粉砕伝説ジュリバン外伝
外伝第30話
〜警備部のキャラクター〜


いつもの昼下がり。喫茶店ユリイカでは、世界制服屋警備部の社長である近藤衛恵警監、副長の内藤武士警佐、遠藤恭四郎警正の三人が、制服姿で一服つけていた。
「あたしたちも、かわいらしいマスコットか、かっこいいキャラクターがほしいわね。」
衛恵の言葉に、遠藤が返す。
「かわいらしいとかっこいいを両立させるのは難しいかもしれませんが、面白そうですね。」
「警視庁のピーポ君や、東京消防庁のキュータみたいなものですか?」
内藤が次ぐと、衛恵は返す。
「人間がいいな。妥協しても耳系かな。」
「耳系…!」
「人間ですか。」
キャラクターのデザインにはうとい二人でも、(どういうキャラクターになるんだ…?)と顔を見合わせたので、衛恵は次ぐ。
「ほら、よく銀行なんかにおいてあるでしょう、制服姿の警察官の男女ペアの人形が。ああいったものよ。」
「ああ、なるほどね。」
このたとえなら、キャラクター・デザインとは無縁の二人でも、おおよそのあらましはわかる。
「ところで、耳系とはなんですか。」
遠藤警正が言うと、衛恵が返す。
「動物の耳の部分だけ残して擬人化する手法…といったらいいのかな。」
「ああ、なるほどね。キャラクターのデザインは内部でできますな。問題は立体化だ。」
制服屋グループの世界制服屋には、岡崎理恵、本田香澄をはじめとしたデザイナーがいるし、警備部には本業は画家の各務まゆみもいる。イラストに起すのならお茶の子さいさいだろう。
「立体化は、高村さんか…?」
衛恵が言う。
「コレクションできるものがいいかもね。なんたってあたしたちのところの制服は、一世代前の警察官のに似ているんだからね。フィギュアにしたら、マニア相手に売れるかもね。」
言われてみると、警察にしろ消防にしろ、キャラクターは擬人化した動物か無生物で、ディフォルメされている場合が多い。それに、キャラクターを作るのなら、制服を扱う世界制服屋グループ内であることを生かし、細かいデザインにまでこだわったものを作ろうというわけだ。
「おもしろそうですね、やってみますか。」
内藤が言ったところへ、警備3課の首塚晴美警佐が入ってきて、
「制服にこだわるのなら、特科部隊もほしいですね。」
と次いだので、一同はアイデアを煮詰めにかかる。

それから数日後…。
各務まゆみ警手が立哨を引継ぎ、制服屋警備所に戻ってくると、衛恵が待っていた。
「警監殿、なにかご用ですか。」
「今日は警監と警手ではなく、画家とパトロンとして話があるのよ。ユリイカで説明するから、来てくれない?」
「いったいどういうお話でしょう?」
ユリイカの一番奥まった席に座ると、衛恵は持ってきた革カバンから仕様書を渡して言った。
「こんど、警備部ではかわいいマスコット・キャラとかっこいいイメージキャラクターをつくろうっていう企画がもちあがったのよ。だけどみんな絵心がないでしょう、だから本業は画家のまゆみさんの知恵を借りたいと思ったのよ。」
「キャラクターを、ですか…?」
彼女は絵を描くことを生業としたいとは考えているが、キャラクターを描くのは少々苦手。だけど、チャンスでもある。
しばしの間ののち、彼女は言った。
「わかりました。お引き受けしましょう。」

