粉砕伝説ジュリバン外伝外伝第79話 〜3月14日の昼休み〜

粉砕伝説ジュリバン外伝
外伝第79話
〜3月14日の昼休み〜


 365日が仕事の警備業。イベントの日も関係ない。
 しかしそれは、制服を着て勤務している間。休憩時間には、普通の男女に戻る。

 片側一車線を作業で塞ぐなど、公道上で交通を遮断せず、道路工事、配線工事等を行う際に、車両、歩行者の誘導を行う警備三課、通称交通課が行う交通誘導警備の応援に、園田方也警士部長と長井美幸警士は、出動していた。
 今日の現場は、渋滞の抜け道として知る人は知っている、片側一車線の道路。交通量は少ないが、駅が近いので歩行者が多いうえ、駅前の商店に納品するトラックや、駅前で客待ちしているタクシーや路線バスも来るから、気が抜けない。
 二人は、高所作業車二台と資材運搬のトラックの計三台で編成された作業班の前と後ろに立ち、紅白の手旗と警笛を使い、誘導する。
 交通誘導警備は、一歩間違えば正面衝突事故になる。一瞬の油断も、許されない。


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 交通課は、受傷事故防止のため、白いヘルメットを被り、ドライバーから目立たせるため、白い警笛吊り紐に同じ色の帯革と、白脚絆を装備する。警備一課が警棒を装備する位置には、図嚢を思わせるデザインの革鞄をつける。女性の長井も、いつもの警備一課で勤務しているときの、アウトポケット
4つボタンの上着にタイトスカートの、一世代前の婦人警察官と似たデザインの制服ではなく、男性と合わせが違うだけの、交通誘導員用の制服姿で、男性と同じデザインの制帽だ。出発前の点呼のとき、園田は、「男装の麗人」状態の長井に、見とれてしまった。宝塚の男役のように、着装が絵になっていたからだ。
 応援出動の場合、いつもはどちらか一方が本店警備所に残り、一人が三課の応援に出るが、今回は、二人でペアを組むことができた。
午後三時の休憩時間。二人はヘルメットを脱ぎ、近くの公園のベンチに座る。今日は晴れて暖かいので、日中は外套なしでも過ごせる。
 「缶コーヒー、買ってきたよ。」
 園田がポケットから、缶コーヒーを取り出した。
 「ありがと、園田君。そういえば今日は、ホワイトデーよね。」

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 長井が、缶コーヒーを飲みながら言うと、園田は、腰の白い革鞄から、かわいらしくラッピングした包みを取り出した。
 「ホワイトデーだろ、今日。この間もらったお返し。」
 長井も、さりげなく受け取る。
 「ありがと、園田君。」
 この間、わずか数十秒。
 他のカップルなら数時間はかかるようなシチュエーションだが、二人には、数十秒で十分だ。
 二人は、『鉄道員ぽっぽや』の佐藤乙松が、最愛の妻が入院する日も、いつもの通り通票を運転士に渡し、転轍機を操作して信号を変えるまでの数分間で意思を疎通させたのと同じく、長い時間と修飾語のついたやりとりを必要としない。
 「おーい、そろそろ始めるぞ〜!」
 電工の作業班長が、手を振っている。休憩時間終わりだ。
 「さぁってと、休憩時間は終わりだ。」
 園田が立ち上がると、長井が続く。
 「あと
2時間、がんばろう。」

 午後
5時になれば勤務が明ける。多少時間は前後するかもしれないが、勤務が明けて私服になれば、一組の男女だ。
勤務の合間の休憩時間、一瞬、普通の男女に戻った二人は、ヘルメットを被り、着装をお互いに点検する。
再び、職業人としての時間が始まる。