白昼夢
社会人編
〜盛夏服では「ブルー・ユニッツ」になれない!?〜
レイヤーズ会員のほとんどが社会人になり、経済的余裕ができて念願の各種制服を揃えられるようになった、ある夏のコスプレイベントでのこと。
今日は朝から真夏の太陽が照りつけ、暑い。よって各人は歴代の警察官、鉄道員の盛夏服姿か、剣と魔法の世界のRPGのキャラクター、特撮物、戦隊物に出てくるヒーロー・ヒロインに扮している。ちなみにあたしは、原作版『逮捕しちゃうぞ』などに出てきて、いまだに根強い人気の、昭和51年式婦人警察官盛夏服姿。水色生地で仕立てた、半袖サマースーツ。今回は警視庁式なので、略帽に白パンプス。平成6年式のモデルチェンジまで警察官制服は、地域色豊かな着装の変化があったのだ。
休憩スペースで、灰青色半袖ワイシャツに同じ色のズボンの、昭和43年式警察官盛夏服姿の、湯浅の御大と話していると、灰色長袖ワイシャツに同じ色のズボン、負革は外し、そのかわり装具の重みで帯革がずり落ちるのを防ぐため、ズボンのベルトに帯革止めをつけ、拳銃、手錠嚢、警棒、予備弾入れを装備する、昭和32年式警察官盛夏服姿の園田方也、科学特捜隊のヒロインに扮した、体にフィットする衣装の長井美幸がやってきた。二人は円谷英二現役時代に製作された『ウルトラマン』シリーズの着装にこだわっている。
「ここは冷房が効いていて、涼しいわね。」
「いやあ、外は暑い暑い。汗だくだよ。」

左、昭和32年式盛夏服姿の園田方也と科学特捜隊隊員長井美幸。右、昭和51年式婦人警察官盛夏服姿の鳴海悠子
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美幸の衣装は、パイロットスーツを思わせる、体に密着したデザインだから、通気性のよい素材でないと、暑そうだ。その点、長袖長ズボンでも、昭和32年式盛夏服の園田のほうが涼しげに見える。
さらに、グレーの長袖シャツに同じ色のズボンだが、園田とはデザインが微妙に違う、昭和36年式鉄道公安官盛夏服姿の宗村高光、昭和20年代から30年代初頭にかけての、カーキ色の昭和21年式警察官盛夏服姿の高村宗光、白い詰襟服の、昭和10年式巡査盛夏服姿の守村義衛、水色の長袖長ズボンでブーツ装備、首には白絹のマフラーを巻き、乗車ヘルメットを被る白バイ隊員に扮した宗村夏実、あたしと同じ昭和51年式盛夏服だが、黒パンプスにド・ゴール帽の制帽を被った鳴海悠子、森川あずさがやってきた。さっき言ったように、平成6年までは着装にバリエーションがあった。二人は、警笛吊り紐のかわりに、男性と同じ警笛吊り鎖を使う埼玉県警式。同じデザインで色が違う、交通巡視員を採用していたから、それと区別させるための着装だ。宗村の鉄道公安官盛夏服は、色こそグレーで園田の昭和32年式盛夏服に似ているが、開襟式でポケットの形が微妙に違う。警察官と識別するため、帽章は国鉄の動輪とリンドウの葉を組み合わせたデザインだし、襟には桐の花に旭日章、左袖には動輪とリンドウの葉の、鉄道公安官記章をつける。装具も警察官と同じく、帯革に拳銃、手錠嚢、警棒を装備するが、雑踏の中で勤務する関係から、警棒は装備しない場合も多い。昭和40年代以降は、現在の特殊警棒とはまた別形式の特殊警棒を装備している。
高村は、このシリーズで何回か触れている、昭和20年代から30年代前半の、カーキ色ワイシャツを使用した時期。帯革止めがないので、負革を装備する。米軍払い下げ拳銃が来るまでは、十四年式、二十六年式といった旧軍拳銃を装備したので、今日は十四年式拳銃を持っている。

左、昭和21年式警察官盛夏服、婦人警察官盛夏服(モデル・宗村高光・鳴海悠子)中央、昭和10年式巡査盛夏服(モデル、園田方也)、右、交通機動隊盛夏乗車服(モデル、犬飼高美)
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守村は、警察官制服が詰襟式で、武器は刀だった戦前のデザイン最後のタイプ。夏服は白。白の詰襟上下に白銀のサーベルを吊った姿は絵になるが、「白は汚れが目立ちやすく、頻繁に洗濯しなければならないので不便だ」という声が、警察の第一線で活動する巡査、それも農山漁村の駐在巡査を中心にしてあがっていたのも、また事実だ。
