粉砕伝説ジュリバン
外伝第
7
〜世界制服屋警備部、機械化計画〜



〜南雲モーターズ〜

世界制服屋がある大通りから少し入ったところに、古いバイクや車のレストアを得意とする修理工場、「南雲モーターズ」がある。ここは喫茶店ユリイカの常連で、ジュリバンこと大川樹里の友人でもある南雲陽子と、カズこと新堂一幸が経営している。
「おーい、南雲さんいるかーい!?」
紺色のエプロンにカーキの作業服姿の高村サンプルの
3代目、高村宗光が回覧板片手にガレージに入ってきた。
「おや、高村さん。」
車の下からはい出してきたのは、新堂と警備部警備
3課の中島だった。
「いやあ、すごい車だな。どこで手に入れたんだ、誰の車だよ。トヨペット・クラウンの
56年型、しかもパトカー仕様じゃないか!」
それもそのはず、今、新堂と中島の
2人が整備しているのは、トヨペット・クラウンの1956年モデル。しかも白と黒のパトカー風の塗装だから、警視庁という文字を書きこみ、サイレンと赤色灯をつければパトカーになってしまう。
模型屋の血が騒ぐのか、すっかり車に夢中になってしまっている高村に中島が、
「警備部の車さ。」
と返したところ、ガレージの前にサイドカーが止まり、長身の女性二人が降りてきた。
「現場監督に来たわよ。」
「近藤部長殿に首塚課長殿、私服だから気づかなかった!」
世界制服屋警備部部長の近藤衛恵と警備
3課長の首塚晴美が、それぞれ白いブラウスに紺色のズボンと黒いライダースーツという私服姿でやってきた。
「どう、整備できそうですか。」
首塚が尋ねると、新堂が、
「前の持ち主も、大切に乗っていた人だったんだな。程度がいいから助かるよ。パトカーに改装するのが惜しいぐらいだよ……。」
と返すと、首塚がいった。
「あたし達、車に対してすごく悪いことをしているんじゃないかしら…。冒涜しているんじゃないかしら……。」
「いや、別に近藤さんや首塚さんを非難するつもりで言ったんじゃないんすよ。」
あわてて新堂が返すと、しばしの間ののち近藤が言った。
「それだったら、あたし達も大切に使ってあげないとね。車も改装されれよかったと思えるように。そうそう、あとで正式な招待状が行くと思うんだけど、警備部が装備する車両の展示会をおこなうから、おひまだったら来てくれるとうれしいな。」
すると、奥から出てきたオーナーの南雲が返す。
「ぜひとも、後学のために見てみたいな。もしかしたら特機の整備を請け負うかもしれないし。」

一方、警備部の地下のガレージでは熱川・清水コンビが、
「自動車の整備はねえ……。」
「俺だって、わかんねえことばかりだよ。」
といいながら、油汗を流しつつホンダ・トゥディを整備していた。高美女帝を守る近衛部隊の
2人は、自動車の整備なんかやったことがないが、がんばっているのだ。
とそこへ、警備部副長兼警備第
1課長の内藤と、素材研究所の所長の亜宗太郎がやってきた。内藤は機械に詳しくない2人の悪戦苦闘を知っているから、
「どうだ、少しはできそうか?」
としか言わなかったけれど、亜宗は車を見るなり、
「いやいやいや、マニアックなものをかき集めてきましたな。『逮捕しちゃうぞ』の実写でもやるんですかな。」
と言ったので、内心むっとした熱川が返す。
「それだったら、『パトレイバー』に出てくるようなメカを開発してくださいよ、亜宗さん。レイヤーに貸し出せば、受けますよ!」

