粉砕伝説ジュリバン外伝
外伝第38話
〜双子の守衛〜
世界制服屋警備部には、謙譲の徳を備えた、「腕に覚えあり」の近藤衛恵と内藤武士、S53星雲からやって来た長井美幸、射撃の名手森川あずさ、「昔気質の男」守村義衛……に代表される、様々な逸材がいる。
ここは、世界制服屋が守衛所をおいている、とあるビル。
用事を済ませた出入りの業者が取引先の部屋から出てくると、構内巡回中のガードウーマンとすれ違った。スカートから出ている足は筋肉質で長身。思わずつぶやく。
「スタイルいいなあ、それに身長も高いし。」
守衛所で入構許可証を返す段になって、彼は声をあげた。
「あれれ?」
目の前のガードウーマンが返す。
「あら、あんたじゃないか。なにかあったのかい?」
今さっきすれ違ったはずなのに、守衛所に全く同じ人がいる。錯覚、分身、それとも…?
「さっきすれ違いませんでした?」
男の言葉に、ガードウーマンは笑って言う。
「ああ、あれはあたしの妹だよ。」
「妹…?」
すると、巡回から戻ってきたもう一人が次ぐ。
「そう、あたしたち、双子なんです。」
依頼先に常駐し、構内の警戒をする警備一課、通称地域課に所属する守谷ジュン警士と守谷衛子警長の二人は、双子の姉妹。身長は180センチで、黒髪。スタイルもよいから、その気になれば双子のアクションヒロインとしてデビューもできるかもしれない。さらに特筆すべきなのは、二人の筋肉。スカートから出ている足、制服が描く腕のラインは下手な男よりも、いや、下手なボディビルダーより発達している。いつだったか、やせてほっそりしている守村義衛が、「半分でもほしいな」とつぶやいたほどだ。
「なんかこう、面白いことが起こらないかな〜。」
指の関節を鳴らしながらジュンがいうと、衛子が返す。
「面白いことって…?」
「ここに強盗が入ってくるとかさ。一人ぐらいだったら俺がKOしてやるもんね。」
強盗…?といった表情で衛子はジュンのほうを向き、お茶で口を湿してから言う。
「退屈しのぎに強盗が入ってきてほしいなんて思うのは、せいぜいあんたぐらいなものよ。今の言葉を警監閣下や遠藤次席、内藤さんが聞いたら…、怒り出すわよ。「我々の仕事は犯罪を予防することである。それをなんだ、事件が起こることを望むなんて」とね。」
ジュンは返す。
「おいおい、誤解しちゃあいけないよ。俺だって、好きこのんで事件が起こってほしいと思っているわけじゃあないし。」
「その点は、わかっているわよ。」
ジュンと衛子。双子で体格、顔つきはそっくり、外見上での見分けは髪型でしかできないが、考え方や性格はまったく違う。ジュンは男口調、一人称は「俺」でいささか荒っぽいのに対し、衛子はのんびりおっとりだが、戦わなくてはならないときには「君子豹変」で180度変わり、常人よりずば抜けた力とボディーを利用して戦う。
戦いかたも正反対で、ジュンは自らの体が武器だから丸腰、手には強化された黒革のグローブ、足は強化された編み上げブーツだ。もっともふだんの行動中には、黒革のグローブでは威圧感があるので、白の木綿の手袋、夏はブーツだと暑いので、くるぶしぐらいまでの編上げ靴を履いている。
一方、衛子は警棒、警杖といった棒術で戦う。帯革で木製警棒を吊るときもあれば、今日のように伸縮式の特殊警棒をスカートのベルトで装備し、上着で隠すときもある。
おまけに制服の着こなしも違う。ジュンは無帽でいることも多く、春や秋に着装許可される合服のワイシャツの袖をよくまくる。一方衛子は上着のボタンをあける、ワイシャツ袖まくりをする…といった着装規定に反する着方は、少なくとも勤務中にはしない。
二人がたわいもない世間話をしているところへ、守衛所長の犬井忠治警曹が入ってきた。
「二人とも巡回に出てくれないか。そろそろ時間だから。」
「はい。」

おもちゃ売り場に行くと、いつもこの施設を遊び場にしている近所の子供たちがいた。エスカレーターを逆さに走りあがってみたり、エレベーターの「非常呼」ボタンを押すようないたずらをするかと思えば、店内でかくれんぼや鬼ごっこをやっている。基本的には黙認するが、あまり度を超せばどやしつけることもある。
「あ、ジュンさんに衛子さんだ。」
「お、悪ガキトリオ、何をやっているんだ?」
「そういば、衛子さんスプーン曲げられるって、本当?」
「ええ、そうよ。曲げてみせようか?」