レイヤーズは、激動の昭和を彩った、各種制服姿を正確に復元することが身上。いずれも、時代考証を行っている。布製品なのと、盛夏服は汗をかく関係で頻繁に洗濯するため、経年劣化で実物が残っていないものも多いが、近いデザインの警備服などを仕立て直し、実物に似せているものもある。
ちなみに、あたしは警部補、湯浅の御大は警部。他のみんなは巡査か巡査部長と、年相応の階級にしている。公安職の国鉄職員で、特別司法警察官の宗村は、巡査相当の鉄道公安班長だ。
「あれ、熱川君たちは?」
あたしが言うと、高村が返す。
「まだ撮影されているんだ。」
現役警察官の熱川、現役消防官の清水、現役警備員のジュンと衛子の守谷姉妹は、剣と魔法のRPGに出てくる、戦士と騎士、剣士、格闘家に扮している。このシリーズでも何回か触れたように、熱川は鍛えた体を武器とも防具ともして戦う、上半身裸の「傭兵隊長」、清水は白銀の鎧も頼もしい「騎士隊長」。衛子は見せるべきところは見せ、守るべきところは守る、レオタード型鎧の、典型的RPGのアマゾネス。ジュンも鍛えた体を武器とも防具ともして戦う格闘家で、露出もそこそこある。しかも四人とも長身でスタイルがいいから、絵になるので、カメラマンやカメラ小僧に囲まれることもある。こういう場合、レイヤーズのメンバーが、「10数えるうちに撮影してください」と、カウントをとらなければならないときもある。RPGキャラの隣で警察官や鉄道員がカウントする姿は、会長のあたしが言うのもなんだが、何回見ても不思議な光景だ。
そのうち、撮影が終わった熱川以下も戻ってきた。
左より、「騎士隊長」エフスキー@清水、「傭兵隊長」ハーロウ@熱川、格闘家ジュン・ガーディアン@守谷ジュン、剣士エーコ・ガーディアン@守谷衛子
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「ね、湯浅の御大。あたしたちのサークルの別名は、ブルー・ユニッツだったわよね。」
「警察官制服、鉄道員制服には青や紺を使うことが多いのと、部隊を意味するユニットの複数形ユニッツにユニフォームをひっかけて、ブルー・ユニッツと名づけましたがね。」
「盛夏服だと、ブルー・ユニッツにならないのよ。」
「言われてみると。」
歴代の警察官盛夏服で、青・紺を使っているのは、昭和18年の戦時特例で、白だと汚れが目立つから紺色に染めるよう指示が出たときと、男性は昭和43年式、女性は昭和51年式からだ。詰襟制服時代の夏服の基本は白で、しいて言うなら、昭和10年式制服で、6月と9月は、上着は黒か紺色を着用できるようになった。戦後型はカーキ色、灰色を経て灰青色、平成6年のモデルチェンジで水色ワイシャツに紺色ズボンとなっている。婦人警察官は、初代はカーキ色。昭和32年から51年までは、独自に採用した都道府県でデザインを決めていたので、色も白、カーキ、グレー、水色とまちまちだった。鉄道も国鉄・公鉄・私鉄とあるが、国鉄の戦後型服制に限っても、特急など優等列車に乗務する客扱専務車掌の盛夏服は白の三つボタン背広型だし、昭和30年代後半には、一般列車の車掌、駅員といった接客職種は、白かグレーの半袖開襟シャツに紺色ズボンの盛夏服が制定されている。おまけに、機関士の作業服は昭和30年代までカーキ色だった。
「歴代警察官制服で出演する、『トラフィック戦隊・アンゼンジャー』では、ハシリーヤがうるさそうですな。」
「あいつのことだから、「ブルー・ユニッツなのに、他の色の制服もいるぞ」って言いかねない。」
