白昼夢
社会人編
あるのレイヤーズ
〜夏コミ、コスプレコーナー編〜
「会長のあたしが言うのもなんだけど、着たい衣装、やりたいコスプレ、時代考証といった細かいこと抜きの一般参加は、気楽でいいわね。」
夏と冬の2回開かれる、全国規模の同人サークル、コスプレイヤーの集まり、コミックマーケット。会場の東京ビッグサイト、西館屋上のコスプレコーナーにレイヤーズ会長、犬飼高美はいた。
いつだったかは参加申し込み7ジャンル中6つまでが当選し、当日の人員配置に苦慮したことがあったが、今回は小説家を目指す桐田・村瀬コンビが、レイヤーズ・メンバーの描いた・書いた作品を扱う、一般向け創作サークルで参加している以外は、一般参加である。よって各人、桐田・村瀬の休憩時間のローテーション以外は、関心のあるジャンルに散っている。
コスプレ集団・レイヤーズは、このシリーズで何回も取り上げたように、「激動の昭和彩った、あの日の姿、いまここに」をモットーに、正確な着装の、各種官公庁、運輸通信系制服姿になる。が、今日はそういう制約を一切外し、コスプレするメンバー各人は、扮したいキャラ、職業になっている。

左より、熱川@ハーロウ、清水@エフスキー、ジュンとエーコのガーディアン・シスターズ、ティファニーの雄姿。
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いずれも、村瀬が書いたオリジナル小説に登場するキャラクター。メンバーが書いた作品にコスプレで協力するのも、レイヤーズらしいところである。
雑踏するコスプレコーナーの中で貴重な、東京湾を背景にできる位置にレイヤーズは陣取っている。隣は同盟関係にある軍装・官公庁・運輸通信系レイヤーの集団。犬飼が頼んだところ、場所を確保してくれた。これも犬飼の人脈・人徳の賜物であり、日頃の活動の成果。だから、混雑していても、人が背景に入らない、東京湾を背景にしたショットが撮れる。
会長の犬飼高美は、戦隊物の悪の組織の女幹部とヒロイン、一人二役が勤まるので、『ヤッターマン』の三枚目悪役、ドロンジョに扮している。本来はブロンドのロングだが、彼女は黒髪ショートカットなので、アレンジ版といったところだろうか。撮影時以外は、パンダ焼けにならないよう、仮面は外している。カメラマンや同人誌を買いに来たついでの人に何枚か撮られたが、「三枚目には見えない」、「主役になれるのでは…?」と言われた。犬飼らしい感想だ。
ロバート・キャパを意識した、アメリカ軍のM1941野戦服に、古めかしい一眼レフを下げた岡部カメラマンが言う。
「自然光で撮影できるのはいいが、照り返しで暑いのには、閉口だね。」
レイヤーズ専属とでもいうべき岡部慶四郎は、三代続いた岡部写真館の三代目。「腕を磨く」と称して、レイヤーズ・メンバーをはじめとしたコスプレイヤーや、鉄道車両などを撮りに出かけている。自宅には使い込まれた銀塩一眼レフが多数あるので、違和感のない軍装一式を用意して、戦場カメラマンに扮することが多い。
「お互い、熱中症にはならないようにね。」
「なぁに、水分は持っているよ。」
岡部が腰の水筒を指さしたところに、腰まで伸ばした黒髪ロングを海風になびかせ、鳴海悠子がやってきた。
「あら、先輩に岡部さんは定位置にいたのね。」
今日の彼女は、『ファイナルファンタジー6』に出てきた、セリスを思わせる女剣士。レオタード風の、守るべきところは守り、見せるべきところは見せる衣装だ。もちろん、露出部分は肌色パンスト系素材でしっかりガードしてある。
「黒髪が海風になびいた瞬間は、しっかり押さえておいたから。」
岡部が言うと、鳴海は笑って返す。
「さすが、岡部報道班員殿ね。」
「岡部記者殿、何かよい写真は撮れましたか。」
この暑いのに、紺色開襟4つボタンの上着に同じ色のズボン、紺色ネクタイ、白ワイシャツに制帽、黒帯革装備の宗村高光と、オリーブドラブの制帽、4つボタン背広式の制服に、白脚絆、白帯革、白手袋で、左腕には紺色地に白ゴシック体で「MP」と書かれた腕章を巻いた、高村宗光がやってきた。高村は進駐軍の日系二世のMP、宗村は同時期、昭和21年式の警察官制服姿だが、二人ともコスプレ規約の関係で、警察官、消防官、警備員に間違われないよう、記章は外している。宗村はもちろん、高村もMPの腕章を除くと、オリーブドラブの警備服姿の警備員のようだ。
