レイヤーズ小ネタ集「あずさ2号」

レイヤーズ小ネタ集
「あずさ2号」


 屋外型コスプレイベント会場で、ファミコン版時代の「ファイナルファンタジー3」のキャラ、戦士のハーロウ・アイゼンハートに扮した熱川、同じく敵モンスターで、本家本元アイルランドの伝承に近い女騎士姿のデュラハンに扮した犬飼、お転婆姫では「ドラゴンクエスト4」のアリーナに相通じる、ジンの洞窟に一人向かったときの剣士姿のサラ姫に扮した鳴海の三人が、待ち合わせ場所で待機していると、吟遊詩人に扮したエフスキー・ラズームこと清水清司、狩人に扮したフェローラ・グッドフェローこと園田方也がやってきた。
 「おっ、
FF3のキャラをやるって言っていたが、吟遊詩人と狩人か。」
 熱川が言うと、鳴海が次ぐ。
 「「傭兵隊長」ハーロウに、吟遊詩人は似合わない職業よね。」
 自らの鍛えた体を武器とも防具ともして、パーティーの前衛となり、バトルアックスを振り回して戦うハーロウ・アイゼンハートは、上半身裸。赤銅色の肌で筋肉質。これでは、吟遊詩人は勤まらない。
 「大道芸人になっちまうよ、俺がやったら。」
 熱川の言葉に、清水が次ぐ。
 「ハーロウは「人間の女の子には全然縁がないが、人間型女性モンスターにはもてる」という設定だから、ラミアとマーメイド、ハーピーで猛獣ショーだな。」
 「デュラハンでトリックなしのギロチンマジックも加われば、サーカスだね。」
 これは園田。


左より、FF3のパーティーの熱川、清水、園田、宮村。サラ姫@鳴海、デュラハン@犬飼 クリックすると拡大されます。

 「ラミアに誘惑させて人を集めることも、できるわね。それに、デュラハンでトリックなしのギロチンマジックねぇ…。」
 と言って、犬飼は園田を流し目で見る。
 鳴海が、にやりと意味ありげに笑って次ぐ。
 「デュラハンのあとに、フェローラがギロチンマジックやったら?『刑事コロンボ』だと、ギロチンマジックの事故を装っての殺人という話が何作かあるからね。」
 鳴海の言葉と、「女帝」の二つ名を有し、佐官級軍人、警部・警視以上の制服が絵になる犬飼の意味深長な流し目に、園田は言外の意味を察する。
 「やばっ、何かまずいこと言ったかな。」
 「それはともかく、吟遊詩人と狩人のコンビは何を歌うの?」
 犬飼の言葉に、園田は返す。
 「決まっているでしょう。狩人と来たら…」
 国鉄の3つボタンダブルの制服姿の、客扱専務車掌に扮した大滝が、列車内での案内放送のような口調でナレーションする。
 「失恋の痛手から立ち直るため、女は一人、新宿駅のホームに立つ。目指すは春まだ浅い信濃路へ…。毎度ご乗車、ありがとうございます。本列車は午前
8時新宿発特急あずさ2号。途中停車駅の時刻は……」
 「狩人と来たら「あずさ
2号」。」
 「やっぱりそうか。」