守村は、井伏鱒二の戦前期の代表作、瀬戸内地方の半農半漁の村の駐在さんの日記という形でストーリーが進む、『多甚古村』の主人公、甲田雅一郎巡査。高村は、獅子てんや・瀬戸わんやとしてデビューする以前、獅子てんやさんが警視庁丸の内警察署に勤務していたことにちなみ、本名をいただいて、佐々木久雄巡査。宗村は同名映画『若いお巡りさん』の主題歌を歌い、出演もしている曽根史郎巡査として、『トラフィック戦隊・アンゼンジャー』のショーで、大安全マンとシグナレィディの味方として共演する。しかも、ハシリーヤの悪行を見かねて当時の記録写真から抜け出し、時空と所轄を超えて出向しているという設定だから、制服は当時のまま。ハシリーヤが「ブルー・ユニッツなのに、カーキやグレー、白の制服もいるじゃあないか」という姿が想像できる。
無論、そのとき、あたしと悠子は現行警察官制服、ジュンと衛子は一世代前の警察官制服をデザインベースにした、特注の衣装のブルー・ユニッツ、湯浅の御大は私服刑事、熱川は、警察学校初任科生を修了し、実務配置についた交番勤務の新人巡査の奮闘を描く、乃南アサの『ボクの街』の主人公、高木聖大なので現行制服。夏実は原作版、アニメ版と日によって着装を変え、異姓同名の『逮捕しちゃうぞ』の怪力婦警、辻本夏実として出演するが…。
「あいつのセリフを聞いたとたん、短気者の高村は怒り出しそうですな。」
湯浅の御大が言うと、悠子が話に入ってきた。
「ムネさんもよ。あたしに手を上げる相手は、舞台の立ち回りだろうがなんだろうが容赦しないって言っているから。」
「それもあったわね…。」
曽根史郎に扮する宗村は、よく言えば迫真の演技だが、悪く言うと演技に熱中して、前後の見境をなくすタイプ。このシリーズで触れたとおり、立ち回りで怪人、戦闘員に血のり以上の出血をさせたこともある。
「先輩が一喝してやればいいんですよ。ハシリーヤを。」
なんとこの声は、宗村。
高村が次ぐ。
「「激動の昭和を経験した我らブルー・ユニッツ。M.U.Dなど恐れるに足らず!制服の色が違うだと。そんな細かいことにこだわっていて世界征服などできるか!」とね。」
「女帝の二つ名を持ち、戦隊物の悪の組織のヒロインも勤まる高美さんだからのう。一喝してやれば、ハシリーヤは反論できんじゃろう。あいつは、貫禄がない。」
これは守村。
悠子が次ぐ。
「確かにね。」
「夏実さんの着ている交通機動隊の乗車服は青っすから、それで統一するって手もあるっすよ。」
熱川が言うと、清水が次ぐ。
「機動隊の出動服は紺だから、それを使うのも一案かと。」
「よし、四人は機動隊の完全装備で、ハシリーヤを強制排除してほしい。」
レイヤーズの副長、M.U.D対策室の室長役の湯浅の御大が言うと、四人は、職業柄鍛えた、直立不動の姿勢をとって返す。
「はいっ!」
「任せてください。男には負けませんから。」
衛子が言うと、美幸が次ぐ。
「それに、「解説しよう。昔のお巡りさんの夏服は、カーキ色や灰色の時代もあったのだ。」とナレーションを入れてもらうというのも。戦隊物らしくなりますよ。」
さすが、戦隊物・特撮が好きなだけある。美幸のアイデアは、一計だ。そうそう、オープニングのナレーションと、ハシリーヤ将軍は一人二役だ。将軍がセリフの最中、ナレーション口調になったのを聞きつけて、「あ〜、いま将軍、別のこと言った!」と、シグナレィディあたりに言わせ、話をややこしくするという手もある。
「ま、なんだかんだ言っても、高美さんの一喝でしょう。」
あずさが言うと、夏実が次ぐ。
「なんてったってブルー・ユニッツのリーダーにして、コスプレ集団・レイヤーズの会長の「女帝」だからね。説得力あるわよ。」
三々五々、休憩を終えて各地に散っていく他のメンバーを見送りながら、あたしは、ハシリーヤに向けてタンカを切る姿を想像する。
「制服の色が違うだと。そんな細かいことにこだわっていて、世界征服ができるかハシリーヤ!激動の昭和を彩った我らブルー・ユニッツ、M.U.Dなど恐れるに足らず。みんな、ハシリーヤなんか、ひっくくっちまいな!」
「ところで、盛夏服ではブルー・ユニッツにならないという問題は、どうするんです?」
湯浅の御大に言われて、あたしは返す。
「激動の昭和彩った、あの日の姿、今ここに。細かいことにはこだわらないことにした。他の色を使った盛夏服でも、ブルー・ユニッツよ。」
白やカーキ、グレーでも警察官制服であることには、変わりはない。
ブルー・ユニッツは、他の色が入っても、ブルー・ユニッツなのだ。