「やっぱりレイヤーズ。この手のコスは忘れないわね。」
犬飼が言うと、宗村が返す。
「僕らにゲームやアニメのキャラは、似合わないから。いつもの通り、運輸通信系、官公庁系制服にしたんだ。」
高村が次ぐ。
「MPと日本の警察官の、合同警らってところかな。占領の終わる昭和27年まで行われていたんだ。」
「なんでまた冬服なのよ。」
鳴海が首をひねる。夏なのに、わざわざ長袖長ズボン、しかも上着にネクタイ装備の制服だ。
宗村が返す。
「米軍の夏季略装と日本の警察の盛夏服、両方ともカーキ色だから、ほとんど同じで、着てみたらどっちがどっちか区別できなかったんだよ。」
高村が次ぐ。
「一日目に着て行ったら、ムネさんとで一人二役やっているとか、双子と間違われたから、多少暑いのは我慢して、今日明日は、合服姿での合同パトロールということにしたんだ。」
高村と宗村、それに今日は勤務で出られない守村は、血縁関係がまったくないのに、似ていると言われる。背格好、体格はおろか、髪型、服のセンスなどまでほとんど同じなので、そう言われるのも自然かな…という気もする。
また、昭和21年制定の警察官の盛夏服は、物資欠乏期でもあり、旧軍や米軍放出物資を利用する関係か、カーキ色の生地で仕立てた肩章つきのシャツとズボンで、制帽も同じ色である。当時の米軍の盛夏略装も、似たり寄ったりのデザインで、記章と装備品でしか区別できないので、思い切って合服にしたわけだ。
高村が言う
「いやあ、今日はメカ・ミリタリーの日だろう。軍装レイヤーでは上には上がいたもんだ。この暑い最中に、アルゲマイネSSや、第二次大戦中のUボート艦長、日露戦争のころの黒ラシャの軍服姿までいたから。暑くてたまらないが、制服姿に恥じないよう、がんばると言っていたよ。」
ドイツ国家社会主義労働者党…通称ナチス…の親衛隊、アルゲマイネSSは、上着、ズボンはおろか、帽子まで黒で、ネクタイを締める。ドイツ海軍の軍服は、今も通じるデザインの、ダブルの背広式である。ちなみに日本の海上自衛隊、海上保安庁、往年の青函・宇高の連絡船乗員をはじめ、各国海軍、沿岸警備隊はもちろん、民間船舶でも海技免状の必要な航海士、機関士、通信士は、金筋の入った肩章、袖章をつけた、金ボタンダブルの背広が正装である。
「今さっき、くのいちコスをした女の子が、熱射病で収容されていたね。俺らは、伊達や酔狂でこの手のコスをしているわけじゃあないから、水分補給、栄養補給は忘れない。それに、引き際を知るのも。」
「今日は危ないな、と思ったら撤収するもんね、あたしたちは。」
鳴海が言うと、犬飼が次ぐ。
「そう。引き際が肝心よ。」
犬飼の言葉に、一同、うんうんとうなずく。5人の手にはスポーツドリンクやお茶、固形栄養食品があり、かじりつつ、飲みつつ会話は進んでいる。
とそこへ、なじみのコスプレイヤー兼カメラマンから声がかかる。彼は国鉄末期の水色半袖シャツにメッシュ制帽の助役だ。
「おっ、レイヤーズはここにいたのか。しかも高美さんはドロンジョ様で、鳴海さんはセリスかぁ。一枚撮らせてもらってかまいませんか。」
「ええ、いいですよ。」
別の軍装レイヤーからも、声がかかる。
「そこのMPさん、入りませんか。軍装集合で撮りたいって人がいるんで。にぎやかなほうがいいでしょう。日本のお巡りさんも一緒に。」
「了解!」
「僕はジャンルが変わるけど…、まあいいか。」
しばしの休憩時間ののち、レイヤーズは再び、各所で撮影し、される。
レイヤーズが出動するのは、コミケットのコスプレコーナーだけではない。コミケット閉会時間以降は、近くのTFTビルで開かれる「隣でコスプレ博」に、交通機関の混雑緩和待ちと、規約で装備できないアイテムを持ち、記章をつけた状態で参加する。
そのときには、ハーロウはバトルアックス、エフスキーとエーコ、ユーコは剣を装備し、高村・宗村コンビは記章をつけ、モデルガンなど、「隣でコスプレ博」の規約に抵触しない装具をつけ、当時の姿を完璧に再現する。
無論、その姿を岡部は撮る。レイヤーズの専属カメラマンだからだ。
社会人になってからも、時間のやりくりをつけて趣味と実益を兼ねた活動を続ける、コスプレ集団・レイヤーズの、ある夏の一日。