制服のポケットからスプーンを取り出すと、衛子は曲げてみせる。といっても彼女が超能力を使っているわけではない。指の力だけで曲げてしまうのだから、恐れ入る。
「うわ〜、すげえや。」
「衛子さん、エスパー?」
衛子は、くすりと笑って返す。
「ま、秘密はおいおい話して聞かせるわ。あたしたち今は仕事中なんだ。また今度ね!」
悪ガキトリオの間でのジュンと衛子は、「腕っ節の強い、大人のお姉さん」といった存在のようだ。
二人は巡回を続け、衣料品関係のコーナーにやってきた。
「ジュンもたまには、ジャージやスエット以外のもの、着てみたら?」
さりげなく品物に目をやった衛子が言うと、ジュンは返す。
「ジャージやスエットのほうが動きやすいから。それに、あそこに誰が来るってわけでもなし。ま、いざとなったら寮のみんなかあんたに時間稼ぎしてもらうし。」
「そお…?」
ついで一階、食品売り場。お菓子のコーナーでは、同僚の長井美幸警士に出会った。もちろん彼女は非番だから、私服だ。
「あら、ジュンに衛子。」
「なんだいなんだい、いい年して食品玩具集めかい?」
「いい年とはお言葉ね、ジュン。」
美幸の手に持った買い物かごには、歴代『ウルトラマン』シリーズのフィギュアのついたお菓子が入っている。
「サンプル屋の高村さんも、こういったの好きですよね。」
衛子が言うと、美幸は返す。
「変身前のキャラのフィギュアが35分の1なのは、高村さんが、「アラシ隊員をタミヤの61式戦車を組み合わせたら面白いだろうねえ」と担当者に言ったかららしいわよ。」
ジュンが次ぐ。
「確か、乾パンにくっついてきた、歴代の制服警察官、消防官のフィギュアセットも、あいつが35分の1にしたらいいと言ったら通ったってね。」
腕時計を見て、衛子が言う。
「おもちゃ売り場で模型をじーっと見ているあの子も、将来は模型屋になるのかしら。じゃ、巡回に戻るわ。」
「あ、引き止めて悪かったわね。」
巡回から戻ってくると交代時間だったので引き継ぎを行い、二人は、本社から少し離れたところにある寮に帰る。
警備部の寮でも、ジュンと衛子は同じ部屋。隣では一足先に戻ってきていた美幸が、先ほどの大人買いをした食品玩具が余ってしまって、あした守村義衛に分けようかなどと言っているのが聞こえる。
「美幸、大学時代には自主制作の変身ヒロインものを撮っていたんですって。だからああいうの好きなんだって。」
衛子が言うと、ジュンは返す。
「へええ、なるほど。だったらあたしらヒロインにした作品でも作ってもらおうかね。怪力ガードウーマンコンビってことでさ。」
「『逮捕しちゃうぞ』みたいな展開になるわね。」
私服に着替えた二人は、連れだって近所のスポーツジムへ行く。あのボディを維持するため、毎日鍛えていなければならない。
鍛錬を終えて戻ってきた二人は、普通の女性と同じすごしかたをする。
二人してテレビを見ていると、不意に衛子がいった。
「ねえ、ジュン。」
「何だい、衛子」
「インストラクターの都築さんと話し込んでいる、黒髪ショートカットの人、知っている?」
「ああ、大川だろ。あいつも体が資本だから日々鍛えてなきゃならないが、利用料は滞納、付属の風呂を銭湯にしていると言ってもいいって、涼さんこぼしていたっけ。」
ジュンの言葉に、衛子は次ぐ。
「大川の姿を見ていたら、なんだか考えちゃった。あたしたち、なんだか矛盾した組織よね。一方で世界征服を狙い、もう一方では社会に貢献しているんだから。」
二人は秘密結社世界征服屋近衛部隊では本部付で、本部中隊を率い、隊長のエンプレス・ガーディアン、副長のブラックナイトを護衛する。
読者諸賢はご存じの通り、秘密結社世界征服屋は、世界を制服で征服することを最終目標にして活動しているが、その一方で資金源として制服に特化したアパレルメーカーにして小売店、問屋にリース・レンタルまで行う世界制服屋と、近衛部隊を改編した地域密着の警備会社、世界制服屋警備を経営している。矛盾しているといえば、矛盾している。
ジュンは返す。
「ま、俺らがうだうだ考えていたってしかたない。近衛部隊の俺らは、陛下と閣下を守る任務を全うするのみさ。それより明日は泊まり勤務だから、早く寝ておかないと。それじゃおやすみ〜。」
「おやすみ。」
守谷ジュンと守谷衛子。双子の姉妹は矛盾を抱えつつ、今日もまた、平安と女帝を悪しきものから守る。