粉砕伝説ジュリバン外伝
第72話
〜素朴な疑問〜
世界を制服で征服することが最終目標の、秘密結社世界征服屋。世を忍ぶ仮の姿は、制服専門の小売・卸・中古の売買から製造直販、リースにレンタル…と、アメ横、浅草橋、秋葉原などにある、複数の店を統合したような業態の世界制服屋を経営し、子会社には近衛部隊を基にした警備会社の警備部、一般部隊を基にしたレストラン経営の食堂部を有している。
会社だから、各方面から手紙、葉書、小包がやってくる。取引のある会社からは、新製品案内のカタログや見本、見積もりや納品書など。銀行からは決済の通知。個人名では制服屋への買取依頼など通販関係。古物を扱う関係で制服屋宛、警備業を指揮監督する関係で、警備部宛で東京都公安委員会からも文書が来る。
文書を受け取るのは、営業時間は制服屋の受付、それ以外は警備所である。今日は月曜。勤務の引継ぎまで間があるので、当直の長井美幸警士は、本部、警備部、食堂部と、おおまかな仕分けをしておく。
(…矛盾した組織なのよね、あたしたち…。)
東京都公安委員会の封筒を見て、美幸は思う。一方では古物商と警備業という、生活安全課が所管する事業をやっているかと思えば、世界を制服で征服する…という、公安課、警備課が知ったらただごとでは済まないようなことを一方では計画している。世間に迷惑をかけるようなことを目標にしているかと思うと、世の中の役に立っている。まことにもって、矛盾した組織である。
受け取った文書の中に、子供の字で書かれた葉書が一枚入っていた。
しばし見て、美幸はつぶやく。
「これは、あの二人に見せたほうがいいわね。」
それから数日後。舞台は秘密結社世界征服屋の基地。
ベナギュウのコードネームを持つ、秘密結社世界征服屋の誇る怪人・タウロ。黒毛和牛がベースの、和風ミノタウロス。近衛部隊隊長のエンプレス・ガーディアンや、闘将・サンディラほどではないが、常人を上回る怪力を誇る、マッチョなボディを目立たせるべく、オリーブドラブのカーゴパンツと編み上げブーツ以外は、何も身に着けていない。
そのタウロ。休憩室のベンチに腰かけ、腕組みをして考え込んでいる。休憩室だから、近衛部隊、一般部隊が休憩しているし、征服屋共済組合経営の、自販機や売店もある。
一般部隊は特撮物の下っぱでございという姿、近衛部隊は一世代前の警察官と似たデザインの制服だから、背景は戦隊物と『逮捕しちゃうぞ』、『ボクの街』など、制服警察官が出てくる作品を撮影中のスタジオを思わせる。熱川進は高木聖大を地で演じられるし、守谷姉妹のジュンは、無帽で冬用ブラウス腕まくり、異姓同名の長井美幸は三つ編みにしているから、なおさらだ。
「う〜ん…。」
「何を考え込んでいるんだよ、お前らしくない。借金の返済期限か?」
振り向くと、コンビを組む、ケンタウロスのベナラクサことタングスだ。彼も筋肉質のボディを目立たせるべく、上半身裸で、西部劇のガンマンを思わせる、ブルージーンズにチャップス姿。
「これに、どう返事しようかと思ってね。」
タウロは、葉書を渡す。
葉書は、美幸が見つけた子供の字のもの。内容は、かっぱ橋道具祭りのステージで、牛耳アマゾネスのミノア、馬耳ポニーテールのカウガールのシノルと「美女と野獣」のペアを組んで、サンディのいる劇団の戦闘員相手に、ヒーローたちと立ち回りを演じたときの姿を見た子供が、二人にあてたファンレター。
それだけならいいが、返事に窮する一文が。
なんでベナギュウ、ベナラクサは、ズボンしかはいていないんですか?夏におなかを出していると、おなかがいたくなります。うわぎを着ましょう。
「うーん、これは俺も考え込んじまうなあ〜。」
