粉砕伝説ジュリバン外伝
外伝第86話
〜犬塚悠希が来た理由〜
あたしは、秘密結社世界征服屋近衛部隊の警曹で、世界制服屋警備部警備三課の警士だけど、根っからの警備部の部員ではない。衛恵さんと内藤さんに、スカウトされたのだ。
前いた警備会社は、大手の下請けで雑踏警備、交通誘導警備を行うぐらいの規模で、独自に仕事を受けても、常駐警備、保安警備、貴重品輸送警備はできない、中小警備会社。新人研修と採用後3か月ごとにやらなければならない研修は警備業協会にまかせっきり。しかも社員のほとんどが五十代、六十代の年寄りで、若手はアルバイト。着装もなんでもありで、各人が着やすいよう、動きやすいように装備品をつけている。
数少ない、独自に引き受けてきた仕事は、コスプレイベントでの雑踏整理。これはなぜか、毎月声がかかる。
コスプレイベントの雑踏整理…といったって、全国区の夏冬コミックマーケットのような人数が来るほどではない。ビルの1フロアを借り切って、撮影スペースと休憩所、それに受付とコスプレイヤー相手の店が出店する程度のイベントで、月に4回ほど、各地の会場を借りてやっている。主催はそこそこ名前の通ったところだ。
あたしたちが立番するのは、受付前、屋外会場への出入り口、一般のオフィスビルやテナントに入る人のための出入り口。受付前と屋外会場への出入り口では、コスプレイヤーが衣装のままで立ち入り制限区域外へ出て行かないようにするのと、コスプレイヤー、カメコ、それにこの手の世界を知らない一般の人の案内と対応。
それに、女子更衣室前では、盗撮と盗難予防。内部の巡回はイベント開催側に任せ、行わない
右、前いた会社での制服姿の犬塚悠希。左、世界制服屋警備部の制服姿の犬塚悠希
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それに対し、男性陣は違う。女装レイヤーはともかく、運輸通信系制服や軍装、官公庁の制服姿のレイヤーは、本物に袖を通した人に負けないよう、挙措動作もしっかりしている。国鉄の駅長の制帽を被り、黒ラシャの外套を着て、『
それに、軍装レイヤー、官公庁系レイヤーで、あたしに対し敬礼してくれるときがあるので、答礼するが、動作はあたしのほうが間違っているのではないかと不安になるぐらいだ。あとで聞くと、運輸通信レイヤーは別の会社の本物、軍装・官公庁レイヤーは、経験者や、類縁職種の警備員なので、敬礼動作はお手の物というわけだ。
ゲームやアニメ、特撮のキャラに扮している人も、本物ではないかと思わせる身のこなしだったりする。こちらは、見られることを意識しているし、キャラクターや職業になりきっている。
そんなある日。
開催前の主催側との打ち合わせで、びしりとした制服姿の一団を見た。

左より、私服部隊の守谷衛子警長(剣士)守谷ジュン警士(格闘家)、
制服部隊の清水清司警尉(左、短靴姿)、熱川進警曹(右、編上靴姿)
私服部隊の隊長、近藤衛恵警監(右)と制服部隊の隊長、内藤武士警正(左)
共に警備に当たる、コスプレ集団・レイヤーズの会員。
左より、昭和27年式警察官制服の守村義衛巡査部長、昭和32年式制服の高村宗光巡査部長、昭和43年式制服の宗村高光巡査部長、
昭和51年式婦人警察官制服の鳴海悠子巡査部長。
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「本日、警備を依頼された世界制服屋警備部です。私服部隊の隊長は、小職近藤衛恵、制服部隊の隊長は、内藤武士警正が担当します。」
警備服のブラウスを袖まくりしているのは、アニメ版『逮捕しちゃうぞ』の辻本夏実を意識しているとか。制服部隊の隊長、内藤武士は警察官かと思わせるような着装で、部下も同じだ。私服部隊は国鉄の制服姿や、見せる鎧姿の、一昔前のファンタジーRPGのアマゾネスなどなど。相手を油断させるためなんだそうだ。
