、犬飼が次ぐ。
 「白の三菱ジープだと、無線で呼び出したら、「こちらケイシ
23、本部了解」なんて返ってきかねないわよ。」
 「『白いジープのパトロール』の歌いだしね。」
 鳴海が返すと、美雪が次ぐ。
 「問題は、ナンバープレートなのよ。「足立
800」ではなく、実車として走っていた時期と同じ、都道府県名に数字の8、ハイフンの入らないタイプだといいんだけどね。」
 「レプリカでナンバープレート、作っちゃおうか?」
 とそこへ、免許証の書き換えか何かで警察署と間違って入ってきたのかと思わせる雰囲気のおじさんが入ってきた。
 「それで公道、走るわけにはいかんがね。」
 「種村さん!」
 一見どこかを散歩中といった雰囲気の、初老の男性。彼こそ「日本のコロンボ」の異名を持つ、種村一雄だ。警部で
60歳を向かえ、名誉進級の警視で勇退した彼は、「日本のコロンボ」という二つ名どおり、マスコミに大々的に報じられた事件から、日常のささいな出来事まで、あるときは倒叙ミステリーの代表作、ピーター・フォーク扮するコロンボ警部補、あるときは庶民生活の哀歓を描いた、イタリア、ネオ・レアレズモ期を代表する映画のひとつ、『刑事』のピエトロ・ジェルミ扮するイングラバロ警部のように、解決してきた。最後の任地は交通捜査課。ここでも当て逃げ事件、ひき逃げ事件の捜査に、私服姿で自動車整備工場やホームセンター、自動車用品販売店で、飛び込みの修理客や、自動車のことにはあまり詳しくない素人を装っての聞き込みを行っている。世界制服屋警備部の実質的社長の遠藤恭四郎警正とは警察学校同期で、警ら課時代は同じ交番に勤務したこともある。
 今日も種村は私服姿で、黄色地に緑色で「横断中」と染め抜いた旗を手に、横断歩道に立っていた。もちろん交通安全指導で、信号のない横断歩道で無理な横断をさせないためだ。
 小学生がやってきたので、渡らせようとしたところ、そこらのおっさんだろうとバカにして、警笛を吹き鳴らし、旗を振って制止させようとした種村を無視し、一時停止せず、制限速度
30キロオーバーで飛ばしていった「走り屋」の車のナンバーと車種、ドライバーの特徴は、一世代前の警察手帳風の、黒革表紙の手帳に、時間とともに控えてある。これは夏美、美雪はもとより、白バイ隊隊員にあこがれる犬飼、制服姿に負けない活躍をする鳴海、高村、宗村も同じである。
度重なれば、「歩行者等保護義務違反」の違反切符が切られて、罰金納付通知書となってはね返ってくる。
 「初代クラウン風コンフォートか。ますます我が交通安全協会は、マニアの集まりと言われそうだな。」
 一同、苦笑する。それもそのはず、イベントでレイヤーズの歴代制服と藤本夏美、小川美雪の『逮捕しちゃうぞ』の着装に、「昭和のあの日のお巡りさん、婦警さんが見られる」、「夏実・美幸コンビが見られる」と、下手な芸能人が現行制服で一日署長になる警察署より、見物客が集まることさえあるのだ。ましてや装備している車両が車両だ。
 「さ、早く今日の分、整備しないと。教習所もあることだし。」
 美雪の言葉に、一同は我に帰る。
 「おっといけない、着替えて仕事に行かないと。」
 これは高村。上着とズボンだけ交換し、模型問屋に出勤する。
 「僕は、一眠りするかな…。」
 こちらは宗村。鉄道員の彼は
24時間勤務の明けた足で交通安全指導に出ている。
 「勤務に時間差のあるカップルは、大変よね。」
 「あら、それは夏美さん、美雪さんも同じなんじゃあないの?」

 歴代制服姿を生かして、地域の交通安全と防犯、防災活動に協力する、コスプレ集団・レイヤーズと、「マニアがいる」とささやかれる交通安全協会の、ある日の風景。