葉書片手にタングスが言うと、タウロは返す。
「だろう?いいかげんな答えを書くわけにもいかないし、困っていたんだよ。」
たかが子供の質問なのだから、部下に書かせればいいではないか…と思うだろう。が、戦闘員では、たかをくくって適当に済ましかねない。秘密結社世界征服屋は、子供のしようもない疑問も、「おおきいおともだち」の質問にもまじめに答える。
タングスは、対面する位置に座り、先ほど買った自販機のお茶を飲む。
「ところでさ、何で俺らは上半身裸なんだ?今まで深く考えたことがないけど。このハガキを見て、気づいたよ。」
「言われてみると、そうだよな。俺ら獣人は、毛むくじゃらの全裸か、下半身に破れたジーンズだもんな。もっとも、亜人の耳娘は、人間と同じデザインの服を着るけど。」
人間が化けて獣になる、狼男などのライカンスロープの類は男がほとんど。化けたときには全裸の毛むくじゃらか、よくて上半身裸につんつるてんで破れたジーンズだ。ちなみにシノル、ミノアの二人は亜人なので、変身しても牛耳、馬耳に尻尾がつく程度だから、人間とさほど変化がない。
タウロが言う。
「俺の知りあい、「前門の虎、後門の狼」コンビも、変身すると全裸になるから、人間に戻ったときどうするかいつも頭を悩ませているんだ。変身が解けると全裸だから、他の人に見つかると変質者扱いされちまう。いつだったかは、パトロール中の警察官に出っくわしたから、追いはぎに遭ったと言い逃れして、着るものを借りて帰ってきたってさ。」
「追いはぎに遭ったか…、考えたな。だが、下着や履き物まで、文字通り身ぐるみ奪う加害者は、一体何者かと人相風体を詳しく聞かれるし、二回目以降は苦しくなるね。合理的に説明できないものか…。それはともかく、言われてみると、なんでライカンスロープの女はいないんだろう。」
「メスのミノタウロスって、牛耳娘で巨乳っていうのならネット上で見たことあるが、牛の頭に人間の体というのは、正統派RPGでは見たことないな。」
「絵的にまずいんじゃあないか?すっぽんぽんになっちまう。それに、かわいくない。」
「毛むくじゃらにしちまえば、エロくないぞ。着ていた服の破れ加減によっては、うまく隠せる。チラリズムとやらも使えるしな。女性のばあいは、獣の度合いにもよるし。」
タングスの言葉に、タウロは手を後頭部で組んで、返す。
「難しいことは、俺にはわからねえよ。ところで、返事はなんて書く?」
「さて、どうやって返事したものか…。」
二人して考え込んでいるところへ、近衛部隊の、熱川進警曹ことハーロウ・アイゼンハートが話に入ってきた。
「おう、どうした。お盆のお供物コンビ!」
「お盆のお供物はひでえなあ。それはともかく、ハーロウもこれを読んでくれ。」
彼も、近衛の制服姿以外に、鍛えた体を武器とも、防具としても戦う「傭兵隊長」になる。
葉書を読んでから、ハーロウは言う。
「俺らは鍛え方が、常人とは違うと書いたらどうだ。二人は怪人だから、なおさら説得力があるだろうよ。」
「ハーロウも同じか〜。」
「これも、一つの方法だね。だけど、もう少しひねりがほしいなあ。」
近衛部隊の清水清司警尉こと、エフスキー・ラズームが話に加わる。
「冬でも相撲取りはまわし一本、レスラーやボクサーは短パンだけで平気だったり、体育の時間に半そで半ズボンでいても平気なのと同じだと言えば、納得してくれるだろう。ああいう人は、鍛えているから平気なんだよ。」
彼はハーロウとは正反対。白銀の鎧姿で部下を率いて戦う「騎士隊長」。ハーロウと違って、理知的だ。
「おっ、さすが騎士隊長。言うことが違うねえ。」