「とはいったものの…、一から考えるのは難しいわねえ。」
キャラクターを考えるのも、これがなかなか難しい。勤務の合間、没にしたラフ・スケッチの山とにらめっこをしているところへ、防犯パトロールから守村義衛警士と森川あずさ警士のコンビが戻ってきた。
「守村君、あなたいったいいくつなの?もしかしたら遠藤警正殿よりも年上なのかもしれないわね。」
守村が帯革を外し、警棒を所定の位置に戻しながら、
「昭和
50年代生まれだけどさ。」
と返すと、あずさが言う。
「ねえまゆみ、聞いてくれる?義衛ったらね、不審な少年がいるから声をかけてってあたしが言ったら、「あーこれこれ、そこな君ら、なにをこんな夜中にやっておるのかね。」なんて言ったのよ。相手はきょとんとして、それから笑い出したわ。あまりにも時代がかったセリフだったんでね。だから守村君、あんたには「帰ってきた外地派遣者」なんて変なあだ名がつけられるのよ。」
お茶を入れながら、守村が答える。
「まだ高村よりかはましだろう、あいつは佩刀をがちゃがちゃいわせて近寄って、タバコを吸っていた高校生に向かって、「おいこらそこの不良少年、成人にならないのにタバコを吸うとはなにごとだ!」って一喝したんだぜ。」
「高村さんは着ている制服に合わせたんでしょうよ。」
「そしたら俺やムネさんだって、合わせなきゃならなくなるぜ。」
二人のやりとりや防犯パトロールでのレイヤーズ・メンバーの行動を聞いているうち、まゆみの中でなにかが形になり始めた。
「これよ!」
キャラクターは、身近な人をモデルにしたらどうだろうか。もちろん一人の特徴を複数に分散させたり、その逆をしたりしなければならないが。
そうと決まればあとは簡単、すらすらと鉛筆が動いてくれた。

数週間後…。
「世界制服屋のイメージ・キャラクターとマスコットができた」と掲示板に公示されたので、わいわい、がやがややっているところへ守村・森川コンビがやってきた。
「なんだなんだ、人事異動か?」
守村が言うと、後輩の川崎警士が返す。
「おや、知らないんですか?警備部のマスコットとイメージキャラクターが決まったんですよ。各務さんが作ったっていう。」

マスコットは、世界制服屋の制服姿のシェパード耳の青年男女で、その名も「ディフェンサーズ」。確かに警備会社は犯罪を防ぐわけだから、正鵠を射ている。名前は、男性はディフェンダーをもじってフェンダー、女性のほうは友好的を意味するフレンドリーももじってフェンディ。犬の擬人化ではなく犬耳だったのにはとくに驚かなかったが、冬服以外に夏服や合服、コートや活動服姿まで描いてあるうえ、7頭身版と3頭身版まであるから、恐れいる。
「犬のおまわりさん、婦警さんみたいだな…。」
「まゆみが原案だってのは、知っていたけど。」
あずさが次ぐと、守村が大声をあげた。
「こりゃあ、俺たちじゃないか?」
「えっ!?」
関心は、マスコットよりイメージキャラに集まっている。漫画の設定が近いそれは、警備部の制服屋一号店警備所勤務者をモデルにしたようだ。
キャラクターデザイン担当のまゆみは、守村の姿を認めると、言った。
「義衛さんは融通が利かない、剛毅廉直の硬派キャラにしたのよ。」
「確かに、俺は融通が利かないけれどね……。」
守村がモデルになったキャラは、その名も高倉邦衛。硬派路線の一刻者という役どころ。
「守谷あずさ」のあずさが次ぐ。
「あたしは、ほぼそのまんまね。」
まゆみが返す。
「コンビだもの。」
守谷あずさは直情径行の行動派。彼女そのものだ。
イメージキャラクターの『セキュリティ・ガーディアン』では、安藤恭四郎率いる警備会社の警備所が舞台で、怪力ガードウーマンの江藤衛子は、フルフェイス・ヘルメットにボディースーツ姿に変身して戦う。そのときの名前はセキュリティ・ガーディアン、ニックネームはガーディー。彼女を影に日向にサポートするのが、武藤武や高倉邦衛、守谷あずさたち。
セキュリティ・ガーディアンが向こうに回して戦うのは、刑事事件にはならない程度のせこい悪事をあっちこっちでやっている悪役、クラッシャー。彼女を相手にしての、ガーディーを初めとした警備所勤務者との一連のどたばたが面白い作品になっている。
キャラクター原案を見たとき、衛恵と内藤は、思わず顔を見合わせた。
「実在のモデルがいると、ここまで詳しく描けるものなのね…。悪役ってユリイカの不良債権、大川さんでしょう?」
衛恵の言葉に、まゆみはあたりを見回してから返す。
「ええ、ユリイカで原案をひねっていたときに、つけの取立てを千尋さんがしていましたのをヒントにしたんですよ。」
「なんだか同人的になってきたね。」
内藤が言うと、衛恵が返す。
「だって、この企画そのものが同人的展開なんだもの。」