2
〜警備部自動車巡回隊…!?〜


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「なななな、衛恵、警備部はテレビや映画の撮影に使う、特殊自動車のリースやレンタルをはじめるの!?」
「新規事業としては、いけそうですけどね。」
展示会場のガレージの中で、思わず世界制服屋社長の犬飼と実質的な本店店長の岡崎が声をあげたのも無理もない。ずらりと並んだ車は、パトカー風に改造されていて、セダン型ではパトロールカーに改装されることの多い、歴代のモデルのトヨタ・クラウンとニッサン・セドリック。軽自動車ではスバル
360にスバルR2、ホンダ・トゥディにスズキ・フロンテ。さらには交通機動隊仕様のトヨタ800とニッサン・フェアレディ……。バイクも、陸王といった白バイに使われるような大排気量のモデルから、オフロード仕様のもの、はてはモトコンポにスーパーカブといった50CC前後のものまであり、自転車もロードレース用やマウンテンバイクから、白いダイヤモンド・フレームの実用車と種々雑多。はじめてみる警備課員や、招待客も種類の多さにびっくりしている。
世界制服屋警備部は、コスプレ・イベントの警備に特化しているといっても、それだけでやっているわけではなく、普通の、店内やビルの構内の警備、交通整理なども行っている。警備
1課が普通の制服姿での警備、警備2課が私服での見回り、そして今回出てくる警備3課が交通整理や雑踏警備などに当たる部署で、誰いうとなく交通課という別名がある。
課長の首塚晴美が、ハーレー・ダヴィットソンのライセンスを取って国産化した幻の名車「陸王」に乗るように、中島衛士や川崎護邦、小早川夏樹……という部下も、愛車を自らの手で整備するなど自動車やバイクなどに一家言あるので、パトロールと現金・貴重品輸送などのため自動車が、都からパーキング・メーターの監視、区からぽい捨て禁止と住宅街の防犯のための巡回を引き受けたから、バイク、自転車が必要になったので、車のことはよくわからない犬飼や近藤は、首塚以下の
3課に総てを委託したのだが……。
「マニアックな…車種選択ね。整備のしがいはありそうだけど。」
南雲が言うと、近くの交番に勤務する宗村夏実巡査が次いだ。
「制服が制服だけに、一瞬パトカーかと思っちゃうわ。」
世界制服屋警備部の制服は、男性は昭和
43年式、女性は昭和51年式の男女警察官の制服に似ているうえ、装備品をつける帯革を上着の上からしめるので、「世界制服屋警備部」を「警視庁」に代え、赤色灯とサイレンを装備すれば、立派なパトカーで通る。
「話題性は…、あるわね。」
犬飼が言うと、彼女付きの秘書・服部制子がめがねのレンズを光らせて返す。
「なんたって、世界制服屋には、正社員ではデザイナーの本田香澄、警備課には川崎、中島、山葉とおりますし、パート・アルバイトでは豊田、鮎川、鈴木、松田、岩崎がおります。まるで日本中の自動車メーカーをかき集めたような顔ぶれですね。」
本業は日本近現代史の研究者の宗村が、
「ええと、鮎川は日産の創立者だったかな。岩崎は三菱の創立者だし。」
というと、鳴海が次ぐ。
「偶然とはいえ、すごいわね。ここまで来ると。」
警備部人事課長で、警察官
OBの遠藤恭四郎が、1968年型のクラウンをなでさすりながら、
「懐かしいなあ、俺の現役時代に乗ったのにそっくりだ。」
と言うと、後ろにいた、「らくださん」こと洛田が次ぐ。
「自動車警邏隊におられたんですか?」
「もちろん!」
森川あずさと各務まゆみのコンビは、軽自動車の前で言いあう。
「トゥディには、乗ってみたいわね。」
森川が言うと、各務が、
「あずさ、運転してくれる?あたしはペーパードライバーだから。」
と返すと、岡崎が次ぐ。
「そしたらアベコベよ。あずさは夏実で、まゆみは美幸みたいだもの。」
守村義衛は白く塗られた自転車を前にして、
「これで巡回するのか〜。」
と言うと、隣にいる警備
2課の熱川が、
「覆面パトカー風のクラウンか……。血が騒ぐな。」
と次いだので、清水が返す。
「なんにでも血が騒ぐんだな、お前は。」