というわけで。ミノタウロスとケンタウロスのコンビが、知恵を絞って書いた返事は、以下のとおり。
高広君へ。
お手紙どうもありがとう。怪人のベナギュウだ。怪人の俺らを応援してくれて、とてもうれしい。怪人やっててよかったなと思う一瞬だよ。で、心配してくれた、俺らが上着を着ていないこと。これは、おすもうさんやボクサーが、冬でもまわしや半ズボンだけでいられるように、俺らも鍛えているからなんだ。俺らの体を見ればわかるだろう。だから、君も好き嫌いなく食べて、運動しないとだめだぞ。
「これで、納得してくれるかなあ?」
ファンサービスで、ミノア、シノルも交えて撮影した、サイン入りブロマイドなどを封筒に入れながらタウロが言うと、タングスは、返す。
「相手が、子供のふりをした「おおきいおともだち」でなければ、信じてくれるだろうよ。」
さて。それから数日後。
昼休み。警備部の近くの公園の、おりから満開の桜の木の下で、手作り弁当でデートとしゃれ込んでいる園田方也、長井美幸のカップルのところへ、子供がやってきた。
「美幸おねえちゃ〜ん!」
「あら、高広君。どうしたの?」
「ベナラクサとベナギュウから、僕が質問したことの返事が来たんだ。」
例の葉書を書いたのは、園田と美幸がよく遊んでいる近所の子供、高広。いつだったかに、「なんでベナギュウ、ベナラクサは上半身裸でも、おなかを壊さないの」と質問されて、二人は答えられず、直接聞いてみてはと勧めている。
「やっぱり、鍛えているから平気なんだって。僕もがんばらないと。」
高広の言葉に、美幸は笑顔で返す。
「そうそう、その意気でいかないとね。」
「ところで、どういう返事だったんだい。見せてくれる?」
「はい。」
園田は、便箋を受け取ると、読みあげる。
「『で、心配してくれた、俺らが上着を着ていないこと。これは、おすもうさんやボクサーが、まわしや半ズボンだけでいられるように、俺らも鍛えているからなんだ。俺らの体を見ればわかるだろう。』…。鍛えているし、ボクサーや力士が冬でもあの姿でいるのと同じか…。なるほどね。僕も、この説を採りたいね。」
特撮物が好きな、園田、長井も、この結論に納得する。
これで、「ベナギュウ、ベナラクサが上半身裸でいられるか」は決着したはずだが…。
ランチタイムと夕食時の合間の休憩時間。世を忍ぶ仮の姿。世界制服屋食堂部のレストラン・ユニッツの事務室では、人間に化けた、牛山充ことベナギュウは、白衣姿で考え込む。
「やっぱり俺らも、それなりに上着を着込んだほうがいいのかなあ?」
同じく、ギャルソン・スタイルの馬野健太ことベナラクサも。
「鍛えたボディを目立たせなきゃならないんだから、チョッキがいいかな。素肌に革ジャンパーなんてのも、また絵になる。袖は取っ払って、肩口に少し残っているぐらいにしておくと。で、ジッパーの間からちらりと見える、発達した大胸筋。チラリズムとやらで、腐女子の人気が取れそうだ。」
「それは俺らが人間の姿でだろう?怪人姿じゃあねえ。」
「いや、獣人が好きな女もいるぞ。」
「いらっしゃいませ〜!」
「…二人だけど。禁煙席で。」
ウエイトレスのシノルこと、白銀忍の声で、二人は我に帰る
ウエイトレスのミノアこと三輪ゆたかが、やってきた。
「客寄せのアイデアか新メニューを考えているのかと思ったら。あんたたち二人が怪人になったときの衣装?そんなの上半身裸でジーンズかカーゴパンツで十分よ。いっそのことシンプルにふんどしにしてもらう?お客さんが来たわよ!」
「おっとこうしちゃいられない。仕事に戻らないと。」
「ふんどしはひでえなあ…。いっそのこと、白衣で出るか?」
葉書の結論に納得していないのは、返事を書いたとうの本人だったりする。