舞台は
180度変わり、ここは、制服メインの同人イベント会場。もちろん世界制服屋も企業ブースに出展しているが、同人コーナーのコスプレ集団・レイヤーズのコーナーに、制服屋の面々も集まっていた。
ユリイカの常連の宗村が、鉄道省時代の詰襟制服姿でやってきて、
「おっ、ここでやっているのか。」
というと、国鉄時代の機関士仕業服姿の高村が継ぐ。
「売れ行きはどうだい?」
昭和
46年式婦人警察官制服姿のまゆみが返す。
「フィギュアも、同人誌もそこそこ売れていますよ。」
世界制服屋が部内の有志を募り、原稿を集めて同人誌を発行した。その名も『世界制服計画』。内容は、ユリイカの常連で作家志望の村瀬頼子が書いた、高村がモデルの昔気質の金型師を主人公にした小説『模型屋』、各務まゆみ原作の、警備部のイメージキャラクターが活躍する『セキュリティ・ガーディアン』、まじめな制服解説コーナー「昭和戦前期・文官制服解説」では、近現代史の研究者を目指す宗村が解説、各務が作図、着装を守村と森川がそれぞれ担当しており、今回は警察官・消防官である。
それ以外にも、臨床心理の研究者を目指す鳴海悠子の論文、「人はなぜ、制服にひかれるか」、デザイナーの岡崎理恵の「レイヤーのための制服着こなし術」、近藤衛恵の「護身術講座」などなどが載っている。フィギュアは、「犬のおまわりさん」と「犬の婦警さん」、警備部のキャラクター、フェンダーとフェンディの、
3頭身ぬいぐるみと7頭身のガレージキットと、歴代の制服姿の警察官、消防官を1/351/15で再現したガレージキット。もちろん二種類とも原型は高村が担当しており、細部まで細かく作りこんであるのが売りである。
昭和
51年式婦人警察官制服姿の鳴海悠子が、
「なかなかよくできているわね。」
と言ったので、昭和
51年式婦人警察官制服のフィギュアを手にとった森川が声をあげた。
「これ、あたしに似てない!?」
「ええっ?」
よくよく見ると、フィギュアはみんな『セキュリティ・ガーディアン』のキャラクターなのだ。
「へえ、恐れいったね。そのうち俺らがモデルのフィギュアが、ガレージキットで出回るかもしれないな。」
宗村が驚くと、原型担当の高村が返す。
「やっぱ、
1/35が似せられる限界だわ。タミヤの『ゼネラル・セット』がいい例だな。」
警備部の制服は、男性用は昭和
43年式、女性は昭和51年式の警察官のものに似ているから、警察官のフィギュアでも十分通る。それに歴代制服姿でも、詰襟式の明治41年式は守村、昭和10年式は宗村、明治29年式は高村……に、どことなく似ているのだ。
一同が驚いているところへ、青のフルフェイス・ヘルメットに、紺色のボディースーツ、黒いひざ上のブーツ姿の変身ヒロインがやってきた。彼女もフィギュアになっているから、
1/1で動き出したような姿に、みんなは思わず注目する。
「どう、そちらの按配は?」
変身ヒロインの正体は、近藤衛恵。彼女はモデルになったセキュリティ・ガーディアンに扮しているのだ。
1/1が現れたな。」
守村が言うと、あずさが次ぐ。
「いつだったか見た、衛恵さんの変身ヒロイン姿にそっくりね。」
「今回はコスプレだけれど、機会があったらパトロールに出てみたいわね、この姿で。」
衛恵が言うと、原作者のまゆみが返す。
「そしたら『セキュリティ・ガーディアン』が本当になってしまうわ!」

同人的のりで始まった制服屋警備部の増収策は、同人的なこだわりの中で展開しているが、いったいどうなることやら。