集めた車種は渋好みだが、レイヤーに貸し出すのは副次的効果で、あくまでも主目的は巡回用。さっそくこの日から車両でのパトロールが始まった。


3
奮闘、警備部!
〜パーキング・メーター監視部隊〜

「お金払わないで、とめているわねえ〜。」
各務が、未払い表示の出ているパーキング・メーターの前に立って言うと、森川が乗ってきたトゥディの手荷物スペースから機材を出しながら、
「ちょっと、待っててね。」
と返すと、軍手をはめながら近藤が次ぐ。
「まかせといて。」
読者の皆さんはご存知の通り、近藤衛恵はその気になれば、乗用車ぐらいなら持ち上げられる腕力を持っている。
彼女の怪力で車の前輪が浮くと、すばやく各務と森川がキャスターつきの金属パイプのようなものをさし入れた。この道具は災害現場や事故現場で、負傷者が下敷きになっていたり、消火栓の真上に車が止まっている、といったレッカー車を呼ぶ時間的余裕がないときに使う、ミニレッカー。
1つが678キログラム、4つで2712キログラムというから、その気になれば2トントラックまで、辻本夏実の怪力だけでレッカー移動できてしまう逸物。
車が移動させられているのを見て、あわてて持ち主が走ってくる。
「駐車違反よ、お金払っていないんだから。」
森川が言うと、持主が、
「そんな、たったの
5分じゃないですか!」
と反論すると、近藤が次ぐ。
5分でも、違反は違反よ…。」
通りかかった人が光景を見て、吹きだす。
「『逮捕しちゃうぞ』みたいだな。」
それもそのはず、トゥディの隣には制服制帽の女性が
3人。しかも怪力で車を持ち上げたりするのだから……。
警備部が監視に当たるようになってから、彼女達に会いたいからわざと違反する、という酔狂なのも出るようになったそうだ。

〜自転車巡回部隊〜

守村義衛が白い自転車に乗ってやってくると、吸いがらを側溝に捨てようとした男はポケットから慌てて携帯式の吸いがら入れを出して、そっちに押しこんだ。
「よお、守村じゃないか。元気か?」
店の前を掃除していた高村が言うと、守村は返す。
「どうだい、俺らの巡回や罰金が始まってから、少しは変わったかい?」
「今さっき、お前さんが来るのを見てあわてて吸いがら入れに入れたやつがいただろう、ああいった感じでね、少しはゴミが減ったかな?」
こう言いながら高村がちりとりの中身を見せると、同じく警備
1課の岡部百合恵が同じく自転車でやってきた。彼女の自転車も白いが、T字型のハンドルで、ギアつきの軽快車。守村のは昔ながらの、ダイヤモンドフレームでギアもない実用車だ。
彼女は、違反切符をいれたカバンを片手に、
「ごみを捨てたやつ相手に違反切符を切る瞬間はたまらないわねえ。大学卒業したら、警察官になろうかしら。交通課第
1志望の。」
といったので、高村と守村は顔を見合わせてしまった。
「実は岡部さん、サディスト…?」

世界制服屋警備部のパトロールは、順調のようだ。
そして、征服屋近衛部隊はというと……。
「陛下が出てこられたぞ。」
犬飼社長こと女帝・タカミーナが、帰宅するべく赤いスポーツカーに乗って駐車場から出るのを見て、私服警衛の熱川・清水コンビが覆面パトカー風に改造したセドリックを発進させる。
つかず離れずの車間距離で走っていくセドリックを世界制服屋警備部本部で見送りながら、近藤はつぶやく。
「今日も、警備部の行動は異常なし…のようね。」

4
〜再び、南雲モーターズ〜

自動車などでの巡回が始まってから、数か月後。
「本来ならあたし達だけで整備するのが筋なんだけど、警備部員に専従させるわけにもいかないしね…。」
「大丈夫よ晴美さん、うちはレストアが得意で売っているんだから。」
南雲モーターズのガレージの中で、警備部の車両を南雲と首塚の
2人が整備していた。さすがに警備部の車両は毎日乗るので、定期的にメンテナンスしなければならない。
手を動かしながら、
2人の会話は進む。
「だけどさ、警備部の人達って渋いわね、車の選択が。」
「そうかしら?」
「わざわざ古い車を改造しようなんて思わないわよ、普通。」
確かに、新車で買ってしまえばそっちのほうが安く上がるし、維持費もかからない。だけど話題性はないし、制服を扱う世界制服屋の系列企業でもあるから、警備
3課の課員を督励し、刑事ではないが「足で稼げ」で、全国をまわり、パトカーや警察用で使われた車種の古い車やバイクを集め、自転車の車種を決めたわけだ。
しばし考えた首塚が、
「まあねえ…。世界制服屋本部がコスプレイヤーも相手にしてるから、警備部だけが使うのはつまらない。レイヤーにも貸せるように……っていうんで、みんなして少しこだわってみたんだけど…。」
と返したところに、大声がした。
「陽子ー!ちょっと見てくれるかなあ、バイク、エンジンかからないんだよ。」
2人が振り向くと、大川がバイクを押しながらガレージに入ってくる。
「あたしも見てみようか?」
首塚が言うと、南雲が返す。
「お願いできる、あたしは手がふさがっているから。」

首塚晴美、大川樹里。双方ともお互いの正体が、ジュリバンとデューラであることを知らない。そして喫茶店ユリイカと同じく、南雲モーターズも征服屋とジュリバンの中立地帯になろうとしている…。