左より、大滝客専車掌、宗村駅務掛、高村運転士、守村鉄道公安班長。クリックすると拡大されます。

 「いやあ、
JRになってからも何年間かは新宿発の下りで「8時ちょうどのあずさ2号」があったんだけどね。総武線に乗り入れて、千葉まで行くようになったあたりから、下りは1号、3号と奇数になったんじゃあないかな。」
 大滝が言うと、国鉄の運転士制服の高村が次ぐ。
 「列車番号の話だが、国鉄時代の
2号は下りだったと聞いたぞ。それに、1号や3号では語呂が悪いよ。」
 「言われてみると、あずさ
1号、あずさ3号、あずさ4号では、語呂が合わないわね。」
 鳴海が言うと、
3つボタンシングル背広型、一般列車の車掌や駅員が着る接客職種制服の宗村が引き取る。
 「まあ、そのへんは歌にするうえでのフィクションということだね。話は変わるけど、東京西鉄道管理局の名札を作っておいてよかった。」
 鉄道公安官に扮した守村が、次ぐ。
 「わしは、あずさには警乗という形でしか乗らないが、駅で行きかう人々の哀歓を見てきた鉄道公安官だ。」
四人の名札には、中央線などを所管した、「東京西鉄道管理局」の文字が入っている。特別司法警察官で国鉄敷地内なら警察官と同等の職務のできる鉄道公安官だが、公安職の国鉄職員なので、制服活動時は所属鉄道公安室と職名、名前の入った名札を、左胸につけている。これが、「激動の昭和彩った、あの日の姿、今ここに」のコスプレ集団・レイヤーズらしいこだわりである。
 「というわけで、吟遊詩人エフスキーと狩人フェローラが歌うのは、狩人の「あずさ
2号!」」
 大滝がサインを送る。
 会場警備も兼任しているレイヤーズなので、コスプレ主催者とは話はついている。ここで狩人の「あすさ
2号」のカラオケが流れるはずが……。
 「あれ、この前奏は…」
 「「あずさ
2号」じゃあない、「あゝ上野駅」だ!」
 「どこをどうやったら間違えられるんだよ!」
 選曲ミスだ。一同は驚き呆れたが、そのままでは場がしらける。
 前奏
18秒の間に、宗村は、ホームに立つ駅員の案内放送の要領で、アドリブを入れた。
 「ホームはなくなったが歌は残った。奇跡の復興、高度経済成長を支えたのは、『プロジェクト
X』が持ち上げた、一部の人間ではない。上野駅18番線ホームに入線する就職列車で上京した、東北・北陸出身の、集団就職の中高新卒者こそが真の原動力!井沢八郎の「あゝ上野駅」、今回は就職列車を動かした、国鉄の職員が歌います。」
 高村、宗村、大滝の三人が、「どこかに故郷の 香りを乗せて…」と歌いだしたのを見て、無線機装備の守村鉄道公安班長が、主催者に一報入れる。
 「一番だけ歌って、この場をつなぐ。間奏に入ったら音量を絞って、こんどこそ「あずさ
2号」を流してくれ。「瀬戸の花嫁」や「私鉄沿線」、「津軽海峡冬景色」を流したら、承知せんぞ!」
 「承知。こんどこそ「あずさ
2号」を流す。」
 「上野はおいらの 心の駅だ くじけちゃならない人生が あの日ここから 始まった」
 何事もなかったかのように「あゝ上野駅」の一番を歌い終えると、大滝がナレーションを入れる。
 「舞台は上野から山手線経由で新宿へ。時代も昭和
50年代に移ります。失恋の痛手から立ち直るべく、女は一人、新宿駅アルプス広場にやってきた。乗るのは午前8時発、長野行きの特急あずさ。春まだ浅い信濃路へ向かう彼女は、愛した男を忘れられるのか。狩人の「あずさ2号」、今回はFF3の狩人と吟遊詩人に扮したエフスキーとフェローラが歌います。」
 列車を発車させる合図と同じ要領で、白手袋をはめた右手を高く上げ、手のひらを開いて音声スタッフに合図を送る。
 今度は文句なし。狩人の「あずさ
2号」の前奏だ。
 平然と場をつないだ
4人を見て、鳴海が、
 「わざと「あゝ上野駅」も流させたんじゃあないかしら?」
 というと、犬飼が返す。
 「それは考えられない。「あゝ上野駅」を歌いたいなら、宗村は昭和
30年代の4つボタン開襟式の制服、高村は機関士の作業服を着てくるはず。ハプニングよ。単なるカラオケの選曲ミスね。」


左、昭和20年代〜30年代の国鉄職員制服。右、蒸気機関車華やかなりしころの機関士・機関助士 
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 犬飼の言うとおり。就職列車が続々上野駅
18番線ホームに入線する昭和30年代は、客扱専務車掌はデザインは違うがダブルの背広式制服、鉄道公安官は警察官類似の4つボタン背広式、帯革装備の制服だったが、一般駅員は4つボタン開襟式の制服。それに、電機、蒸気の各種機関車列車が大多数を占めていた時期なので、機関士は青の作業服を着ることが多かった。その姿にならずに「あゝ上野駅」を歌うのは、4人の、いや、レイヤーズのこだわりとして、考えられない。
 「それは、言えているっす。悠子さんらしくないっすよ、勘ぐるなんて。」
 熱川の言葉に、鳴海は苦笑して返す。
 「そうよね。ムネさんたちを疑ったら悪いわね。」