全員二十代から三十代で、うちとは大違いだ。
ついで、制服姿でショートカットの女性が次ぐ。
「同じく、会場警備を担当する、官庁系コスプレイヤーの集団、コスプレ集団・レイヤーズです。隊長は会長でもある犬飼高美。副長は湯浅昭弘が担当します。」
こちらは、歴代の警察官の制服姿。いずれも、制服姿が絵になる人ばかりだ。あたしたちと区別するため、モデルガンとはいえ拳銃を持っていて、拳銃吊り紐は白。警備部は警笛吊り紐は臙脂で、腰ポケットに入れている。あたしの会社は黄色で、胸ポケットに入れる。それに、警備部、レイヤーズはびしりとした着こなしなのに対し、あたしたちは各人着装に統一性がないので、区別できた。
かくてコスプレイベント開始。あたしたちは所定の位置に立ち、レイヤーズはコスプレイヤーに混じって警らと立番。警備部も立番と警らを行っている。あたしは一般の人の邪魔にならないようコスプレイヤーを誘導し、導線を確保していた。
コスプレイベントは何事もなく終わった。これからが本題だ。
直帰の連絡を済ませて会場を出ると、さっきの内藤・近藤ペアが、待っていた。
「犬塚さんね。このあと、あいている?」
「何も用事はないけど…、何か?」
「立ち話もなんだから、どこか座れるところで話したいことがあるのよ。」
男女ペアで誘うとは、何事だろうかと一瞬思った。
コスプレイヤーの知らなさそうな、昔からあるもんじゃ焼きの店に入って、席についてからしばらくして、衛恵さんが切り出した。
「今日のコスイベントでの導線確保は、たいしたものね。」
「そんなほめられるようなもんじゃ、ないですよ。」
内藤さんが次ぐ。
「いや、手際がいいね。他の仲間は、もたついていたからさ。」
これは事実。なんたって年はいっているし、コスプレイベントの何たるかもわからないような連中だ。
それからお互いの待遇だとか、同じ警備員同士の苦労話が続いた。
同業者にしかわからない、苦労話をしたかったのかと思っていたところ、衛恵さんが言った。
「ね、悠希。あなたの腕が今、世界制服屋警備部には必要なのよ。今の会社に不満があるなら、うちに来ない?」
今の会社は、未来性もなさそうだ。アルバイトで入り、長くいる気もなかったが、いつの間にか正社員になり、古参になっていた。
世界制服屋警備部は、時々求人広告を見るので名前は知っていた。
規模は小さいが、常駐警備や貴重品輸送警備もやっている。それに、身分は民間人とはいえ、警察官の職務の一部を行っているという信念を持っている二人に、あたしはかけてみようと思った。
「警備部の一員にしてください。」
「そう答えてくれると思った。」
というわけで、前の会社での残務整理が終わった翌年1月、世界制服屋警備部に正式に採用。元職なので警備練習所で3か月の訓練を受け、4月から正式に勤務につくようになった。
入所式でびっくりしたのは、衛恵さんは警備部の社長、最高位の警監で、内藤さんは制服での常駐警備を行う警備一課の課長兼副長の警正。さらに、コスプレ集団・レイヤーズの会長の犬飼高美さんは、世界制服屋グループの会長なのだ。
(トップじきじきに、あたしに声をかけてきたわけ…!)
着装にルーズだった前の会社と違い、警備部ではちょっとした乱れでも注意されるのには驚いた。同じ警備会社でもこうも変わるのかと思わされた。それに、法律と術科の講習。ないのは拳銃操法と警職法だけといわれるだけあって、警察学校で巡査として採用されたときに受けるのと同じ中身で、大変だった。術科は自信があったが、何しろこっちは中学を出てから肉体労働系の仕事ばかりだったから…。
ここで、秘密結社世界征服屋近衛部隊への勧誘も受けたが、そっちについては、また次回ということにする。
世界制服屋のトップ三人に、あたしの姿を見られていたとは…。うかつな行動はできないなと思わされた。